ローザンヌ国際バレエコンクール2024ファイナルが行われ小林愛里が5位、利田太一が9位に入賞
- ワールドレポート
- ワールドレポート(その他)
掲載
ワールドレポート/その他
香月 圭 text by Kei Kazuki
ローザンヌ国際バレエコンクール2024の決選(ファイナル)が2月3日、スイス、ローザンヌのボーリュ劇場で行われ、20名のファイナリストのなかから9名が入賞した。小林愛里は第5位、利田太一は第9位に選ばれた。小林は2021年オンライン開催のときのファイナリストだった。3年ぶりの今大会では『ライモンダ』第1幕の「夢の場」のヴァリエーションで念願の檜舞台に登場。優美なポーズを滑らかに紡いで、幻想の世界を表現した。コンテンポラリーのヨルマ・エロ振付の『1st Flash solo 1』では、ゆっくりとした動きの無音の前半部から一転、後半では独奏ヴァイオリンのうねりに合わせて手足や身体を自在に動かし、閃光のように舞台を飛び去っていった。
第5位:315 小林愛里『ライモンダ』第1幕より「夢の場」のバリエーション
©Gregory Batardon
第5位:315 小林愛里『1st Flash solo 1』
©Gregory Batardon
第9位:207 利田 太一『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』第2幕よりコーラスのバリエーション
©Gregory Batardon
第9位:207 利田 太一『Do You Care ?』
©Gregory Batardon
利田太一は『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』第2幕よりコーラスのヴァリエーションを披露。軽やかなジャンプが持ち味で、快活な表情も印象的だった。コンテンポラリーは昨年のヤング・クリエーション・アワードを受賞したアレイシャ・ウォーカーによる『Do You Care?』。利田の演技は柔軟な体躯を活かした前後、左右の開脚などの床技のポーズが美しく、青春期の繊細な感情が表れていた。
第1位は南米予選で選出されたブラジル出身のジョアン・ペドロ・ドス・サントス・シウヴァ。クラシックの『アルレキナーダ』では、茶目っ気のある表情、遠くからでもはっきりとわかる大きなジェスチャーで、恋する道化アルルカンをチャーミングに演じた。コンテンポラリーのヨルマ・エロ振付作品『Plan to B』では、粗削りながらも疾走感のあるダイナミックな踊りを見せた。
第2位はポルトガル出身でモナコのプリンセス・グレース・アカデミーで学ぶマルティーニョ・リマ・サントス。同校からは、アルゼンチン出身のパロマ・リベジャーラ・ビダールトが第3位、フランス出身のジュリアン・フェデル=マラールも第7位に入賞し、この学校の出場者は例年と並び、今年も好成績を残した。リマ・サントスの『海賊』は力みすぎず、細部まで丁寧に踊り、穏やかな中にも強さを感じる表情がよかった。コンテンポラリー・ヴァリエーション『Do You Care?』では自分なりの動きの意図が明確に感じられ、前に進もうとする若者の葛藤が伝わった。この演技でリマ・サントスはコンテンポラリー・ダンス賞も受賞した。パロマ・リベジャーラ・ビダールトは『ラ・バヤデール』ガムザッティのヴァリエーションと、クリストファー・ウィールドンがジョニ・ミッチェルの歌に振付けたコンテンポラリー・ヴァリエーション『You Turn Me on I'm a Radio』の両方で、いずれも堂々とした演技を見せた。彼女が醸し出す艶やかな個性は、ほぼプロの領域に到達しているように見える。リベジャーラ・ビダールトは観客賞とボーリュ賞も受賞した。オーストラリアのクイーンズランド・バレエ・アカデミーからは、ジェンソン・ブライトが第6位、ルビー・デイがベスト・ヤング・タレント賞を受賞した。
第1位 :201 ジョアン・ペドロ・ドス・サントス・シウヴァ『アルレキナーダ』
©Gregory Batardon
第1位 :201 ジョアン・ペドロ・ドス・サントス・シウヴァ『Plan to B』
©Gregory Batardon
第2位、コンテンポラリー賞:415マルティーニョ・リマ・サントス『海賊』
©Gregory Batardon
第2位、コンテンポラリー賞:415マルティーニョ・リマ・サントス『Do You Care ?』
©Gregory Batardon
第3位、観客賞、ボーリュ賞:317 パロマ・リベジャーラ・ビダールト『ラ・バヤデール』よりガムザッティのバリエーション
©Gregory Batardon
