金子扶生が12月に初開催される〈宮崎国際バレエコンペティション〉の審査員に「コンクールの経験を子どもたちに伝えたい」と語る

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

12月27日〜29日に〈第1回宮崎国際バレエコンペティション2023〉が宮崎市民文化ホールで開催される。13才〜21才のバレエ経験3年以上の男女が対象となっている。また併設の宮崎ジュニアバレエコンペティション(通称:リトルバード)は、7才〜12才の男女を対象に行われる。新設されたこのコンクールのスペシャルゲスト審査員を務める英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルの金子扶生に、話を聞くことができた。コンクール期間中にはワークショップが行われ、金子扶生のクラシック・クラスも予定されている。最終日には、同じくスペシャルゲスト審査員のワディム・ムンタギロフと共に、舞台でのリハーサルシーンも見学できるという。
金子扶生は英国ロイヤル・バレエ団の東京、大阪、姫路の夏の公演で日本の観客を魅了したばかり。2024年1月27日には「NHK バレエの饗宴 2024」の舞台で、ワディム・ムンタギロフと『くるみ割り人形』からグラン・パ・ド・ドゥを披露する予定だ。
金子扶生は今季の英国ロイヤル・バレエ団で『ドン・キホーテ』の主演を務め、先月末にはミラノでの「ボッレ&フレンズ」に客演するなど、世界中で愛されるプリマに成長した。一方で、彼女は若いダンサーたちにバレエを教えることにも熱い情熱をもつ。ヴァルナ、モスクワ、ジャクソンの三大国際バレエコンクールで華々しい成績を収めた金子扶生が、コンクールの経験や次世代のダンサーを導くことについての思い、そして英国ロイヤル・バレエ団でのこれまでの歩みや近況について語ってくれた。

ーー 今回新しく始まる「第1回宮崎国際バレエコンペティション2023」のスペシャルゲスト審査員にワディム・ムンタギロフさんとお二人で就任されます。バレエコンクールの審査をされるのは初めてですか。

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金子扶生

金子 オファーをいただいて、迷うことなくお受けしようと思いました。ワディムさんは審査のご経験があるとおっしゃっていましたが、私自身は審査をさせていただくのは初めてです。

ーー ヴァルナ、モスクワ、ジャクソンの三大国際バレエコンクールでのご経験も活かせるというお考えもありましたか。

金子 そうですね。私はこれまでずっと審査していただく側でしたが、自分のバレエ人生の中でも、やはりコンクールから学んだことがすごく大きかったので、この経験をバレエを頑張っている日本の子どもたちにもお伝えすることで、彼らの将来に繋がっていってくれたらと思っています。

ーー 審査をするにあたって、どのような点に注目されますか。

金子 どの子どもたちもコンクールではすごく緊張しますし、最終的には自分との戦いになってきますが、私は心から踊っている子どもたちを見たいと思います。何かを心から伝えようとしてくれているような踊りを期待します。やはり、バレエはすごく難しいので、完璧に踊るためには考えることがたくさんあり、緊張して自分の思い通りに踊れないことはよくあることですが、その中でも自分らしさを持った踊りをしてくれたらと思っています。

ーー コンクールに出場する参加者の心構えについて、アドバイスをお願いします。

金子 コンクールというのは非日常的な経験だと思うので、この外からの刺激をそのまま受け止めて、怖がらずに全身でぶつかっていってほしいと思います。参加する方々はコンクールに向けて努力を重ねて練習しますが、たった一度の本番しか見ていただけないので、たくさん練習した自分を信じて舞台に立ってほしいと思います。

ーー 「第1回 宮崎国際バレエコンペティション 2023」では、小学生の年代の方々にワークショップで教えていただけるそうですが、どんな指導を心がけますか。

金子 教えることは好きで、興味もあります。小学生や10代の子供たちに、私が経験してきたことを生かして指導できたらと思って、とても楽しみにしています。私自身、バレエに大きな興味が湧いてきたのは小学生の頃でした。普段通っているバレエ教室のお友達とは異なる環境で、お互い初対面同士の参加者の皆さんと一緒に私のワークショップを受けていただき、いい刺激を受けて将来的に「バレエが好きだ」という気持ちが一段と大きくなってくれたらと思います。

