オペラ座ダンサー・インタビュー:マリーヌ・ガニオ
- ワールドレポート
- パリ
掲載
ワールドレポート/パリ
- 大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
- text by Mariko OMURA
Marine Ganio マリーヌ・ガニオ(スジェ)
初日の3月9日はストにより中止されたが、4月1日までオペラ・ガルニエで『イオランタ/くるみ割り人形』の公演があった。これはチャイコフスキーの音楽によるオペラとバレエを組み合わせ、幕間2回を含め合計4時間5分という新作。スジェのマリーヌ・ガニオが、主役マリーを第二配役で踊った。
2013年1月、当時の芸術監督ブリジット・ルフェーヴルの後継者としてステファン・リスナー総裁が複数名の候補者の中からバンジャマン・ミルピエを選んだことが公表された。この選択にあたって、総裁は "オペラとバレエのコラボレーション" をミルピエに期待していることを隠さず、そして2015〜16年度のミルピエ芸術監督による初プログラムに、オペラ『イオランタ』と5名の振付家によるバレエ『くるみ割り人形』の同時公演が発表された。最終的には、当初予定されていたリアム・スカーレットとバンジャマン・ミルピエの参加がなく、『くるみ割り人形』はアルチュール・ピタ、エドアルド・ロック、シディ・ラルビ・シェルカウイの3名による創作となった。
オペラ座ではこれまでクラシック作品、ネオ・クラシック作品に配されることが多かったマリーヌ。スタイルのまったく異なる3名の振付家によるコンテンポラリー作品を踊ることになった彼女は、ダンサーとしてどんな体験をしたのだろうか。
Q:オペラとバレエのダブル・ビルという、オペラ座での珍しいプログラムに参加。その経験をどんな言葉で表現できますか。
A:たった一言でというのは難しい・・・そうね、"チャンス" だわ。今年度のプログラムが発表され、オペラとバレエを通しで公演する『イオランタ/くるみ割り人形』があると知った時は、振付も知らないし、どんなものか想像もつかないので、あまりピンとはこなかったの。で、ある日、演出家のディミトリー・チェルニアコフがダンサーを集めてこのプロジェクトを説明した時に、"俳優としてのダンサーを期待している。力を借して欲しい" とみんなの前で彼が言ったんです。私が今一番興味をもっているのは、演劇面での仕事ができたら、ということ。それにこれは『くるみ割り人形』といってもおとぎ話というより、かなりダークな作品になるような説明だったので、「ああ、この作品を踊るのは、きっと素晴らしいことに違いないわ! ソリストとして踊れるダンサーには、すごく大きなチャンスだわ」って思ったのよ。
マリーヌ・ガニオ photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:そして、そのチャンスがあなたに舞い込んだ、というわけですね。
A:いえ、私はもともとはコール・ド・バレエとして、これに配役されていたの。それが、エドワルド・ロックとの最初のリハーサルがあった時、私が主役を踊るのがいいって彼が希望してくれて・・・。それでソリストとして踊ることに。このチャンスが私に訪れたのは彼のおかげです。
Q:『くるみ割り人形』は3名のコレオグラファーによる作品。キャスティングは3名が合意して、ということだったのでしょうか。
『くるみ割り人形』より
Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
A:誰が一番イニシアティブをもっていたのかとか、キャスティングについて詳しいことは私たちには知らされていません。ただ私が知ってるのは、エドワルド・ロックが私の名前をディレクションに提案したということ。彼が『アンドレオーリア』を創作した時に、私はオーディションにも含まれていず、それまで彼と一緒に仕事をしたことはなかったんですよ。この1日目のリハーサルが、彼との初めての出会いでした。
Q:3名の振付家による3つのスタイルが混在する1作品を踊るのは、複雑な仕事だったのではないですか。
A:いいえ。それどころか、とても気持ちがいいものだと感じたわ。1月半ばから公演まで、約2か月がかりのクリエーション。その間、毎日12時から19時の間に3人とそれぞれとの仕事があって・・・振付家が変わるたび、その日をゼロからスタートする感じがあったおかげで、仕事づくめでたいへん!って感じることなく進めることができ、この間、とても満足な日々でした。
