オペラ座ダンサー・インタビュー:フランチェスコ・ムーラ
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Francesco Mura:フランチェスコ・ムーラ(コリフェ)
昨年の昇級コンコールで課題曲、自由曲ともに群を抜いた出来をみせ、1位でコリフェに上がったフランチェスコ。3月のオペラ座訪日公演で、コール・ド・バレエの中に エレガンスを保ちつつもパワフルに踊る彼の姿を認めた人もいるのではないだろうか。
MURAという苗字はフランス語読みだとミュラなのだが、イタリア人の彼なのでイタリア式にムーラと呼ぶことにしよう。昨年オペラ・バスチーユで前シーズン最後の公演であり、また今シーズンの最初の公演でもあったバランシンの『ブラームス・シェーンベルグ・カルテット』のコール・ド・バレエで活躍した彼。元ダンサーのパパも、息子は大変な稽古熱心、と太鼓判を押している。小柄ながら、それを感じさせない舞台上での存在感に、未来が楽しみになるダンサーである。
Q:今日はどのようなスケジュールですか。
A:今、午前のクラスレッスンが終わったところなんです。午後に5月の公演のバランシンの『ラ・ヴァルス』のリハーサルがあります。これはコール・ド・バレエに配役されていて、舞台で踊ることが決まっています。ロビンズの『アン・ソル』は代役なので、舞台で踊るチャンスが来るかどうかはわかりません。
Q:3月はオペラ座のツアーで東京に滞在したのですね。
A:はい。日本に行ったのは今回が初めて。学校時代、日本ツアーがあったけど、それは僕が入る前のことなので逃してて・・・。 東京公演の『ラ・シルフィード』では赤の青年の一人、そしてグラン・ガラでは『テーマとヴァリエーション』のコール・ド・バレエを踊りました。渋谷や原宿など、東京見学は公演の合間に少しだけ。 東京がとっても広いので、驚いてしまいました。イタリア料理 ? かなり美味しいですね、日本のイタリアンは。
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:昨年のコンクールの結果、今年からコリフェ。コンクールの自由曲に『エスメラルダ』のヴァリエーションを選んだのはなぜですか。
A:自分らしさを見せられる作品をいろいろリストアップしてみて、その中から、これに決めました。
Q:高いジャンプや小気味いいプティット・バッテリー。これらが得意そうに見えます。このコンクールでは課題曲が『ドン・キホーテ』のヴァリエーションだったのも、あなたには幸運な要素だったのではないでしょうか。
A:はい。『ドン・キホーテ』というのは、僕が一番踊りたいと思っている全幕作品なのです。テクニック面だけでなく、役創りという面でもバジル役はやりがいがある仕事だろうって、想像しています。
Q:コンクールではバジルのソロを踊りながら笑顔すら見せていたようですが、ストレスはなかったのですか。
A:入団して初めてのコンクールだったので、舞台に上がるまではすごく緊張していました。でも、踊り始めたらそんなことはなく、踊る以上は役になりきろうと・・。
Q:技術面で苦手なことは何ですか。
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris
A:コントロールです。精神面ではなく、ゆっくりしたテンポの時の、です。
Q:どこでダンスを習い始めたのですか。
A:フィレンツェの近くにある、小さなピストイアという街で。僕の両親が教えているバレエ学校でレッスンを始めました。彼らは二人ともダンサーで、カルラ・フラッチのところで踊っていたのです。僕は両親と一緒に小さいときから舞台に立つ機会があったので、ごく自然にダンスを始めていた、という感じですね。
Q:オペラ座のバレエ学校に2012年に入るまで、そこで習っていたのですか。
A:いいえ、2010年にミラノのスカラ座のバレエ学校に入りました。だけど稽古場がとっても狭いので1日に1時間半しかレッスンがない日もあって、とても踊り足りない。家に戻ってからも一人でレッスンを続けていたくらいなんです。それでいろいろと母が調べて、オペラ座のバレエ学校にビデオを送って・・・オーディションを受けることになったのです。
Q:オペラ座のバレエ学校時代はどんなでしたか。
A:大変でした。第三ディヴィジョンに入ったのだけど、朝の一般授業がとても辛かったですね。イタリアから来た僕はまったくフランス語がわからないのに、授業の何もかもがフランス語だったから。それに、友だちもいなくって・・。
Q:では学校時代の楽しい思い出はないのですか。
A:第一ディヴィジョンは、とても楽しくすごせました。学校の公演も良い思い出です。アンドレア・サーリ、シュン・ヴィン・ラムとの3人で、『オーニス』を踊りました。
