10人のオペラ座若手ダンサーがライヒの曲とともに生き生きと踊ったケースマイケルの『レイン』
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Anne Teresa de Keersmaeke "Rain"
『レイン』アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマケイル:振付
2011年にレパートリー入りしたアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマケイル振付の『レイン』が再演された。2011年と違ってエトワールは一人も参加せず、プルミエ・ダンスール、プルミエール・ダンスーズ、スジェ、コリフェ、カドリーユの若手ダンサーによって上演された。
天井から吊り下がった縄のすだれで構成された円筒形の空間。その右側手前が開かれている。床にはさまざまな色で引かれた線が交差しているが、平土間の観客には見えない。途中でダンサーが座る透明の椅子を別にすれば、何度も取り替えられる衣装、生演奏によるスティーヴ・ライヒの音楽、同じ音楽の流れに即して変化する照明、という要素だけ。観客はダンサーと同じ音を聞き、同じ光を目にしながら、ひたすらダンサーの動きにすべてを集中することになる。
© Opéra national de Paris / Benoïte Fanton
当夜の出演者のうち、ヴァンサン・シャイエ、ニコラ・ポール、ダニエル・ストークスの男性三人とヴァレンティーヌ・コラサント、ミュリエル・ジュスペルギ、レオノール・ボーラック、アメリー・ラムルーの四人は、すでに2011年にこの作品を踊っている。今回クリステル・ガルニエ、セ・ウン・パク、ローラ・バッハマンが加わった。
7人の女性と3人の男性は、4人と6人、3人と7人、という二つのグループに分かれて動くが、主役と脇役という区別はない。
ケースマケイルはニュージーランドのクルスティ・グン(Kirsty Gunn 1960年生)の同名の小説に触発されて作品を作った。しかし、「おぼれた弟を若い女性が助けようとする」という「筋」を、観客が抽象的な作品から読み取ることはむずかしい。
© Opéra national de Paris / Benoïte Fanton
ダンサーの動きは、ケースマケイルが作った2分間の女性的なフレーズ(動きのパターン)とヤクブ・トルスコーズキによる2分間の男性的なフレーズとの組み合わせからできている。「女性フレーズ→逆行(同じフレーズを最後から逆方向に踊る)→男性フレーズ→逆行→出発点」というコースが基本形だ。女性フレーズを男性ダンサーも踊り、男性フレーズも女性ダンサーが踊る。「女性」はクラシック・バレエからの引用があり、「男性」は床へ崩れる動きが特徴的だ。
こうしたパターンがライヒの音楽のわずかな変化に応じて、螺旋のように動き続ける。遠くにいるかと思ったダンサーが目の前に来ている。
ダンサーは歩き、走り、ダンスする。歩きと走りの速度はさまざまで、同じパターンが繰り返されるダンスとも組み合わされている。
10人のダンサーが生き生きと動き回り、その放つエネルギーは皮膚からほとばしる汗とともに客席まで伝わってきた。
ダンサーたちはスタンディングの観客からの大きな歓呼に何度も呼び出されたが、最後に舞台袖で見守っていたケースマケイルがミュリエル・ジュスペルギの手を引からて姿を現すと、一層大きな拍手が沸いた。紙には記されていない振付を新しい世代のダンサーに伝えるためにパリを訪れ、初日だけでなく、4回目の公演でもダンサーたちを見守っている振付家には頭が下がった。
(2014年10月28日 ガルニエ宮)
『レイン』© Opéra national de Paris / Benoïte Fanton(すべて)
音 楽/スティーヴ・ライヒ Music for 18 musiciens
振 付/アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマケイル
装置・照明/ヤン・ヴェルヴェイヴェルト
衣 装/ドリース・ファン・ノーテン
ジョルジュ・エリー・オクトース指揮アンサンブル・イクトゥス
シネルジー・ヴォーカルズ合唱団
音声エンジニア/アレックス・フォスティエ
出演ダンサー/
ヴァレンティーヌ・コラサント、ミュリエル・ジュスペルギ、クリステル・ガルニエ、セ・ウン・パク、レオノール・ボーラック、アメリー・ラムルー、ローラ・バッハマン、ヴァンサン・シャイエ、ニコラ・ポール、ダニエル・ストークス