Q:3スタイルのどれが自分に特にフィットするものでしたか。
A:誰ということはなく、振付家3名のそれぞれの仕事が好きでした。アルチュール・ピタのパートはダンスというより、演技が優先。彼は私たちダンサーにアクティングを学ばせる方法を熟知しているので、彼からのリクエストは常に的確でしたね。それに彼はとにかく優しい。いつもニコニコと機嫌がよく、リハーサルに参加する全員に言葉をかけていました。私はセカンドキャストなので彼と直接仕事をすることがあまりなかったのだけど、リハーサル・スタジオで私のところまで来て、"一緒に稽古したいのだけど、時間に限りがあって・・" というようなお詫びの言葉をかけてくれていたのよ。ラルビ・シェルカウイのパートの仕事も、素晴らしかった。彼のパ・ド・ドゥは "2人が1人に" ということにアクセントを置いていて・・・。例えば、私が上に揚げた手は、パートナーが上に揚げた手の反対側・・という感じ。そのための体の重みのかけかたとか、こうしたリサーチはとても興味深いものでした。最初は "この振付を踊るのはほぼ不可能だわ !" という感じだったのが、繰り返すことによって最終的にはとっても快適な動きとなったの。カップルの策略というか、こうした何もかもが面白い仕事でした。でも、ラルビは他での仕事もあったのでしょうね、オペラ座に彼自身が来て創作するという作業が少なく、また私もセカンドキャストだったこともあって、彼の存在を100パーセント満喫することができなかったのが唯一の心残り。彼、とてもヒューマンで穏やか、そしてポジティブで、人間的にも素晴らしい人です。彼がオペラ座で創作した『ボレロ』には私は参加していず、それに別の公演があったので、そちらに気をとられていて、実はあまり彼の作品には詳しくなかったの。でも、彼と仕事をしたオペラ座のダンサーたちの誰もが、人間関係とかやりとりという点で彼との仕事に満足していたことは耳にしていたの。だから、それが今度は私の番だわ!というので、嬉しかった。エドワルドは・・・先に話したように、彼のおかげでこの役が得られたのだから、この作品で彼に負うものはとにかく大きい!当然、その彼とスタジオで共に仕事をする、ということにはすごく意欲が湧きましたね。
『くるみ割り人形』より Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
Q:彼の期待を裏切りたくない、というようなストレスはありましたか。
A:はい。すごいプレッシャーだったわ。彼のテクニックはよく知らないし、彼は私を5分くらい見て選んだような気がしていたので、本当にこの選択に彼は確かなのだろうか、最終的には私の仕事をあまり評価しないのではないか・・・といったプレッシャー。その上、第二キャストの私が踊るのは、第一キャストのマリオン(・バルボー)にクリエイトされたものだから、私に合うのかどうか。彼女と私とでは身体的にすごく異なるし、エネルギーも異なるので、同じ振付でも2つのまったく別なものとなるのだろう・・・。マリオンが踊って彼の気に入ったことを私がしてみて、同じように彼の気に入るのだろうか、とか、頭の中でいろいろ思いました。このように大きな創作は第一配役で創作をし、すべて整ったところで第二配役の出番となります。その時に彼が私の踊るのをみて、「ああ、間違った。これではだめだ・・」というようになったら、といった不安が渦巻いてしまって・・。彼をがっかりさせたくない、と強く願っていました。
Q:エドワルド・ロックが振付ける動きはとても特殊ですね。
A:コンテンポラリーだとかネオ・クラシックだとか、そのようにはカテゴリーできないスタイルですね。本当に特殊。とりわけ稽古の最初の頃、覚えるのがとても大変だったの。ステップ、それにステップのつながり覚えるのに、ビデオを何度も繰り返して見ました。彼は完全主義者。決して満足しない、という感じで、いつも考え直していて、より良い物を求めて最後の最後まで振付の変更が続いて・・・これって、私たちダンサーにとってはストレスとなるんですね。まず振付を覚え、次にそれを繰り返し稽古して、というのが私たちのいつもの仕事の進め方。ところが、今回はそれと反対で、彼が満足できない限りは変更に次ぐ、変更・・・。ストレスでした。でも習慣化した方法を覆す、というのは悪くないことだわ。それによって多くを学べることになるのだから。
Q:ロックの振付を制覇するコツのようなものはありましたか。
