抑圧された戦いの場を提示し、明快なメッセージを込めたマギー・マランの『拍手は食べられない』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris  パリ・オペラ座バレエ団

"Les applaudissements ne se mangent pas" Maguy Marin
『拍手は食べられない』マギー・マラン:振付

最近、ヴェネチアビエンナーレ芸術祭でイタリア人作曲家のサルヴァトーレ・シャリーノ、英国人演出家のデクラン・ドネランと並んで金獅子賞を授与されたマギー・マラン(1951年南西フランスのトゥールーズ生まれ)の『拍手は食べられない』がガルニエ宮で上演され、パリ・オペラ座バレエ団のレパートリーに入った。

舞台は左右と奥の三方に天井から虹を思わせる多彩なカラーの帯がたれていて、内部は何もない裸の空間になっている。左右と奥のどこからでも、舞台にダンサーが出入りできる。
黒、青、白、茶、赤といったさまざまな色のシンプルな上下を身にまとった、男女4人づつのダンサーたちが帯の向こうから中に入り、歩き回ったり、走ったりし始めた。装置と衣装はカラフルだがダンサーの動きから放射されてくるエネルギーは重苦しく、暗い。時々機関銃の音が聞こえ、反り返ったダンサーが舞台に崩れ落ち、その身体を他のダンサーが引きずって帯の外側に運びだす。

『拍手は食べられない』(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』
(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

そうかと思うと、後ろ向きになって帯の向こうから数名のダンサーが客席に背中を見せながら後ずさりして内側に入ってくる。ずっとマギー・マランの舞台音楽を手がけてきたデニス・マリオットの効果音は、この空間が抑圧された闘いの場であることをはっきりと伝えていた。ダンサーたちの視線はある時に不安や恐怖、ある時には驚きを示し、しばしば帯の外に向けられていた。そこには、客席からは見えない人々をおびやかしている何かがいることが、視線の動きから見て取れた。
動きに繰り返しを多用した、不思議な緊張感に満ちた一時間だった。後になってわかったのだが、虹色の帯はラテンアメリカの国で家の入り口に下げられているすだれを表現しているという。マギー・マランは独裁者の暴力によって弱者が虐待されている現実をダンスによって批判しようとして、2002年にこの作品をリヨンのダンスビエンナーレで発表している。どのダンサーからも真剣な取り組みぶりが客席に伝わってきて、明快なメッセージを持った個性的な作品に観客をぐいと引き込んだ。
(2016年4月25日 ガルニエ宮)

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『拍手は食べられない』(レパートリー入り)
音楽 デニス・マリオット(録音を使用)
振付・衣装 マギー・マラン
装置 ユリセス・アルヴァレス、マギー・マラン、デニス・マリオット
照明 アレクサンドル・ベヌトー
メートル・ド・バレエ ファブリス・ブルジョワ
ダンサー カロリーヌ・バンス、クリステル・グラニエ、ローランス・ラフォン、エミリー・アズブーン、ヴァンサン・シャイエ、ニコラ・ポール、アレクサンドル・カルニアート、シモン・ル・ボルニュ

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