オペラ座ダンサー・インタビュー:マリ=アニエス・ジロー
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
- text by Mariko OMURA
Marie-Agnès Gillot マリ=アニエス・ジロー(エトワール)
新シーズン2016〜17の開幕公演で踊られ、好評を博したクリスタル・パイトによる創作『The Season's Canon』。54名が群れをなして踊る中、マリ=アニエスがエトワールの貫禄と力強さで群れを乱すことなく、作品のサイズを一回り大きく見せていた。
『The Season 's Canon』のゲネプロでは、この作品に配役されていないダンサーたちがカーテンコールでは熱狂したという。これが昨年末のウエィン・マクレガーの『Alea Sand』に次いで、マリ=アニエス・ジローが創作に参加した作品である。オペラ座の仕事と並行して、外部でさまざまなプロジェクトに関わっている彼女。10月22日から始まるバランシン作品のリハーサルの後、夜の『The Season 's Canon』の公演に備えて楽屋で一眠りするという前に、その多忙な近況と先の予定について語ってもらった。なお最近のラジオ番組でのインタビュー中、彼女は「オペラ座に入るのは、小さな女の子の情熱だから。そこに留まるのは、女性としての情熱だから」と語っている。
Q:クリスタル・パイトとの創作はどのように進みましたか。
A:7月に1週間、彼女との仕事がありました。オーディションですね。そこから彼女がダンサーを選び、9月に創作があったのだけど9月24日の初演まで3週間という短期間。進みは速かったですね。彼女はパリで始める前に、私にクリエートする部分と、男性ダンサーたちのダンス以外は創作を準備してきていました。彼女って、とても感じのいい人。ソフトでとても謙虚な女性よ。一緒に仕事をしたのはこれが初めてだったけれど、すごい才能の持ち主だと思います。今回のこのクリエーションは、とても大きな驚きでしたね。
The Season's Canon』
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:一人で踊ることが多いあなたが、このように群れの中で踊るのはどのような感じでしたか。
A:これは群れが踊るバレエです。それがこの作品の美しさを作り上げているのです。とても快適ですよ。私が一人で踊ることで作品が成功するというものではありません。私が踊るシーンはそれだけ十分に力強いもの。舞台の上で他のダンサーたちに伴われることは、嬉しいことです。とても美しいセンセーションが得られます。
『オルフェとユリディス』
Photo Laurent Philippe/Opéra national de Paris
Q:すでにあなたの『オルフェとユリディチェ』のアデュー公演が話題になっていますね。なぜこの作品を選んだのですか。
A:これはバンジャマン(・ミルピエ前芸術監督)と選びました。そして、オーレリー(・デュポン現芸術監督)もこのアイディアを維持することになったのです。
なぜこの作品かというと、ピナ・バウシュ本人からこれは私に伝承された作品です。それを観客に再び見せることは良いと思って。私はピナと直接仕事をした最後のダンサー。カールソンの作品や、ベジャールの『ボレロ』など他にも私のアデュー公演にふさわしい作品はあるのですけど・・・。アデュー公演は2018年4月6日です。
Q:その後も、もちろんダンスは続けて行きますね。
A:オペラ座にトレーニングには来るでしょうけど、舞台では踊りません。アデューというのは、私にとって1つの段階なのです。私のエトワール・ダンサーとしての人生が終わり、タイトルはキープしますがその席を空け渡すということです。
Q:すでにオペラ座の舞台以外でも踊る機会が多いですね。例えば、10月1日のパリ市の「ニュイ・ブランシュ(白夜/ パリ市内各所で開催された夜間の現代アートの無料イヴェント)」のように。
A:はい。この晩は、2作品を踊ったんですよ。セーヌ河のCygnes島で作品『Pas de coeur』のオープニング(注・22時30分)をしてからシャンゼリゼ劇場に行き、ここで『ボレロ』を5回踊りました(注・22時30分〜02時30分)。大勢の人が集まりましたよ。
『オルフェとユリディス』Photo Agathe Poupeney / Opéra national de Paris
Q:それはベジャールの『ボレロ』ですか 。
A:いえ、私が刑務所の留置人たちと共にラヴェルの音楽でクリエートした作品です。(注:『TU ES (je suis le corps qui exprime vos peines/ お前は(私はあなたたちの刑罰を表現する身体)。今年の2月から刑務所(注:アルル中央刑務所)に通って、長期拘留者たちとクリエートをしたものです。その作品をこの晩、初めて人前で踊ったのです。ジュリー・ギベールとのデュオで。彼らはパリには来られませんから、来週、私たちが刑務所に行って彼らのためにこれを踊ることになっています。
