パリエロ、ジルベール、ガニオ、ブザールが競演、プルミエ昇級のマルクも加わった『オネーギン』の華麗な舞台

Ballet de l'Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Onéguine" John CRANKO 『オネーギン』 ジョン・クランコ:振付

2009年に引退したマニュエル・ルグリの要望でオペラ座バレエ団のレパートリーに入ったジョン・クランコ振付の『オネーギン』が2月10日から3月7日まで上演された。
2009年にはルグリの引退公演で、マチアス・エイマンとイザベル・シャラヴォラがエトワールにダブル昇進している。タチアナ役を十八番としたシャラヴォラはこの役を踊って、2014年2月に引退している。

今回はオネーギンとタチアナにマチュー・ガニオとリュドミラ・パリエロ、オードリック・ブザールとドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャンとセ・ウン・パク、ステファン・ブリヨンとローラ・エケの4組、レンスキーとオリガにマチアス・エイマンとミリアム・ウルド=ブラーム、ジェレミー=ルー・ケールとミュリエル・ジュスペルギ、ジェルマン・ルーヴェとレオノール・ボーラック、3月3日の年次昇級試験でプルミエール・ダンスールに昇進が決まったポール・マルクとカドリーユながら抜擢されたナイス・デュボスク、アルチュス・ラヴォーとマリオン・バルボーの5組、グレミン将軍はフロリアン・マニュネ、ジェレミー=ルー・ケール、アレクシー・ルノーの3人が演じた。

マチュー・ガニオ、リュドミラ・パリエロ (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチュー・ガニオ、リュドミラ・パリエロ
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

リュドミラ・パリエロ(タチアナ) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

リュドミラ・パリエロ(タチアナ)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

リュドミラ・パリエロ、フロリアン・マニュネ(グレミン将軍) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

リュドミラ・パリエロ、フロリアン・マニュネ(グレミン将軍)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

このうち、第1と第2キャストを見た。第1キャストのタイトル・ロールはマチュー・ガニオ。気品のある立ち姿、ゆとりのある演技はいつもながらの安定感があった。しかし、オネーギンは女性遍歴を重ねた帝都ペテルスブルク生まれのダンディーで、純真そのもののタチアナの魅力をそれとなく感じていながら、片田舎で出会ったために故意に冷ややかに振る舞っている。それだけに、ふっと何度か(おそらく無意識のうちに)演技の間に現れたガニオの甘い表情は場違いだったろう。悲劇の根源が、オネーギンが田園生活に退屈するあまり、そのはけ口として田舎者を軽蔑したために、タチアナに対する自分の本当の気持ちを隠蔽してしまったことにあるからだ。

ミリアム・ウルド=ブラーム、マチュー・ガニオ (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ミリアム・ウルド=ブラーム、マチュー・ガニオ
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチアス・エイマン
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

パリ・オペラ座バレエ団 『オネーギン』 (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

パリ・オペラ座バレエ団 『オネーギン』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ドロテ・ジルベール(タチアナ)オードリック・ブザール(オネーギン) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ドロテ・ジルベール(タチアナ)オードリック・ブザール(オネーギン)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ダンスそのものではガニオに一歩譲ったものの、演技に関する限りでは、第2キャストのオードリック・ブザールはオネーギンの冷淡さを、射すような視線、とりつく島もないようなとげとげしい身振りによって見事に演じた。後半、社交界の華に変身したヒロインを前にしての悔恨と彼女に対する抑えきれない熱情が、前半との対比によって、明快に描き出されていた。
ヒロインとしてはリュドミラ・パリエロが人づきあいが悪い、夢見がちな乙女としての前半をメランコリックなまなざしと気おくれを感じさせる身ごなしで明瞭に表現した。後半、上流社交界の花形らしい華麗さではイザベル・シャラヴォラに及ばなかったにせよ、フィナーレでは、夫ある身としての矜持と、胸の底にあるオネーギンへの変わらない情念の間に身を裂かれる苦悩を全身で表現し、観客の胸を打った。

ドロテ・ジルベール、オードリック・ブザール (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ドロテ・ジルベール、オードリック・ブザール (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

これに対し、第2キャストのドロテ・ジルベールはテクニックにおいてはいつもながら優れていたものの、演技面ではパリエロのように内面からヒロインを感じさせるには至らなかった。
レンスキーに今回初めて挑戦したジェレミー=ルー・ケールは若さにあふれる踊りを見せたが、役柄をていねいに造形するだけの精神的な余裕はなかったようだ。ミュリエル・ジュスペルギはヒロインとは対照的な明るく無邪気なオリガを好演し、ラーリン家の舞踏会でのオネーギン役のブザールとの場面を盛り上げていた。
第1キャストのマチアス・エイマンはミリアム・ウルド=ブラームという息の合ったパートナーを前に、抜群のテクニックを駆使して、情熱にあふれる直情的な詩人になりきって客席を沸かせた。
フロリアン・マニュネは夫らしい落ち着きのあるグレミン将軍をていねいに演じ、舞台に奥行を与えていたことも付け加えておきたい。
(2018年2月15、16日 ガルニエ宮)

マチアス・エイマン(レンスキー) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチアス・エイマン(レンスキー)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチュー・ガニオ(オネーギン) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

マチュー・ガニオ(オネーギン)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ジェレミー=ルー・ケール(レンスキー) (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

ジェレミー=ルー・ケール(レンスキー)
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

パリ・オペラ座バレエ団 『オネーギン』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

パリ・オペラ座バレエ団 『オネーギン』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

Onéguine『オネーギン』
音楽 チャイコフスキー
編曲 クルト・ハインツ・シュトルツェ
振付・演出 ジョン・クランコ(1965年。2009年パリ・オペラ座レパートリー入り)
装置・衣装 ユルゲン・ローズ
照明 スティーン・ビヤルケ
パリ・オペラ座バレエ団
ジェームス・トゥッグル指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団
配役(2月15日/2月16日)
エフゲニー・オネーギン:マチュー・ガニオ/オードリック・ブザール
タチアナ:リュドミラ・パリエロ/ドロテ・ジルベール
レンスキー:マチアス・エイマン/ジェレミー=ルー・ケール
オリガ:ミリアム・ウルド=ブラーム/ミュリエル・ジュスペルギ
ラリーナ夫人:ローランス・ラフォン
乳母:ソフィア・パルサン/ニノン・ロー
グレミン将軍:フロリアン・マニュネ

ワールドレポート/パリ

[ライター]
三光 洋

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