優れた音楽と見事に共鳴するムーヴメントによるケースマイケルの素晴らしいダンス3作品

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Quatuor N°4" "Die Grosse Fuge""Verklärte Nacht" Anne Teresa de KEERSMAEKER
『弦楽四重奏曲第4番』『大フーガ』『浄夜』アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル:振付

 4月27日から5月12日までガルニエ宮でベルギーの振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが振付けた3つの作品が上演された。2015年10月のプログラムの再演である。
最初が『弦楽四重奏曲第4番』(1986年初演)。2015年にはセ・ウン・パク、ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、ローラ・バッハマンという組み合わせを見た。ローラ・バッハマンは2シーズン前からローザスで活動しているが、今回もパリに戻って同じメンバーで踊った。
5月12日の公演はスジェのオーレリア・ベレに、クレール・ガンドルフィ、カミーユウ・ド・べルフォン、藤井美帆とカドリーユの三人が加わった。まずダンサーが音楽なしで動き始め、途中からパリ・オペラ座管弦楽団のコンサートマスター、フレデリック・ラロックをはじめとする弦楽奏者4人がバルトーク『弦楽四重奏曲第4番』を踊りに重ね合わせていった。
複雑で激しいバルトークの音楽にぴったりと寄り添うようにして、黒のショートスカートに黒の深い靴の4人のダンサーたちが実に多様な動きを繰り広げていく。弦楽四重奏ではヴァイオリン2人、ヴィオラとチェロの4人の奏者たちが互いの音を聴き合って一つの音楽を組み立てていくのだが、4人のダンサーもスカートの裾を持ち上げたり、髪を両手で撫で上げたり、といった少女らしい所作をお互いに視線を交わして見やりながら、一体となって踊る。変化に富んだムーブメントによって35分という長さを感じさせなかった。

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「弦楽四重奏」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「弦楽四重奏」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

『大フーガ』では黒のスーツの7人の男性を紅一点のアリス・ルナヴァンが先導役になって、床に急に崩れ落ちたり、床を転げまわっるかと思うと、再度、空中に飛び上がって回転して、ベートーヴェンの曲に横溢するエネルギーを身体が吸収したかのような生気あふれる動きによって、精緻な作品を構成していた。

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「大フーガ」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「大フーガ」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「大フーガ」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「大フーガ」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

休憩後の『浄夜』の幕が上がって、月に照らされた白樺の森が現れると、今回も客席から音にならないため息が漏れた。リヒャルト・デーメルの抒情的な詩にシェーンベルクが心を動かされて作曲した音楽は瑞々しい情感にあふれ、ダンスに恰好の書割を提供している。愛している男性とは別の男の子供を宿した女性を今回はアリス・ルナヴァンが演じた。罪の意識と新しい生命を感じる喜びが音楽と一体となった女性の動きから、自然に伝わってくる。
最初のカップルが姿を消すとともに、7人の女性と5人の男性が登場した。その中では長い金髪としなやかな肢体で女性的な空気を周囲に漂わせたレオノール・ボーラックが独自の輝きを放っていた。
優れた音楽を選んで、それと見事に共鳴するムーブメントを重ねたケースマイケルの振付は何度見てもあきない魅力がある。
(2018年5月12日 ガルニエ宮)

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「浄夜」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「浄夜」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「浄夜」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

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「浄夜」(C) Opéra national de Paris Benoite Fanton

『弦楽四重奏曲第4番』
音楽 バルトーク
振付・装置・照明 アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル
衣装 ローザス
ダンサー オーレリア・ベレ、クレール・ガンドルフィ、カミーユ・ド・べルフォン、藤井美帆

『大フーガ』
音楽 ベートーヴェン
振付 アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル
演出 ジャン=リュック・デュクール
衣装・照明 ヤン=ヨリス・ラマーズ
衣装 ナタリー・ドゥーフィス/ローザス
ダンサー アリス・ルナヴァン、ポール・マルク、アルチュス・ラヴォー、マチュー・ボット、アレクサンドル・ナルニアート、アントニオ・コンフォルティ、タケル・コスト、アンドレア・サーリ

『浄夜』
音楽 シェーンベルク
振付 アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル
装置 ジル・アイヨー、アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル
衣装 ルディ・サブンギ
照明 ヴィニチオ・ケリ
ダンサー レオノール・ボーラック、アリス・ルナヴァン、アリス・カトネ、リディー・ヴァレイユ、セヴリーヌ・ヴェスターマン、エミリー・アズブーン、カトリーヌ・イギンズ、アヴァ・ジョワネ、アルチュス・ラヴォー、フランチェスコ・ムーラ、マチュー・ボット、アレクサンドル・カルニアート、アントニオ・コンフォルティ、ジャック・ガツヴト

ジャン=フランソワ・ヴェルディエ指揮パリオペラ座管弦楽団

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