ーー これまで参加されたコンクールの感想を教えてください。

金子 初めてのコンクールは日本国内だったのですが、参加してみて「ああ、私もこんなふうに踊りたい!」と大いに刺激を受けたのです。同世代の子供たちが頑張っている姿を見て、すごく影響を受け「もっと頑張ったら、さらに上達するかもしれない」と思い、さらに努力を重ねることを覚えました。それがきっかけとなり、それ以降はバレエへの愛情に火がついて、バレエがより一層好きになり、もっとうまくなりたいという一心で稽古に励むようになりました。

ーー ヴァルナなどの国際バレエコンクールでは、バレエ界の錚々たる先生方が審査をされていらっしゃったかと思いますが、そういった方々から刺激を受けましたか。

金子 国際バレエコンクールはヴァルナ、モスクワ、ジャクソンと参加しましたが、私の中ではヴァルナが一番大変でしたね。ヴァルナではYouTubeで何度も拝見していた、大好きなエカテリーナ・マクシーモワさんとウラジーミル・ワシーリエフさんに審査をしていただいたことも嬉しかったのですが、マクシーモワさんに初めて生でお会いしてご挨拶できたということが、私の中では最も嬉しい思い出のひとつです。

ーー ジャクソン国際バレエコンクールで銀賞を授与され、その後、英国ロイヤル・バレエ団に入団されました。当時はいかがでしたか。

金子 コンクールでは主役の踊りを学ぶことで、精神的にも鍛えられました。英国ロイヤル・バレエ団に入ったとき、最初はコール・ド(・バレエ)だったので、列に並んで後ろの方で皆に合わせて踊るというポジションでした。ずっと同じポーズで静止する時間が長く、踊りたいのに踊れなかった時期でした。地主薫先生に学んだワガノワ・スタイルでは伸びを使って大きく動く、という感じでしたが、ロイヤル・バレエスタイルになり、アシュトン作品となると、さらに型が決められているので、それに慣れるまではすごく苦労しました。
でも、英国ロイヤル・バレエ団には世界中からいろんなダンサーが来ており、プリンシパルになると、コール・ド・バレエをしているときほど型に縛られているような感覚はなく、一人一人のオリジナリティこそが重要視されてくるので、現在は自分の個性を出して踊ることができています。

ーー 英国ロイヤル・バレエ団では、演劇の国イギリスらしいドラマチックな作品が多いですね。

金子 英国ロイヤル・バレエ団での初舞台は『マノン』でしたが、主役の方々だけでなく、舞台の端にいるすべての演者のマイムや間の使い方がごく自然で、本当に喋っているかのように動くので、絵本の中に入り込んだように感じました。そういった点でカルチャーショックを受けつつも、大いに学ばせていただきました。

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金子扶生『ロミオとジュリエット』英国ロイヤル・バレエ団

ーー この夏は、金子さんがご出演される英国ロイヤル・バレエ団の日本ツアーなど、公演が目白押しでした。日本で踊った感想はいかがでしたか。

金子 日本で踊れるということは本当に格別です。それだけで本当に嬉しく光栄なことですが、やはり地元の大阪で、自分が英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして『ロミオとジュリエット』の主役を踊る姿を、家族や私の恩師にやっと見ていただくことができたのは何物にも代えがたい貴重な体験で、一番幸せなひとときでした。東京ではガラ公演のため、すごくハードなスケジュールでしたが、そういった経験も勉強になりました。

ーー 英国ロイヤル・バレエ団の大阪、姫路公演や『The Artists -バレエの輝き』ではワディム・ムンタギロフさんと組んでいらっしゃいました。彼はどのようなパートナーでしょうか。

金子 彼は経験が豊富で指導もしてくださるので、やはり彼から学ぶことはとても多いです。『ロミオとジュリエット』のときは、お互い高め合って二人の踊りを作り上げていく、という感じでしたね。

ーー 英国ロイヤル・バレエ団の新シーズンでは、アコスタ版の『ドン・キホーテ』をウィリアム・ブレイスウェルさんと踊られ、この作品のご出演の楽日を終えたばかりですが、今の心境はいかがですか。

金子 心から楽しんで踊ることができました。舞台が終わってから母が教えてくれたのですが、10年前の同じ11月3日に、この『ドン・キホーテ』でキトリを踊っていたときに、舞台の上で大怪我をしたのです。それから手術をしてリハビリの日々を乗り越え、10年後に再びキトリを踊れるようになるまで、振り返ると本当に長い月日だったと思いますが、今は健康な状態で大好きなバレエをさせていただけるという感謝でいっぱいです。

