プリンシパルに昇格したばかりの加瀬栞がグルラーナを踊って喝采を浴びたENBの『海賊』
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ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
English National Ballet イングリッシュ・ナショナル・バレエ団引越公演
" Le Corsaire " Anna-Marie HOLMES 『海賊』アンナ=マリー・ホームズ:振付(マリウス・プティパ、コンスタンティン・セルゲイエフ原振付)
6月21日から25日までイングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)がパリ・オペラ座に初めて招聘され、アンナ=マリー・ホームズ振付の『海賊』を上演した。ガルニエ宮で英国のバレエ団が公演したのは、じつに70年振りのことだという。
元ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサー、タマラ・ロホが2012年に同バレエ団バレエ監督に就任し、多くの成果を上げて注目されている。
ロホがヒロインのメドーラを踊り、先日プリンシパル・ダンサーへの昇格が発表されたばかりの日本人ダンサー加瀬栞と、ランデゲムを猿橋賢が踊ったプルミエ公演を見た。
『海賊』は、19世紀英国の詩人でギリシャ独立運動に参加したことなどでも知られるバイロン卿の詩を原作とするが、バレエではメドーラは自殺せず海賊船が嵐で難波した後、生き残ったコンラッドと波乱の末、結ばれるというハッピーエンドになっている。
イスタンブールを思わせる壮麗なモスクと港を背景にしたバザール、海賊の住処となっている洞窟、豪奢なパシャの宮殿などを舞台に展開するオリエント趣味が濃厚な作品である。『バットマン』や『スタートレック』といった映画や演劇の装置家として活躍しているボブ・リングウッドによる色彩鮮やかな舞台が、格好の書割となってダンサーたちの踊りをいっそう惹き立てている。
ENBはバレエ監督がスペイン人であるだけでなく、ルーマニア、キューバ、中国、日本と世界各地からのダンサーが集まった国際色豊かなバレエ団だが、主役からコール・ド・バレエに至るまで、パリ・オペラ座バレエ団の洗練とはまた一味違うエネルギッシュな踊りが『海賊』という作品にぴったりだった。
タマラ・ロホ
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
はつらつとしたダンサーたちの熱の入った演技は見ていて爽快そのものだったが、中でも実に切れ味のよいピルエットをはじめとする卓越した技術と、女性らしい艶やかな姿とが一体となった華のあるタマラ・ロホの演じるヒロインからは、一時も目が放せなかった。加瀬栞もよくしなう身体と表情に富んだ腕の表現でグルナーラを踊って、客席を沸かせた。
四人の男性ソリストも美貌のイザック・エルナンデス(コンラッド)、ダイナミックな跳躍を見せた奴隷アリ役のセザール・コラレス、裏切り者ビルバント役のヨナ・アコスタ、バザールの奴隷商人ランケデムの狡猾さがよく表わした猿橋賢、とそれぞれの登場人物にぴったりのダンサーが揃って、充実した公演だった。
(2016年6月21日 ガルニエ宮)
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
『海賊』
リヴレット ジュール・=アンリ・ヴェルノワ・ドゥ・サン=ジョルジュ、ジョゼフ・マジリエ
音楽 アドルフ・アダム、レオ・ドリーブ他
振付 アンナ=マリー・ホームズ(1997年)
原振付 マリウス・プティパ、コンスタンティン・セルゲイエフ
装置・衣装 ボブ・リングウッド
照明 ニール・オースティン
ガヴィン・サザランド指揮 コロンヌ管弦楽団
配役
メドーラ:タマラ・ロホ
コンラッド:イザック・エルナンデス
グルナーラ:加瀬栞
ランケデム:猿橋賢
アリ:セザール・コラレス
ビルバント:ヨナ・アコスタ
パシャ:ミヒャエル・コルマン
加瀬 栞
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
ヨナ・アコスタ
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage
(C) Opéra national de Paris/ Ula Blocksage