人気のエトワール、デュポンとモロー、プジョルとガニオが競演したフォーサイス『ウーンドワーク1』他

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

Harald Lander " Etudes " /William Forsythe "Woundwork 1" " Pas/Parts "
『エチュード』ハラルド・ランダー:振付、『ウーンドワーク1』『パ・パーツ』ウイリアム・フォーサイス振付

パリ・オペラ座バレエ団の2014・15年シーズン最初のプログラムにはハラルド・ランダーとウィリアム・フォーサイスの作品が並んだ。
初日の9月20日はオペラ座バレエ学校の生徒を先頭に恒例のデフィレで始まった。7月のニコラ・ル・リッシュの引退に加え、マチアス・エイマン、リュドミラ・パリエロも怪我で不参加、エレオノーラ・アバニャートもおめでたといわれていて姿が見えない。2015年春で引退するオーレリー・デュポンの最後のデフィレでもあり、華やかな中にもちょっとさびしい感じも残った。

最初の演目は1950年代からメートル・ド・バレエ、バレエ学校長としてパリ・オペラ座で純粋なクラシック・バレエを正確に踊ることを厳格に教えたデンマークの振付家ハロルド・ランダー(1905・1971)の『エチュード』。ピアノ初級者が学ぶツェルニーの「練習曲集」(エチュード)は、将来のコンサート・ピアニストにとってのスタート地点だが、バレエでも5つの基本ポジションはクラシック・バレエ作品の踊りの土台にある。この相似関係に着眼したランダーが、リスエアがオーケストラ用に編曲した音楽をバックに、26の場面によって「ダンスの練習風景」として構成した。

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『エチュード』パケット、ジルベール、オファルト
© Opera national de Paris/ Sebastien Mathe

「シルフィード」の主役のバレリーナ、ソリストの男性ダンサー二人、白のチュチュのダンサーたち(この中には7月のヴァルナ国際バレエコンクールで銀メダルを獲得したばかりのオニール八菜の姿も見られた)、黒のチュチュのダンサーだち、目立たない色の衣装をまとった男性ダンサーたち、シルフィードたちが順次登場する。当夜は主役にドロテ・ジルベール、ソリストがカール・パケットとジョシュア・オッファルトと三人のエトワールが揃った。
序曲につづく第2場から第4場まではバーが置かれ、5つの基本ポジションにつづいてバーでの練習となる。第2場ではダンサーたちのシルエットがすっきりとした影絵となって浮き出た。
バーが取り払われた後は、アダージュ(第5場)からはじまって第25場の主役バレリーナとソロダンサー二人のマネージュを経て、フィナーレの第26場まで次第に難度が上がっていく。
コール・ド・バレエの若いダンサーたちの整然とした動きとともに、大きな瞳を見開いたドロテ・ジルベールのバレリーナとジョシュア・オファルトのソロダンサーが客席の視線を集めた。

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『エチュード』ジルベール、オファルト
© Opera national de Paris/ Sebastien Mathe

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『エチュード』ドロテ・ジルベール
© Opera national de Paris/ Sebastien Mathe

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『エチュード』カール・パケット © Opera national de Paris/ Sebastien Mathe

休憩後はこの秋、フランスのダンス界で大きくクローズアップされているウィリアム・フォーサイスの2作品だった。フォーサイスの作品は9月上旬にパリのシャトレ歌劇場でのリヨン国立歌劇場バレエ団の公演を皮切りに、パリ市立劇場、シャイヨ国立劇場など各地で続々と上演されることが決まっている。
2組のカップルによる『ウーンドワーク1』にはオーレリー・デュポンとエルヴェ・モロー、レティシア・プジョルとマチュー・ガニオという人気エトワール4名が揃い踏みした。
客席に背を向けた4人がトム・ヴィレムスの無機的な音楽(録音)に導かれ、15分の短い作品が始まった。フォーサイスが「ウーンド」とタイトルで明示しているように、ダンサーが互いに「巻きつく」「結びつく」「抱き合う」「支えあう」といったムーブマンが組み合わされていく。滑らかで優雅な2組のパ・ド・ドゥに目を奪われ時間の経過を忘れた。