A:彼の振付、これは記憶とスピードね。まず何度も何度も繰り返して、振付を頭に叩き込むだけでも何十回も。次にそれを希望の速度までもってゆくように稽古をしました。
Q:この作品がキャリアにおける初めてのコンテンポラリー作品ですか。
A:これまでには、マクレガーの『感覚の解剖学』でごく僅かな部分だけを踊っただけ。コンテンポラリー作品に本格的に取り組む、というのは今回が初めての経験でした。クラシック作品に比べて、脚の仕事が厳しく、筋肉を駆使し、重心は低く、床での動きが多く・・・。クラシックのように動きがコード化されていないので、これ、という決定的なポジションがないのね。初のコンテンポラリーなので、あらゆるテクニックを体得する必要がありました。舞台に倒れ落ちる振付の部分では、最初のころアザだらけになるし、ものすごい音をたててしまって・・。ラルビのアシスタントのジェイソンとジェイムズたちが私に見本を示す時、音なんてまったくしないの。これって信じられないことだったわ。「いったい、どうやってるの?音を立てずに、どうやったらこれほど見事な転倒ができるの?」って・・・。無音だし、怪我もなく、信じられないことなので、"コツをみつけてみせるわ!"って夢中でやるうち、徐々に音をたてずに転倒できるようになったの。もちろん彼らほどのレヴェルではないけれど・・・。私はクラシック・バレエのダンサーなので、新しいことを覚えるためにまずこれまでのすべてのコードを一旦壊すことが必要でした。それは体のことだけに限らず。
『くるみ割り人形』より
Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
物事の見方から、考え方・・すべて新しいことばかり。それゆえに素晴らしい経験だったと言えます。だから最後の公演を終えた時は、とても悲しくなったわ。4回の舞台を満喫するにはしたけれど、もっと回数を重ねて、どんどんと改善してゆきたかった。毎回、次はこうしてみよう、次はこれを語ってみよう・・と、いったことがたくさんあって・・。私がこう思うなら、主人公のマリーがこう考えてもいいのではないかしら、みたいに。多くの願望を抱え、マリー役を踊ることに喜びを感じ始めたところで、終わってしまった・・・という感じ。これってちょっとフラストレーション。再演の予定があるような噂を聞いたので、そうなって欲しい、って心から願っています。
Q:今回、2人のパートナーとに2回づつ踊ったのですね。
A:はい。ステファン・ビュリオンとジュリアン・メザンディ。初回と最終回がジュリアンとの公演で、リハーサルはジュリアンと一緒に進めました。彼との初回の公演が終わった後、ステファンとは彼と踊る1週間前にやっと稽古を始めることができたの。というのも、ステファンは第一配役でマリオンとの舞台があったし、その前は創作ダンサーとしてとても忙しかったので。
Q:オペラ『イオランタ』は過去に聞いたことがありましたか。
A:いえ、全然。イオランタ役のオペラ歌手(注:ソーニャ・ヨンチェヴァ)と知りあい、彼女の人間的豊かさにすっかり魅了されました。それで自分の公演のないときも、舞台セットの小さな穴から毎晩彼女の歌うのを聞いていたんですよ。彼女の歌はとにかく素晴らしく、毎回、堪能していました。この作品のおかげで彼女と出会えたことも、私の人生の記憶に残るものとなるでしょうね。
Q:『くるみ割り人形』の主役マリーは『イオランタ』の始まり時に舞台に登場し、そして1幕目の最後に再び姿を現します。その間、集中力はどのように保つのですか。
A:この間の待ち時間をどう管理するか、と考えたときに、最高の方法をみつけたのよ。オペラ『イオランタ』中、マリーは感動して舞台に姿を現わすという設定でしょ。私の公演日は、彼女の歌を楽しみとして聞くだけではなく、彼女たちの歌に実際に感動し、その状態を私は舞台に出て表現することができるわ、って思いました。彼らの歌は本当に素晴らしい。感動するしかないんだから、これが待ち時間を過ごす最高の方法、これが真実の方法だわって。
Q:『イオランタ』の舞台の歌い手たちの間に、突然50年代風のワンピースをきた少女マリーが現れる。これに観客は戸惑いました。
A:そう、不思議に思うでしょうね。でもそれによって、第2幕の中盤で『イオランタ』が終わり、『くるみ割り人形』が始まる時に、あの若い女性が誰だったのかということがわかることで、観客にとってオペラからバレエへの移行がスムーズですよね。
Q:舞台装置がとても印象的な作品でした。大爆発の後、瓦礫が散らばった舞台で踊るのはたいへんでしたか。