ーー 先日の「ワールド・バレエ・デー2023」では英国ロイヤル・バレエ団のスタジオから、ウィリアム・ブレイスウェルさんとの『ダンテ・プロジェクト』のパ・ド・ドゥのリハーサルの模様が中継されました。2年前はフェデリコ・ボネッリさんを相手役にベアトリーチェを演じていらっしゃいましたが、今回はいかがですか。

金子 パートナーが変わるだけで全体の感じもすごく変化してくるので、また新しいパートナーと最初から新しいものを作るという感覚ですね。

ーー 今季の英国ロイヤル・バレエ団では、ほかにどの作品に出演されますか。

金子 今回はマクミランの『マノン』の主役デビューをさせていただくことが決まっています。

ーー それは楽しみですね!

金子 はい、ありがとうございます。

ーー 舞台ではいろんな作品で主演される一方、教える活動もされているので、毎日お忙しいと思います。そのような日々の中で、健康を維持する秘訣を教えてください。

金子 健康こそ大切なので、体調管理には細心の注意を払っています。これまで怪我をすることが多かったのですが、その経験から学んだことがたくさんあります。ソリストやファーストソリストだったときは、毎日踊らざるを得なかったので体を酷使していましたが、プリンシパルになってからは、出演日の間隔が適度に空くようになったので、たくさんリハーサルをした後は、家できちんと休む時間が取れるようになりました。現在はしっかり食べて栄養を摂り、睡眠もたっぷり取るという生活を基本にしています。少しでも睡眠が足りないと、肌にもその反応がてきめんに出るので、毎日、自分の体がどのような状態かということに耳を傾けて、自分をいたわりつつ、トレーニングやリハーサルなど日々の運動の強度をどの程度プッシュするかを決めています。

ーー コンクールを乗り切るためにも、健康管理は大事ですね。

金子 もちろんそう思います。経験から学んだことですが、やはり睡眠をとらないと集中力も欠けてしまいますし、そのような状態で長い時間スタジオにいても、伸びることができないと思います。たとえ短い時間であっても、お稽古に集中して頑張るということが大事です。小さい頃は、炭水化物がどのように体にエナジーを与えてくれるのか、また、タンパク質は筋肉を作るのにすごく重要だ、といった栄養学の知識を全く持ち合わせていませんでしたが、バレエを踊っている方々には、栄養をきちんと取ることで心からも幸せになると思いますし、ストレスのない体でいて欲しいなと思います。

ーー 輝くような笑顔で表情豊かに踊る姿が印象的ですが、そのような表現力を身につけるにはどうしたらいいでしょうか。

金子 様々なバレエダンサーの踊りや、全幕物のバレエを見ることがすごく勉強になったと思います。怪我で舞台に出られない期間がすごく長かったので、その時にいろいろな舞台を少しでも客席から観たいと思っていました。自分が踊れないときにバレエを見るのはすごくつらかったのですが、舞台をじっくり見ていると、一人一人全く違う演技や踊りをしていました。「この人のこの部分がいい」という発見が私の中では数多くあり、それらを何度も見ていると「私だったらこのように踊りたい」という想像が浮かんでくるのです。素晴らしいダンサーの方々から大いに刺激を受けて、自分の中で自分の物語を作っていきました。優れたバレエダンサーの踊りを数多く見て「ここがすごいな」というものをたくさん吸収してほしいと思います。それをそのままコピーするということではなく、刺激を受けたものを糧にして、自分の物語を作るということを続けていってもらえたらと思います。

ーー 最後に「第1回宮崎国際バレエコンペティション2023」に今後エントリーしようかと考えている方々にメッセージをお願いします。

金子 コンクールは、舞台で踊ることもそうですが、本番に至るまでの練習の積み重ねや周りから刺激を受けたりといった数々の貴重な経験から「プロのバレリーナを目指したい」という最初のきっかけとなりました。このような素晴らしい体験を皆様にご提供したく、この機会に参加することが可能でしたら、ぜひ迷わずエントリーしてほしいと思います。

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◆第1回宮崎国際バレエコンペティション2023

2023年12月27日(水)〜29日(金)
宮崎市民文化ホール〈大ホール〉
対象:13才〜21才 男女

◆併設:宮崎ジュニアバレエコンペティション(通称:リトルバード)

対象:7才〜12才歳 男女

公式サイト:https://miyazaki-balletcompetition.jp/

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