第3位、観客賞、ボーリュ賞:317 パロマ・リベジャーラ・ビダールト『You Turn Me on I'm a Radio』
©Gregory Batardon
38年前にローザンヌ国際バレエコンクールで入賞し、今年の審査員長を務めたダーシー・バッセルは、授賞式で参加者に以下のように語りかけた「出場者の皆さん、ご自身が一人のアーティストであることを忘れないでください。昨今のSNSで見かける、極度に"盛られた"ポーズやステップなどは、感情を揺さぶる芸術である舞踊を正しく反映しているとはいえません。あなた方の表現を舞踊で伝えることに専念してください。あなた方は一人ひとりユニークな存在で、あなた方が作る一つ一つの動きにはストーリーがあるのです。今、世界は政治的にも環境的にも複雑になったように感じます。人生には常に課題がのしかかります。アートにはこの世に美、強さ、希望、協力、共感、つながりを担うという、最も重要な役割があります。学びを止めることなく、アーティストとして成長していってください。協力、自然、そしてほかの芸術からも刺激を受け続けてください」。
《ローザンヌ国際バレエコンクール2024決選(ファイナル)結果》
第1位
201 ジョアン・ペドロ・ドス・サントス・シウヴァJoão Pedro DOS SANTOS SILVA/15歳2カ月/ブラジル/Cia Jovem do Teatro Escola Basileu França/『アルレキナーダ』『Plan to B』
第2位
415 マルティーニョ・リマ・サントスLIMA SANTOS Martinho/17歳11カ月/ポルトガル/プリンセス・グレース・アカデミー/『海賊』『Do You Care?』
第3位
317 パロマ・リベジャーラ・ビダールトLIVELLARA VIDART Paloma /18歳5カ月/アルゼンチン/プリンセス・グレース・アカデミー/『ラ・バヤデール』よりガムザッティのバリエーション、『You Turn Me on I'm a Radio』
第4位
106クリスタル・フアンHUANG Crystal /15歳3カ月/アメリカ/Bayer Ballet Academy; The Rock Center for Dance/『海賊』第3幕よりギュリナーラのバリエーション、『Do You Care ?』
第5位
315 小林 愛里 KOBAYASHI Airi /18歳4カ月/日本/デパルク バレエスクール/『ライモンダ』第1幕より「夢の場」のバリエーション、『1st Flash solo 1』
第6位
411 ジェンソン・ブライト BLIGHT Jenson /17歳7カ月/オーストラリア/クイーンズランド・バレエ・アカデミー/『タリスマン』『Tout va bien ?』
第7位
417 ジュリアン・フェデル=マラール FEDELE-MALARD Juliann /18歳1カ月/フランス/プリンセス・グレース・アカデミー/『パキータ』『Urge for Going』
第8位
302 ナタリー・スティール STEELE Natalie /17歳2カ月/アメリカ/アメリカン・バレエ・シアター付属ジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクール/『眠れる森の美女』第3幕よりオーロラ姫のバリエーション、『Plan to B』
第9位
207 利田 太一 TOSHIDA Taichi /15歳8カ月/日本//『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』第2幕よりコーラスのバリエーション、『Do You Care ?』
《その他の賞》
◆ベスト・ヤング・タレント賞
313 ルビー・デイDAY Ruby /17歳10カ月/オーストラリア/クイーンズランド・バレエ・アカデミー/『海賊』第3幕よりメドゥーラのバリエーション、『Do You Care ?』
◆コンテンポラリー賞
415 マルティーニョ・リマ・サントスLIMA SANTOS Martinho/『Do You Care ?』
◆ベスト・スイス賞
407 ジュゼッペ・スキラーチSCHILLACI Giuseppe /17歳6カ月/イタリア//『海賊』第3幕よりメドゥーラのバリエーション、『Do You Care ?』
◆観客賞
317 パロマ・リベジャーラ・ビダールトLIVELLARA VIDART Paloma
◆Web観客賞
201 ジョアン・ペドロ・ドス・サントス・シウヴァJoão Pedro DOS SANTOS SILVA
◆ボーリュ賞
317 パロマ・リベジャーラ・ビダールトLIVELLARA VIDART Paloma