A:これは自分がどこに足を置くか・・・によって変わってくること。だから、大きなボリウレタンのかけらがどこに散らばってるか、自分がどこに着地するかということに気をつける必要があっただけで、観客席から見て想像するほどには、邪魔な存在ではないの。それにこうした瓦礫や降りしきる雪といった舞台装置のおかげで、状況にすごく入りやすくなるので、私たちの仕事の助けとなる要素といえますね。舞台で踊っていても、後方の画面いっぱいにプロジェクションされる映像はよくみえていて、私はとりわけ森のシーンが好きでした。
『くるみ割り人形』雪片のワルツ / シディ・シェルビ・シェルカウイ振り付け
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:そろそろクラシック作品を再び踊りたいと思っていますか。
A:今のこの状況についていえば、クラシックが恋しいというより、自分は素晴らしい機会を得ているという感じのほうが強いの。例えば昨年末に配役されたクリストファー・ウィールドンの『ポリフォニア』。これは振付家によって選ばれたダンサーたちが踊るのだから、選ばれた私たちもやる気がいっぱいでした。どんな振付家からでも「僕の作品で君が踊るのを見たい」と言われたら、ダンサーはその人のために一生懸命に稽古をしよう、とういう気になるものでしょう。昨シーズン、ピエール・リガルの『サリュ』の創作に参加した時もそう。私は彼ととても気が合って、良い関係を築けたのよ。これも、すごく幸運な仕事でした。また、クラシック作品の場合、パ・ド・トロワなどを踊れる時は別だけど、コール・ド・バレエだと舞台上の32名とかの1人。でも、8人だけの『ポリフォニア』なら、舞台上での私の見え方がまったく違うわ。その上、この作品では自分たちが感じることに従って踊れるという自由もあって・・これもダンサーにとっては快適なことね。私は今、ダンサーのキャリアにおいて、自分のダンスを個性化したい、勇気をもって提案をしてみたい、というところに来ているの。だからこの『ポリフォニア』のように、そうした機会を得られることはとても嬉しい。この『くるみ割り人形』では、ソリストとして広いステージ上にたった一人ということもあったし、最後に大声で叫ぶシーンもあって・・・これはすごく解放的なことで最高の瞬間でした。
リガルの『サリュ』 photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
Q:今シーズン、この次は何に配役されていますか。
A:ジャスティン・ペックのクリエイションです。こうして創作ダンサーに選ばれるって、本当に嬉しいことね。以前はなかったことで・・・。リハーサル・スタジオで君と一緒に仕事がしたい、と振付家に言われる。これはダンサー冥利に尽きるわ。昨日踊ったペックの『In Creases』も、8人が踊る作品でした。これも創作中のリハーサル・スタジオの雰囲気はとてもよかったわ。要求されるものはとても高度だったけど・・・。悪意のある高い要求というのは好きじゃないけど、厳しくても、このように良い環境のなかで多くを求められる仕事というのは、好きだわ。何かを強いるにしてもスマイルと一緒なら、"いいわ、やりましょ" となるでしょう。素晴らしいことがたくさん続く今シーズンについて、悔いることは何一つないわ。
Q:どんな作品を将来踊りたいかという質問の答えは、例えば5年前と今とでは違ってきていますか。
A:今、ダンスを介して、ストーリーを語りたいと強く願ってるの。『ポリフォニア』や『In Creases』のように、隣のダンサー仲間とまったく同じである必要がなく、自分が動きたいように動けるというのも好きだけど、今、すごく興味を持っているのはストーリーを語ること、観客を作品の世界に連れ込む努力をすること、夢を見させること。以前はソリストを夢見る勇気というか、そうした野望がなかったので、"ジュリエットを踊りたい、マノンを踊ってみたい" ということは言えなかった。でも最近は役にアクセスがあるようになったので、こうした役を踊りたいと強く願うようになってきているの。ソリストに配されて、全力投球して、進歩したい。実は2年くらい前に、自分は舞台の中央に一人で立ちたいのか、重い責任を引き受ける気があるのか、仕事や厳しさに耐える気があるのか・・・と、とても真剣に考えたことがあったのよ。確かじゃなかったから・・・。ちょうどそんな時期に、『天井桟敷の人々』の劇中劇のバレリーナの役がきたのね。ソリストとして踊って、"ああ、これ自分に向いてるわ、喜びが感じられるわ" という経験ができ、その後に『リーズの結婚』でリーズ役に選ばれて。そのコーチはオーレリー・デュポンで、可能な限りナチュラルに、という仕事をたっぷりしました。この時に彼女とスタジオで過ごした時間は素晴らしいものでした。今回の『くるみ割り人形』で、その時に彼女から学んだことがすごく役立ったのよ。リハーサル中、ああ、彼女がいてくれたら、って思ったこともしばしば。だから、もし、オーレリーがいたら、ここではどう言ったかしら・・・とか自分なりに考えたりしていました。