Q:「ニュイ・ブランシュ」が早朝に終わり、同日の10時にメゾン・ラビ・ケルーズというプレタポルテのブランドのファッション・ショーにも出演したそうですね。
A:はい。これはデザイナーから依頼があって、私がショー構成をすべて考えました。天井の高いスペースを活用して二段のステージを作ったのも、私のアイディアですよ。そして10名の同僚に声をかけました(注:レオノール・ボーラック、レティシア・ガロニ、マリオン・バルボー、シルヴィア・サン・マルタン、ファニー・ゴルス、シャルロット・ランソン、エミリー・アズブーン、ロール・アデライド・ブコー、ニノン・ロー、ロクサーヌ・スタジャノヴ)。彼女たちは一人3着をショーで発表しました。私は15分という短時間の間にソロもあったので、2着が限界でした。ただモデルが着て歩くより、私たちがしたように服に動きを加えると、服はより美しくみえますね。私、ファッションは好きなので、ショーの構成や舞台構成などにとても興味があります。
Photos : courtesy of Maison Rabih Kayrouz
Q:10月末にブローニュの森のルイ・ヴィトン財団で開催される「バレエ・リュス /絶えざる革命」でも踊りますね。
A:ええ、シェルカウイの『火の鳥』を踊ります。これは私とフリードマン・フォーゲルのカップルに彼が創作するもので、公演は10月29日、30日の二回あります。もちろん、もう稽古を始めていますよ。
Q:このように多くのプロジェクトに参加するのはなぜでしょうか。
A:新しいことをするためです。ダンスととりわけコンテンポラリー・アートを結びつけて、表現の新しいフォルムをクリエートするためにです。パレ・ド・トーキョーにはすでに私の創作作品が所蔵されているんですよ。つまり、私のアーチストとしてのキャリアはすでに始まってるのです。かなり前から、私はコンテンポラリー・アートに惹きつけられています。別の形、新しい形での私の自己表現法なんですね、詩人や彫刻家のようにアーティスティックな・・・。パリの美術館にはよく行きます。パレ・ド・トーキョー、ポンピドー・センター、ケ・ブランリー美術館・・・それにオルセー美術館やモード美術館にも。たくさんの美しい物を目にし、インスパイアーされたいので。
『シーニュ』photo Icare / Opéra national de Paris
Q:何かきっかけとなったことがあるのですか。
A:おそらくソフィー・カルと出会ったことからだと思います。彼女が自分の仕事、自分がしていることに、すっかり浸りきっている姿勢をみて、私もダンスについてその他の形態で発展させてゆきたいと刺激を受けました。10月15、16日にはフランスの南西部のポー市の劇場での舞台(注・『Brigadoon』)が待っています。これは作家のエリック・レイナルトと一緒の作品。彼のために2年前に私はダンスをクリエートしました。それを私が踊り、彼が語ってという、舞踏朗読といえばいいのかしら。過去になかった新しいコンセプトだから、どう説明していいのか・・舞台をみないとわかりにくいわね、これは。
Q:ルイ・ヴィトン財団での舞台の後は、年末のキリアン作品のリハーサルで忙しい時期になるのでしょうが、その間にも何かオペラ座外での予定はありますか。
A:11月は私のバレエ学校でのマスター・クラスがあります。
『ジェニュス』
Photo Laurent Philippe / Opéra national de Paris
『ジュエルズ-ダイアモンド』
Photo Icare / Opéra national de Paris
Q:その学校について少し教えてください。
A:イタリアのモンカルヴォというトリノから1時間半くらいの場所にできた地元の子供を対象にしたバレエ学校(注:Orsolina 28)で、名付け親の私は面倒をみているのです。クラシック・バレエを子供たちに教える学校です。食べ物はオーガニック、壁にはコンテンポラリー・アートが飾られ・・・という場所です。まだ始まったばかりで、先々いろいろなことを進めて行きたいと考えています。いずれは寮もできるでしょうし、広い敷地なので劇場や、フェスティバルなどいろいろな可能性のあるプロジェクトです。でも、まだ何も詳細を話せる段階ではありません。夏にもマスター・クラスを開催しました。日頃は現地でオーディションをした教師に任せています。
Q:引退後、今以上に忙しい人生になりそうですね。
A:そうですね。ただダンスだけやってきた人なら舞台に分かれを告げてお仕舞い、となるのだけど、私はダンスだけをやってるのではないので・・・・。きっと今よりずっとハードなスケジュールになるように思います。でも、良いことだわ。これが私の人生よ。
photo James Bort/ Opéra national de Paris
photo James Bort/ Opéra national de Paris