ピナ、マクレガー、ウィールドンの作品がピエール・ブーレーズへのオマージュとして上演された
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Polyphonia" Christopher Wheeldon, " Alea Sands" Wayne McGregor, "Le Sacre du Printemps" Pina Bausch
『ポリフォニア』クリストファー・ウィールドン:振付、『アレア・サンズ』 ウエイン・マクレガー:振付、『春の祭典』 ピナ・バウシュ:振付
パリ・オペラ座バレエ団の年末公演は前号でご紹介した『ラ・バヤデール』がバスチーユ・オペラで上演されたのに対し、ガルニエ宮では90歳を迎えた現代フランスを代表する作曲家ピエール・ブーレーズ(1925年生)へのオマージュとして、3本の現代作品による夕べが催された。
最初はクリストファー・ウィールドン(1973年英国生)がニューヨーク・シティ・バレエのために振付けた『ポリフォニア』(2001年)だった。
ウィールドンは20世紀後半に活躍したルーマニアの大作曲家ジェルジュ・リゲッティ(1923-2006)のピアノ曲に触発されて、4組8人のダンサーのためのダンスを10のシークエンスで構成した。パリ・オペラ座バレエ団では、今回、初めてウィールドンの作品を上演したことになる。
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
衣装はきわめてシンプルな紫色と葵色のジュストコールで、装置の置かれていない素の舞台でデュオ、ソロ、アンサンブルが、さまざまな曲想のピアノに乗って展開されていく。バランシンやロビンズを想わせるネオクラシックの作品で、女性はポワントで踊る。ウィールドンの魅力は動きに意外性があり、エネルギーが放散していくことだろう。
一見したところ単純そうに見えていた動きだが、実は微妙な均衡の上に成り立っていて、パートナーの背中の上で身体を転がす、といった集中力を要する動きが諸所に配されている。筆者が見た日はエトワールのカール・パケット以外はレオノール・ボーラック、ジュリエット・イレール、セウン・パク、メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー、ピエール=アルチュール・ラヴォーといった若手が中心の配役だったが、どのダンサーも緻密かつ軽快な動きを見せてくれた。
ミッシェル・ディートリンと久山亮子の二人はドビュッシーをはるかに凌駕する、想像力あふれるリゲッティのピアノ曲の魅力を完全に音にして、ダンサーの身体を包み込んでいた。
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
これに続いたのはウエイン・マクレガー(1970年英国生)振付の『アレア・サンズ』の世界初演だった。
ダンサーは久しぶりにパリ・オペラ座の舞台に復帰したマリ=アニエス・ジロー、ローラ・エケ、ジェレミー・ベランガール、マチュー・ガニオのエトワール陣に、レオノール・ボーラック、オードリック・ブザール、ヴァンサン・シャイエが加わった豪華なキャストだった。
この作品は、ガルニエ宮のシャガールによる天井画の周囲のライトが点滅する光の効果で始まった。振付家自身が選んだブーレーズの「ヴァイオリンとライブ・エレクトロニクスのための『アンテーム2』」は、広いオーケストラピットに一人で入ったミハイル・バレンボイム独奏に、リアルタイムで電子音楽が反応して一つの曲となる。この電子音と照明とをリンクさせるのがハルーン・ミルザが考案した「装置」で、この光と音によって刻々と変化する客席から天井、舞台を合わせたガルニエの空間に観客の注意はひきつけられた。しかしダンスそのものはダンサーたちがどんなに複雑なパをきっちりと形象化しても、『ジェニュス』と『感覚の解剖学』という二作品に見られたインパクトを与えることがないまま、幕が下りてしまった。
『アレア・サンズ』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『アレア・サンズ』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『アレア・サンズ』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『アレア・サンズ』
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
