アルビッソン、ジルベール、マルシャン、オニール、アバニャート他がオペラ座4人のダンサーの振付を踊った
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掲載
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Renaissance" Sébastien BERTAUD, "The Little Match Girl Passion" Simon VALASTRO, "Undoing World" Bruno BOUCHE, "Sept mètres et demi au-dessus des montagnes" Nicolas PAUL
『ルネッサンス』セバスチャン・ベルト―:振付、『マッチ売りの少女の受難』シモン・ヴァラストロ:振付、『アンドゥーイング・ワールド』ブリュノー・ブーシェ:振付、『山々の上方7メートル半』ニコラ・ポール:振付
バンジャマン・ミルピエ前舞踊監督が打ち出した振付アカデミーの成果が、パリ・オペラ座バレエ団のダンサー四人が振付けたそれぞれ30分の長さの新作となって結実し、ガルニエ宮で発表された。その一部はウイリアム・フォーサイスの助言を受けたという。
『ルネッサンス』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
まず、最初はセバスチャン・ベルトーの『ルネッサンス』だった。幕が上がると舞台後方にある照明されたフォワイエ・ド・ダンスまでの奥行と鏡によって客席が映し出された。この晴れやかな舞台で、バルマンのデザイナーであるオリヴィエ・ルスタンが考案したきらきらと光りを反射する華麗な衣装をまとったダンサーたちが流麗そのもののメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲第2番」(音楽は録音を使用、ヴァイオリンソロはヒラリー・ハーン)に乗って、バランシンを想起させるネオクラシックの踊りを見せてくれた。アマンディーヌ・アルビッソン、ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャンとエトワールが三人並んだが、安定した技術と優雅な気品あふれる姿で観客の目を奪ったのはオニール 八菜だった。長いソロを踊ったパブロ・ルガサもコリフェながら存在感を見せていた。
『ルネッサンス』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『ルネッサンス』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『ルネッサンス』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
次のシモン・ヴァラストロ振付『マッチ売りの少女の受難』は、アンデルセンの童話とキリストの受難とを重ね合わせた演劇的な作品だった。アメリカ人作曲家デイヴィッド・ラングの同じ題名の曲に触発されたもので、宗教儀式を思わせるゆったりとした歌を口ずさむパリ・オペラ座アカデミーに所属する四人の若手歌手とパーカッションによる生演奏が行われた。ヴァラストロは歌手たちにも簡単な振りを付けて動かすことで、スペクタクルの一部としていた。
ダンサーたち全員が灰色の衣装だったなかで、マッチ売りの少女の白い衣装をまとったエレオノーラ・アバニャートは表情豊かに演じ、アンデルセンが描いた酷薄な大人たちに踏みにじられた純真な魂の苦悩を生々しく感じさせた。
『マッチ売りの少女の受難』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
休憩後の三作目はこのシリーズを最後にパリ・オペラ座を去り、9月からストラスブールのラン歌劇場バレエ団の芸術監督に就任するブリュノー・ブーシェの『アンドゥーイング・ワールド』だった。繊細な表情と動きのマリオン・バルボー、切れの良いオーレリアン・ウエットといったブーシェが主宰するダンスグループ「アンシダン・コレグラフィック」に参加しているメンバーの活躍が目立った。難民問題を観客に訴えようとした政治的な意図を持った作品だったが、途中から現代哲学者のジル・ドゥルーズがスピノザについて行った講義の録音を流されたことで、ダンス公演としての感興が著しく削がれてしまったのが惜しまれた。
『アンドゥーイング・ワールド』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『アンドゥーイング・ワールド』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『アンドゥーイング・ワールド』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『アンドゥーイング・ワールド』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
最後はニコラ・ポールが15世紀のジョスカン・デ・プレの音楽を使った『山々の上方7メートル半』という不思議な題名の作品だった。ダンサーたちは横に一列になってオーケストラピットから階段を上って舞台上に登場し、舞台奥へ進んでは消えていく。観客に背を向けたダンサーたちの後ろ姿を見せるという斬新な試みだ。客席近くに姿を現し、舞台奥に消える、というパターンが繰り返され、ちょっとづつ変化を付け加えるという手法だった。面白い視点だと思われたが、巨大なスクリーンが舞台奥上方に設置され、時間の経過とともにダンサーたちの身体がせりあがってくる水に沈んでいく様子が映写されたのが目障りな印象を残した。
四つの全く性格の異なる作品が並んだ充実した公演だったが、休憩30分を入れると3時間程度というバレエ公演としてはかなり長い上演時間となった。それぞれの作品が20分程度に凝縮されていたら、いずれも密度が増してより優れたものになっていたのではないかと思われた。
(2017年6月13日 ガルニエ宮)
『山々の上方7メートル半』(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
Renaissance『ルネッサンス』
振付 セバスチャン・ベルト―
音楽 メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲第2番」作品64(音楽は録音を使用)
衣装 Balmain(オリヴィエ・ルスタンのデザイン)
照明 マジッド・ハキミ
ダンサー アマンディーヌ・アルビッソン、ドロテ・ジルベール、オニール八菜、ユゴー・マルシャン、オードリック・ブザール、パブロ・ルガサ 他
The Little Match Girl Passion
『マッチ売りの少女の受難』
振付 シモン・ヴァラストロ
音楽 デイヴィッド・ラング『マッチ売りの少女の受難』
衣装 ドミニック・ゲ
照明 マジッド・ハキミ
歌手 ファラー・エル・ディバニ(メゾソプラノ)、アドリアナ・ゴンザレス(ソプラノ)、ホアン・デ・ディオス・マテオス(テノール)、ウラディミール・カプシュック(バリトン)
打楽器 ニコラ・ラモット、ジャン=バチスト・ルクレール
指揮 ヤン・ヘルー
ダンサー エレオノーラ・アバニャート、マリー=アニエス・ジロ、アレッシオ・カルボーネ 他
『マッチ売りの少女の受難』
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
Undoing World 『アンドゥーイング・ワールド』
振付 ブリュノー・ブーシェ
音楽 ニコラス・ウォームズ The Klezmatics
ジル・ドゥルーズの授業« Immortalité et éternité »の抜粋
装置 アガート・プーペネ
衣装 グザビエ・・ロンズ
衣装 マジッド・ハキミ
ダンサー マリオン・バルボー、オーレリアン・ウエット、イサック・ロペス=ゴメス 他
(音楽は録音を使用)
Sept mètres et demi au-dessus des montagnes 『山々の上方7メートル半』
振付 ニコラ・ポール
音楽 ジョスカン・デ・プレ 「モテット」と「ミサ」の抜粋
装置 ニコラ・ポール
衣装 ベルナール・コナン
照明 マジッド・ハキミ
ヴィデオ ジャン=クリストフ・ゲリ ニコラ・ポール
(音楽は録音を使用)
ダンサー ヴァランティーヌ・コラサント、カロリーヌ・バンス、イダ・ヴィキンコフスキ、ステファン・ブリヨン、ジョシュア・オファルト、ヴァンサン・シャイエ 他
ワールドレポート/パリ
- [ライター]
- 三光 洋