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「 Woundwork 1」オーレリー・デュポン、エルヴェ・モロー
© Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

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「 Woundwork 1」プジョル、ガニオ
© Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

最後はフォーサイスがパリ・オペラ座バレエ団のために振付けた最初の作品である『パ・パーツ』だった。ソロ、パ・ド・ドゥ、トリオ、クワチュオールといった多様な組み合わせが絶えず変化する照明とヴィレムスのモダンな音楽に乗って繰り広げられ、一つの動きが刻々とヴァリエーションで形を変えていった。久しぶりに舞台に登場したジェレミー・ベランガール、切れ味のよい動きで抜きん出たマリー=アニエス・ジロという二人のエトワールと、オードリック・べザール、セバスチャン・ベルトー、オニール八菜といった将来が期待される若手ダンサーからほとばしるエネルギーが舞台に華やぎを与えていた。
(2014年9月20日 ガルニエ宮)

pari1410a_08.jpg 『パ・パーツ』ローランス・レヴィ、リディー・ヴェイユ
© Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

『デフィレ』
音楽 ベルリオーズのオペラ『トロイアの人々』より行進曲
『エチュード』
音楽 カール・ツェルニー
振付 ハラルド・ランダー
フレデリック・ラロック指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
出演 ドロテ・ジルベール、カール・パケット、ジョシュア・オファルト他
『ウーンドワーク1(Woundwork 1)』
音楽 トム・ヴィレムス
振付・装置・照明 ウイリアム・フォーサイス(パリ・オペラ座1999年)
衣装 ステファン・ギャロウェイ
出演 オーレリー・デュポン、エルヴェ・モロー、レテシア・プジョル、マチュー・ガニオ
『パ・パーツ(Pas/Parts)』
音楽 トム・ヴィレムス
振付・装置・照明 ウイリアム・フォーサイス(パリ・オペラ座1999年)©
衣装 ステファン・ギャロウェイ 
出演 
(ソロ)ローレーヌ・レヴィ
(パ・ド・ドゥ)マリー=アニエス・ジロ、オードリック・べザール
(トリオ)ノルヴェン・ダニエル、アウレリアン・ウエット、ジュリアン・メザンディ
(ソロ)ジュリアン・メザンディ
(クワチュオール)マリーヌ・ガニオ、ポーリーヌ・ヴェルデュセン、ジェレミー・ベランガール、シリル・ミティリアン
(デュオ)ステファニー・ロンベルク、ジュリアン・メザンディ
(ソロ)リィディー・ヴァレーユ
(トリオ)マリー=アニエス・ジロ、オードリック・べザール、セバスチャン・ベルトー
(セクスチュオール)ステファニー・ロンベルク、マリーヌ・ガニオ、ポーリーヌ・ヴェルデュセン、オニール八菜、ジェレミー・ベランガール、ジュリアン・メザンディ、シリル・チティリアン
(デュオ)ローレーヌ・レヴィ、リディー・ヴァレーユ
(ソロ)オーレリアン・ウエット
(トリオ)ローレーヌ・レヴィ、リディー・ヴァレーユ、セバスチャン・ベルトー
(ソロ)オードリック・ブザール
(パ・ド・ドゥー)エヴ・グリンツタイン、ジェレミー・ベランガール
(ソロ)セバスチャン・ベルトー
(パ・ド・ドゥー)ノルヴェン・ダニエル、オーレリアン・ウエット
(クワチュオール)ステファニー・ロンベルク、ポーリーヌ・ヴェルデュセン、ローレーヌ・レヴィ、シリル・ミティリアン
(クワチュオール)ノルヴェン・ダニエル、オードリック・ブザール、セバスチャン・ベルトー、オーレリアン・ウエット
(フィナーレ)出演ダンサー全員

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『パ・パーツ』ジェレミー・ベランガール
© Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

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