Q:オーレリーが具体的に語ったことの、例をあげてください。
A:すごく心に残っている2つのことがあるの。私、顔の表情を作りすぎてしまう傾向があって、ある時オーレリーからこう言われたの。「顔だけがアップで撮影されることを想像してみて。画面にあなたの顔だけというのを・・・」と。だから『リーズの結婚』では、顔の表情をつくりすぎないように気をつけて、やりすぎにならないよう、より素直に表現することに注意しました。『くるみ割り人形』の時、彼女のこの言葉がずっと私の中にあったんです。というのも、アルチュール・ピタが振付の最初のバースデーパーティのシーン、私はきっとやりすぎてしまうわ・・・という感じがあったので。オーレリーが今の私を見て、私のことを誇らしく思ってくれたらなあ・・と、彼女の言葉を思い出しながら、気をつけて仕事をしました。このように彼女の教えを実践していることを見て欲しかったので、公演にきてもらえなかったのはちょっと残念です。オーレリーについてもう1つ心に残ってること。それは『リーズの結婚』のパントマイムのところで、私、ただ考えているだけで何もしなかったら、彼女から「考えごとをしてる時って、どこかを掻いたり、髪をさわったりするものでしょう。でも、あなた何もしてないじゃない」って。これも『くるみ割り人形』のときに、思い返して仕事をしたわ。ソリストに配役されて素晴らしいのは、こうしてコーチと共にスタジオで過ごす時間が得られることね。もし、今シーズンで心残りがあるとしたら(もちろん、ものすごい大それた願いとはわかってるけど)、ジゼルの代役に選ばれたかったのに・・・ということね。あの狂気のシーンだけでもいいの。あれを経験できたら素晴らしいことだろうって、思うの。たとえスタジオでクロチルド・バイエが語ることを聞けるだけでも、満足できるでしょうね。クロチルドもオーレリーも、そしてエリザベット・モーランもだけど、彼女たちって言葉で私たちにイメージを見せる方法を持っているのよ。彼女たちが語ることって、とても興味深いのよ。一緒に仕事をすると、多くを学ぶことができる。クレールマリ・オスタも私を長年指導してくれたのだけど、彼女からの教えも私の中にしっかりと残っています。
マリーヌがガルニエ宮で『イオランタ/くるみ割り人形』を踊ったのは、3月23日、26日、3月28日、4月1日の4公演。最初の2晩は、兄マチュー・ガニオの『ロメオとジュリエット』の公演と偶然にも重なった。それについてマチューは次のように語っている。「こういうことが起きるとは、それも2晩続けて・・・想像してもいなかったことで、なんとなく楽しくなるような出来事でしたね。とっても嬉しく思ったのは、同じ晩に僕と妹が愛する芸術において自分を発揮することができたこと。家族として誇らしい気持ちがあります。誰々の子供たちというだけでなく、僕たち自身もアーチストだと言えるのは、すごく心地よい。両親はこの2晩のことを、どう受け止めただろうか・・・と彼らに気持ちを巡らせました。子供二人が同じ日にオペラ座の2つの劇場でそれぞれ主役を踊り、仕事を心から楽しんだということで、彼らが僕たちを自慢に思ってくれたらなあ、って」
さて、このインタビューが行われたのはマリーヌのオフ日。彼女が前日に踊り終えた『In Creases』の公演が別キャストでこの晩もあり、その万が一の場合に備るため、2歳4か月の長女を連れて彼女はオペラ座にやってきた。まだ小さい長女は両親が舞台で踊るのはまだほんの少ししか見たことがないが、親と一緒にオペラ座に行くということはとても気に入っている。この日も朝から「オペラ座に踊りに行くの !」と嬉しそうに繰り返して、ベビーシッターさんを不思議がらせたそうだ。マリーヌ自身も子供の頃、母親(ドミニク・カルフーニ)が劇場に行くのについて行くのが楽しみだったという。まさにダンス・ファミリーである。