ルーヴェとボーラックが見事な踊りでエトワール昇格を果たした『白鳥の湖』、パリ・オペラ座バレエ団

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Le Lac des cygnes" Rudolf NUREYEV 『白鳥の湖』ルドルフ・ヌレエフ:振付

バスチーユ・オペラのクリスマス公演は『白鳥の湖』だった。12月7日のプルミエから12月31日の最終公演まで18公演というロングランだったが、クリスマスを過ぎた28日にジェルマン・ルーヴェ、大晦日の最終公演でレオノール・ボーラックが相次いでエトワールに任命された。ルーヴェはオーレリー・デュポンの舞踊監督就任後初の新任エトワール昇格となった。

『白鳥の湖』の配役は当初、アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオ、マチアス・エイマンとミリアム・ウルド=ブラーム、ローラ・エケとジョシュア・オファルト、リュドミラ・パリエロと、スジェ(2017年1月1日付でプルミエール・ダンスールに昇級予定だった)のジェルマン・ルーヴェ以外は全員エトワールだった。前回の2015年3、4月にミルピエ前舞踊監督がエロイーズ・ブルドン、セウン・パク、オニール 八菜、ヤニック・ビッテンクール、フランソワ・アリュといった若手を思い切って起用し、ローラ・エケがエトワールに任命されたのとは全く違う、ヒエラルキーを尊重した起用となるはずだった。
ところが、ジョシュア・オファルトが怪我で降板してローラ・エケとのカップルが姿を消し、控えに回っていたオニール 八菜とファビアン・レヴィヨンが12月22日、レオノール・ボーラックがマチアス・エイマンと12月31日の最終公演で踊ることになった。またロットバルト役に予定されていたステファン・ブリヨンとマチュー・ガニオも怪我で降板し、最後の二回を控えのジェレミー=ルー・ケール、残りはすべてカール・パケットが踊ることになった。

三回の公演を見ることができたが、最初に見た12月7日の初日はミリアム・ウルド=ブラームのオデット/オディールとマチアス・エイマンのジークフリートという組み合わせだった。この二人は今回のシリーズで9公演を踊った。

レオノール・ボーラック、マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

レオノール・ボーラック、マチアス・エイマン
©Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム
©Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

マチアス・エイマン、カール・パケット (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

マチアス・エイマン、カール・パケット
©Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム
©Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

初めてオデット/オディールに挑んだウルド=ブラームは冒頭、序曲が流れる間にパントマイムで演じられるフラッシュバックの場面に姿を現した時から、寂しげな視線、微妙な腕や脚、傾いた首が一体となり、周囲に哀感が広がった。一方、エイマンは物憂げなまなざし、のびやかな身ごなしでメランコリーにひたった、気品あふれるジークフリートを今回も体現した。こうして、二人のパートナーの息がぴったりと合い、ロマンチックな雰囲気が舞台全体に広がっていき、観客を引き込んだ。

ドラマに厚みを与えたのは、王子の家庭教師ヴォルフガングと悪魔ロットバルトの二役を演じたカール・パケットだった。ヌレエフの振付では、この二人はジキルとハイドのように同一人物の二面となっている 。パケットはベテランらしい巧みな演技で善と悪の両面を持つ人物像を誰にもわかりやすく見せた。また王子と家庭教師との濃密な関係もパケットとエイマンによって明快に表現された。それにとどまらず、周りの若手ダンサーたちに細かく目配りして場面を淀みなく進むようにうながし、ドラマに奥行を与えた。 この夕べでは、レオノール・ボーラック、オニール 八菜、フランソワ・アリュが踊った第1幕のパ・ド・トロワもそれぞれが個性を発揮して見ごたえのあるものとなっていた。オニール 八菜は第3幕のダンス・エスパニョールでもジェルマン・ルーヴェをパートナーとして、独自の輝きを見せていた。
初日だけにすべてが完璧というわけにはいかず、第4幕の冒頭で女性のコール・ド・バレエの一人が転倒する目立つハプニングがあったが、さいわいなことに怪我には至らなかった。全体としてはよくまとまり、パリ・オペラ座の看板演目にふさわしい充実した夕べとなり、客席からは暖かい拍手が送られた。

オニール 八菜 (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

オニール 八菜
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ボーラック、オニール、アリュ (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ボーラック、オニール、アリュ
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム、カール・パケット (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム、カール・パケット
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム、マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム=ウルド・ブラーム、マチアス・エイマン 
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