今年の生涯功労者賞は、ウィーン国立バレエの次期芸術監督に就任するアレッサンドラ・フェリに贈られた。フェリは1980 年ローザンヌ国際コンクールに入賞。英国ロイヤル・バレエ、アメリカン・バレエ・シアター、ミラノ・スカラ座バレエなどに在籍し、世界各地で客演を重ねた。彼女の芸術性や才能、献身的な努力に対してミラノ・スカラ座バレエから「プリマ バレリーナ アソルータ」の称号を授与されている。
4回目となる今回の新人振付家賞「ヤング・クリエーション・アワード」には、提携バレエスクール19校より55名(女子31名、男子24名)の応募があり、そのなかからファイナリスト5名が選ばれた。1月31日に審査員の前で作品が披露され、ハンブルク・バレエ学校のクィン・ベイツによる『Groovin'』とパルッカ舞踊大学のクセニア・コサヴァによる『Under glass』の2作品が入賞した。これらのヴァリエーションは、次年度のローザンヌ国際バレエコンクール2025のコンテンポラリー・ヴァリエーションのリストに入る。入賞者には、来年のコンクール会場で出場者に指導する機会も与えられる。出場者と同世代の彼らの作品は、今年も多くの支持を集めた。新しく始まった新人振付家育成の試みは、少しずつ成果を上げてきているようだ。
ヤング・クリエーション・アワード入賞作『Groovin'』(振付:クィン・ベイツ、演技者:ミゲル・アルトゥール・アルヴェス・オリヴェイラ)
©Gregory Batardon
ヤング・クリエーション・アワード入賞作『Under glass』(振付:クセニア・コサヴァ、演技者:名取川さくら)
©Gregory Batardon
◆ヤング・クリエーション・アワード受賞者
クィン・ベイツQuinn BATES (アメリカ) /ジョン・ノイマイヤー・ハンブルク・バレエ学校/『Groovin'』 /演技者: ミゲル・アルトゥール・アルヴェス・オリヴェイラMiguel Artur ALVES OLIVEIRA
クセニア・コサヴァKseniya KOSAVA (ベラルーシ) / ドレスデン・パルッカ舞踊大学/『Under glass』/演技者:名取川さくら
世界各地の提携校の代表が25名集まり、振付家のもとでコンクール期間中に新作を創る「提携校振付プロジェクト」。5年目となる今年は、キンスン・チャンによる『SCHRäääG』が創作され、コンクール期間に3回上演された。アメリカン・バレエ・シアター付属ジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクールの代表として、松原綾香が参加した。暗闇で、道化人形たちが踊り出す様を描いた、風変わりでマジカルな印象を与える作品。トリコロールの斜めストライプの衣装を着た生徒たちと、同じ模様の衝立がならび、視覚的にも強いインパクトを与えた。
提携校振付プロジェクト『SCHRäääG』(振付:キンスン・チャン)
©Gregory Batardon
ローザンヌ国際バレエコンクール最終日の2月4日に「ライジング・スター・ガラ」が開催された。ミュンヘン・バレエ(バイエルン国立バレエ)よりプリンシパルのマディソン・ヤング(2016年ローザンヌ国際バレエコンクール入賞)とジュリアン・マッケイ(2015年同コンクール入賞)の二人がゲストとして招かれ、開幕にアンジュラン・プレルジョカージュ振付『ル・パルク』の"解放"のパ・ド・ドゥ、そしてフィナーレで『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥを披露した。『ル・パルク』では、成熟した男女間の官能的な雰囲気が二人から漂っていた。二人は『ドン・キホーテ』で、いなせなキトリと伊達男なバジルに扮して、華やかにガラを締めくくった。このほか、今年の入賞者とファイナリストたちがコンクールで踊ったヴァリエーションを披露した。そのほか、ヤング・クリエーション・アワードに入賞したクィン・ベイツ振付『Groovin'』とクセニア・コサヴァ『Under Glass』の2作品と、提携校振付プロジェクトのキンスン・チャン振付の新作『SCHRäääG』も25名の提携校の生徒たちの出演により上演された。
次回のローザンヌ国際バレエコンクール2025の決選は、2025年2月8日に行われる。
小林愛里、ローザンヌ国際バレエコンクール2024授賞式にて
©Gregory Batardon
利田太一、ローザンヌ国際バレエコンクール2024授賞式にて
©Gregory Batardon
ローザンヌ国際バレエコンクール2024授賞式にて入賞者と審査員 ©Rodrigo Buas
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。