後半はエクサンプロヴァンス音楽祭で、ブーレーズ指揮によるバルトーク『青髭王の城』を演出したピナ・バウシュの『春の祭典』だった。ブーレーズはストラヴィンスキーの曲をしばしば指揮し、その演奏は傑出していた。ドミニック・メルシーをはじめとするヴッパタール舞踏団のメンバーの指導を受けた、オペラ座のダンサーたちが舞台一面にひかれた土の上で汗を飛び散らせながら、春の訪れを祝う原初の生贄選びの儀式に身を投じた。
カール・パケットの静かな権威を感じさせる長から生贄に選ばれた、若いレティツィア・ガローニの絶望のまなざしと、諦念を超えた野性味あふれる動きから目を離すことはできなかった。
ヴェロ・ペーン指揮のパリ・オペラ座管弦楽団の演奏に、かつてのブーレーズの指揮で感じられた圧倒的な迫力が欠けていたのが惜しまれたものの、ストラヴィンスキーの音楽そのものが持つ力と、ピナ・バウシュの破格の想像力が一体となって生まれる高揚感には今回も圧倒された。(ブーレーズは1月6日ドイツのバーデンバーデンで亡くなった、と報じられた)
(2015年12月15日 ガルニエ宮)
「春の祭典」レティツィア・ガローニ
(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
「春の祭典」(C) Julien Benhamou/Opéra national de Paris
『ポリフォニア』(レパートリー入り)
音 楽 ジェルジュ・リゲッティ(ピアノ曲)
振 付 クリストファー・ウィールドン
衣 装 ホリー・ハインズ
照 明 マーク・スタンリー
配役(12月15日)
1. Désordre「混乱」 エチュード第1曲集第1番(1985年)
レオノール・ボーラック、 ジュリエット・イレール、セウン・パク、メラニー・ユレル、カール・パケット、エマニュエル・ティボー、シリル・シュークルーン、ピエール=アルチュール・ラヴォー
2. Arc-en-ciel「虹」 エチュード第1曲集第5番(1985年)
レオノール・ボーラック、カール・パケット
3. Tempo di valse「テンポ・ディ・ヴァルス」Musica Ricercata第4番(1951-1953年)
セウン・パク、ピエール=アルチュール・ラヴォー
4. Invention(1948)
ジュリエット・イレール、セウン・パク、メラニー・ユレル
5. Vivace Energico、 Musica Ricercata第8番(1951-1953年)
エマニュエル・ティボー、ピエール=アルチュール・ラヴォー
6. Hopp Ide Tisztan, Trois danses nuptiales第2番(1950年)
ジュリエット・イレール、シリル・シュークルーン
7. Cantabile molto legato ,Musica Ricercata第7番(1951-1953年)
レオノール・ボーラック、ジュリエット・イレール、カール・パケット、ピエール=アルチュール・ラヴォー
8. Allegro con spirit, Musica Ricercata第3番(1951-1953年)
メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー
9. Mesto, rigido e cerimoniale, Musica Ricercata第2番(1951-1953年)
レオノール・ボーラック、カール・パケット
10. Capriccio第2番、 Allegro robusto (1947年)
レオノール・ボーラック、 ジュリエット・イレール、セウン・パク、メラニー・ユレル、カール・パケット、エマニュエル・ティボー、シリル・シュークルーン、ピエール=アルチュール・ラヴォー
『Alea Sands』(世界初演)
音 楽 ピエール・ブーレーズ 「ヴァイオリンとライヴ・エレクトロニクスのための『アンテーム2』」
振 付 ウエイン・マクレガー
装 置 ハローン・ミルザ
照 明 リュシー・カーター
ヴァイオリン独奏 ミハイル・バレンボイム
ダンサー マリ=アニエス・ジロー、ローラ・エケ、レオノール・ボーラック、ジェレミー・ベランガール、マチュー・ガニオ、オードリック・ブザール、ヴァンサン・シャイエ
『春の祭典』
音 楽 イゴール・ストラヴィンスキー
振 付 ピナ・バウシュ
装 置 ロルフ・ボルジック
ヴェロ・ペーン指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団
ダンサー エレオノーラ・アヴァニャート、アリス・ルナヴァン、レティツィア・ガローニ、カール・パケット他