Q:その3人とも、2015年に揃ってカンパニー入団したのですね。
A:いえ、僕と同時に入団したのは、女性はヴィクトワール・アンクティル、カミーユ・ボン、男性はシュン・ヴィン・ラムと今年僕と同時にコリフェに上がったトマ・ドキールです。
Q:これまでオペラ座の舞台でコール・ド・バレエを踊って楽しめたのは、どの作品ですか。
A :バランシンの『ブラームス・シェーンベルグ・カルテット』ですね。あ、その前に『ロメオとジュリエット』でモンタギューの一員というのも、これも毎晩とても舞台を楽しめました。
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris
Q:休日には、ガラ公演に参加しますか。
A:はい。例えば、今日もこれからランチタイムを利用して、サミュエル・ムレーズのグループ3e Etage(トロワジエム・エタージュ)の次の公演のための稽古があるんですよ。
Q:オペラ座ではクラシック作品を主に踊っているようですが、トロワジエム・エタージュではコンテンポラリー作品も踊りますか。
A:トロワジエム・エタージュのプログラムは、いろいろなタイプの作品がミックスされています。 コンテンポラリー作品もあるけれどグループ内ですでに踊り続けているダンサーがたくさんいるので、僕は今のところクラシック作品だけです。オペラ座でも機会があれば、コンテンポラリーには興味があるので踊ってみたいですね。例えばフォーサイス、ピナ・バウシュ、それからエドワルド・ロックとか・・・。
Q:オペラ座バレエ団のイタリア人ダンサーたちのガラにも参加していますね。
A:はいLes Italiens de l'Opéra de Paris(レジタリアン・ドゥ・ロペラ・ドゥ・パリ)というグループで、座長はアレッシオ・カルボーネです。昨年11月13日にヴェニスで旗揚げ公演がありました。これはオペラ座のダンサーの中のイタリア人、といっても100パーセント、イタリア人ではないダンサーも混じっているけれど、合計11名が集まったグループなんです。
2015年学校公演『オーニス』(中央)
photo David Eloper/ Opéra national de Paris
Q:メンバーは女性がヴァランティーヌ・コラサンテ、レティティア・ガロネ、ソフィア・ロゾリーニ、アンブル・キアルコッサ、そして男性はシモーネ・ヴァラストロ、フランチェスコ・ヴァンタッジオ、アントニオ・コンフォルティ、ジョルジオ・フーレ、アンドレア・サーリとあなた、という記事をイタリアのニュースでみかけました。イタリア人ばかりの集団で、さぞ賑やかなことでしょう。今後も公演の予定がありますか。
A:はい。今年の夏休み中に何回か。日程はちょっと定かではないけれど、例えばイタリアのラヴェロの屋外劇場での公演予定があります。海を背景にした、素晴らしい舞台なんですよ、ここは。詳しい公演情報はサイトで追い追いわかると思います。
(www.facebook.com/lesitaliensdeloperadeparis)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:この間の公演では、あなたは何を踊りましたか。
A:アンドレア・サーリ、シモーネ・ヴァラストロと『オーニス』を。このガラではシモーネが創作した作品も踊られました。
Q:ミラノ・スカラ座のバレエ学校でも学んだあなたにとって、模範とするダンサーは同じくイタリア人のロベルト・ボッレでしょうか。
A:違います、バリシニコフです !! 子供の時から、彼の映像はどんな作品でも何度も何度も繰り返してみているほど、彼の踊りが好きです。それに彼ってダンサーとしては決して大きくないですよね。でも舞台で彼が踊る時、そんなことを微塵も感じさせない。それを見ていると、僕も小柄だけど・・・という一種の励みのようなものもあります。
Q:今シーズンのオペラ座で、『ラ・ヴァルス』の後の仕事はきまっていますか。
A:はい。7月の『ラ・シルフィード』です。でも、来シーズンのことは、何もわかりません。
『ブラームス・シェーンベルグ・カルテット』(左から3番目)
photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris
<<5つのショート・ショート>>
1. プチ・ペール、プティト・メール:いない。
2. 趣味:クラシック・ギター
3. 舞台に出る直前にすること:一瞬だけど、お祈りを。
4. 夢のバカンス先:緑や海など自然に恵まれたどこかの島。
5. パリで好きな場所:モンマルトル。
ワールドレポート/パリ
- [ライター]
- 大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)