22日は一昨年に続いてオニール 八菜が、今回はファビアン・レヴィヨンを相手にヒロインを一回だけ踊った晩だった。オニール 八菜は前回からの一年半余りの歳月の間に、誠実に一つ一つの役を積み上げ、着実な進歩を遂げた。ベテランのバレエ評論家ジャックリーヌ・チュイユーは「腕の動きに硬さがあり、羽の表現に改善の余地があるのが唯一の課題だが、他のオペラ座のダンサーにはない、傑出したものがある。この晩にエトワールに任命されても驚きではない」と休憩時間に語っていたが、王子への激しい愛情を優雅な仮面に包んだ、やや冷たい高貴なオデット像を描き出した。ファビアン・レヴィヨンもヒロインをよくサポートし、またエイマンとは一味違う、初々しい覇気のある若者を演じて観客の胸に響くカップルを構成していた。
25日のクリスマスのマチネには、若いジェルマン・ルーヴェとヒロインをすでに何度も踊っているリュドミラ・パリエロが登場した。パリエロは2010年、2015年とすでに何度もヒロインを踊っているが、確固とした技術を土台に、よく工夫を凝らして白鳥と黒鳥との対比を明快に打ち出して、完成度の高いヒロインだった。対するルーヴェは初役ながら、絵本の挿絵に描かれているような見事なシルエットと整った甘いマスクの王子らしい姿で観客を魅了した。この晩は当初マチュー・ガニオがヴォルフガング/ロットバルトを初めて踊る予定だったが、怪我で降板となったのが惜しまれた。

オニール 八菜、ファビアン・レヴィヨン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

オニール 八菜、ファビアン・レヴィヨン
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

今回のシリーズで若い二人のエトワールが誕生した。ベテランのエトワールでは間もなくマリ=アニエス・ジロ、レテシィア・プジョル(いずれも1975年生)が引退する。パリ・オペラ座バレエ団は本格的な新旧交代の時期に入ったようだ。
(2016年12月7日、22日、25日 バスチーユ・オペラ)

レオノール・ボーラック © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

レオノール・ボーラック
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

レオノール・ボーラック、マチアス・エイマン © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

レオノール・ボーラック、マチアス・エイマン
© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

© Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

音楽 チャイコフスキー
振付 ルドルフ・ヌレエフ
原振付 マリウス・プティパ レフ・イワノフ
装置 エツィオ・フリジェリオ 衣装 フランカ・スカルチアピーノ
照明 ヴィニチオ・ケリ
ヴェロ・ペーン指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
配役 (12月7日、22日、25日)
オデット/オディール:
ミリアム=ウールド・ブラーム(12月7日)/オニール 八菜(12月22日)/リュドミラ・パリエロ(12月25日)
ジークフリート王子:
マチアス・エイマン(12月7日)/ファビアン・レヴィヨン(12月22日)/ジェルマン・ルーヴェ(12月25日)
ヴォルフガング(家庭教師)/ロットバルト:カール・パケット(全日)
王妃:サラ=コラ・ダヤノヴァ(12月7日、25日)/ペギー・デュルソール(12月22日)
第1幕のパ・ド・トロワ:レオノール・ポーラック、オニール 八菜、フランソワ・アリュ(12月7日)、エロイーズ・ブルドン、ファニー・ゴルス、ジェレミー=ルー・ケール(12月22日)、マリーヌ・ガニオ、エレオノール・ゲリノー、アクセル・イボ(12月25日)
第2幕
4羽の小さな白鳥:
エレオノール・ゲリノー、セヴリーヌ・ヴェスターマン、アリス・カトネ、オーバーヌ・フィルベール(全日)
4羽の大きな白鳥:
エロイーズ・ブルドン、ファニー・ゴルス、セウン・パク、イダ・ヴィキンコスキ(12月7日)マリー=ソレーヌ・ブーレ、エロイーズ・ブルドン、ファニー・ゴルス、セウン・パク(12月22日、25日)
第3幕
チャルダシュ:
レオノール・ボーラック、フランソワ・アリュ(12月7日)、セヴリーヌ・ヴェスターマン、シリル・ミティリアン(12月22日)、セウン・パク、ファビアン・レヴィヨン(12月25日)
ダンス・エスパニョール:
ヴァランティーヌ・コラサント、オニール 八菜、ジェルマン・ルーヴェ、アルチュス・ラヴォー(12月7日)サラ=コラ・ダヤノヴァ、イダ・ヴィキンコスキ、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イボ(12月22日)マリー=ソレーヌ・ブーレ、ファニー・ゴルス、ヤニック・ビッテンクール、アクセル・イボ(12月25日)
ダンス・ナポリターナ:
メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー(12月7日)、ジェニファー・ヴィゾッキ、ポール・マルク(12月22日)マリーヌ・ガニオ、アントワーヌ・キルシャー(12月25日)

ワールドレポート/パリ

[ライター]
三光 洋

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