エサ=ペカ・サロネンの指揮によりバランシン『アゴン』、勅使川原三郎『大きな鏡』、ピナ・バウシュ『春の祭典』が上演された

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Agon"  George BALANCHINE "Grand Miroir " Saburo TESHIGAWARA " Le Sacre du Printemps" Pina BAUSCH
『アゴン』ジョージ・バランシン:振付、『大きな鏡』勅使川原三郎:振付、『春の祭典』 ピナ・バウシュ:振付

10月25日から11月16日までガルニエ宮でパリ・オペラ座バレエ団のトリプルビルが上演された。ジョージ・バランシン振付『アゴン』とピナ・バウシュ振付『春の祭典』というストラヴィンスキーの音楽を使った二作品の間に、勅使川原三郎振付『大きな鏡』の世界初演が入った夕べである。

最初の『アゴン』は古代ギリシャのスポーツ競技や弁論術の競争を意味するが、バランシンは同時代人や先達を超えようとする意志、それまでになかった新しいものを作ろうとする欲望という意味で使ったようだ。またバランシンは題名をギリシャ語で書いており、そこにはαとΩというギリシャ文字の最初と最後の文字が入っていることから、「ダンスと時間との関係」が作品の主題となっているそうだ。作品の最初の動きと最後の動きが同じ、という構造はストラヴィンスキーの音楽をそのままなぞっている。
いずれにせよ、ダンサーたちの動きは抽象的で、ストラヴィンスキーの音楽の中でも難解なのが特徴だろう。オニール八菜がインタヴューで語っていたように、リズムはきわめて複雑でそれについていくだけでも簡単ではない。上半身白シャツの男性と黒の衣装の女性という色彩が明快なコントラストを印象付けている。
ダンサーではオニール八菜、セ・ウン・パクとのパ・ド・トロワで気品ある舞台姿を見せたジェルマン・ルーヴェと、いつもながら息の合ったパ・ド・ドゥのミリアム・ウルド=ブラームとユーゴ・マルシャンが目を惹いた。

「アゴン」 ミリアム・ウールド=ブラーム、ユーゴ・マルシャン (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「アゴン」
ミリアム・ウールド=ブラーム、ユーゴ・マルシャン
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「アゴン」 オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ、セ・ウン・パク (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「アゴン」
オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ、セ・ウン・パク
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「アゴン」 (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「アゴン」
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

『アゴン』に続いて上演された『大きな鏡』はエサ=ペカ・サロネンが2009年に作曲した「ヴァイオリン協奏曲」を使い、振付、衣装、装置、照明を全て勅使川原三郎が手掛けた。2003年の『Air』、2013年の『Darkness is Hiding Black Horses』に続いて、パリ・オペラ座バレエ団のために振付けられた3本目の作品である。勅使川原作品を現役時代に踊ったバレエ監督オーレリー・デュポンのたっての要望で実現した。
舞台上には何も置かれていない。音楽に導かれてエミリー・コゼット、マチュー・ガニオ、ジェルマン・ルーヴェの三人のエトワールに七人の若手が加わって男性5人、女性5人の合計10人のダンサーが登場した。
中央に照明で浮き上がった空間で両腕を大きく回転させながら、円を描いて走るムーブメントを繰り返した。勅使川原三郎はオペラ座のサイトのインタヴューでサロネンの音楽に寄り添って、神秘を表現しようとしたと語っている。リディ・ヴァリシェスを始め、若手ダンサーが熱の入った踊りを繰り広げたが、題名の『大きな鏡』が何を意味しているかは最後まで分からなかった。
サロネンの音楽は「ミラージュ」「パルスI」「パルスII」「アディユー」の4つの部分からなる約30分の曲である。その日本初演を2013年2月に「国際音楽祭NIPPON」においてサロネン本人の指揮で弾いた諏訪内晶子は、今回も優れた技法を駆使したヴィルチュオーソぶりを見せ、オペラ座管弦楽団の団員たちから大きな拍手で迎えられていた。

「大きな鏡」 (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「大きな鏡」
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「大きな鏡」マチュー・ガニオ (C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

「大きな鏡」マチュー・ガニオ
(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

「大きな鏡」リディ―・ヴァレシャス (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「大きな鏡」リディ―・ヴァレシャス
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「大きな鏡」マチュー・ガニオ (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「大きな鏡」マチュー・ガニオ
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

最後に踊られた『春の祭典』では、ストラヴィンスキーの圧倒的なインパクトを持つ音楽に導かれてどのダンサーも全身の力を振り絞り、汗を飛び散らせながら未開の儀式をありありと蘇られた。生贄に選ばれたエレオノーラ・アバニャートは持てる体力と気力を全て注ぎ込み、音楽が止んだ後、放心したような視線で立っていた。この振付はピナ・バウシュが亡くなった後も破格のインパクトが見事に生き続けている。
パリ・オペラ座管弦楽団を指揮したのが、現在このレパートリーにおいて右に出るもののいないエサ=ペカ・サロネンだったために、ダンサーたちの動きそのものに音楽に見合ったエネルギーが一貫して感じられる好演となった。
(2017年10月25日 ガルニエ宮)

「春の祭典」 (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「春の祭典」
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「春の祭典」エレオノーラ・アバニャート (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「春の祭典」エレオノーラ・アバニャート
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「春の祭典」エレオノーラ・アバニャート (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

「春の祭典」エレオノーラ・アバニャート (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

『アゴン』
振付 ジョージ・バランシン
音楽 ストラヴィンスキー
ダンサー
第1パ・ド・トロワ ジェルマン・ルーヴェ、オニール八菜、セ・ウン・パク
第2パ・ド・トロワ ドロテ・ジルベール、オードリック・ブザール、フロリアン・マニュネ
パ・ド・ドゥ ユーゴ・マルシャン、ミリアム・ウルド=ブラーム 他
『大きな鏡』(世界初演)
音楽 エサ=ペカ・サロネン「ヴァイオリン協奏曲」
振付・装置・衣装・照明 勅使川原三郎
ヴァイオリン独奏 諏訪内晶子
ダンサー エミリー・コゼット、エロイーズ・ブルドン、リディ―・ヴァレシャス、ジュリエット・イレール、アメリ―・ジョアニダス、マチュー・ガニオ、ジェルマン・ルーヴェ、グレゴリー・ガイヤール、アントニオ・コンフォルティ、ジュリアン・ギユマール
『春の祭典』
振付 ピナ・バウシュ
音楽 ストラヴィンスキー
装置・衣装・照明 ロルフ・ボルジック
ダンサー 生贄 エレオノーラ・アバニャート
レオニール・ボーラック、アリス・ルナヴァン、ヴァランティーヌ・コラサント、藤井美帆、カール・パケット、セバスチャン・ベルト―、ニコラ・ポール 他
エサ=ペカ・サロネン指揮 パリ・オペラ座管弦楽団

ワールドレポート/パリ

[ライター]
三光 洋

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