英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン『シンデレラ』で義姉をコミカルに楽しく演じたアクリ瑠嘉に聞く

ワールドレポート/その他

インタビュー=香月 圭

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アクリ瑠嘉 Photograph by Andrej Uspenski

〈英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23〉ロイヤル・バレエによるフレデリック・アシュトン振付の新制作版『シンデレラ』が6月16日からTOHOシネマズ 日本橋 ほかにて全国公開される。映像は、4月12日のロイヤル・オペラハウスの上演をシネマライブ中継したもの。ファースト・ソリストのアクリ瑠嘉が、マリアネラ・ヌニェス演じるシンデレラの義姉をギャリー・エイヴィスとのコンビにより、巧みな演技で英国の観客の笑いを誘っている。『くるみ割り人形』のハンス・ピーターや『うたかたの恋 -マイヤリング-』のブラットフィッシュなどのこれまで見せてきた端正な雄々しい役から、今回は全く異なるユーモラスな役柄でコメディアンとしての一面を見せたアクリ瑠嘉。6月末から始まる英国ロイヤル・バレエ団来日公演にも出演する彼に話を聞いた。

―― 義姉役に選ばれたときのお気持ちはいかがでしたか。

アクリ:『シンデレラ』を上演することが決まり、もしかしたら義姉役のオファーが来るかなと思っていました。実際にその役を打診されたときは嬉しくて、「ぜひやらせてください」とすぐに監督のケヴィン(・オヘア)にお伝えしました。いろんな役に挑戦していきたいと思っていたので、今回の義姉役は「絶好のチャレンジの機会だな」という気持ちで取り組みました。
僕が演じたのは振付したご本人のフレデリック・アシュトンさんも演じたことのある役で、ロバート・ヘルプマンさんとのコンビで主役を食うくらいの名演を見せたそうです。
今回、僕はギャリー(・エイヴィス)さんとのペアでしたが、彼は以前も何度か演じたことがあり、今回も強いお姉さんを強烈に演じています。リハーサルで振り写しが始まり、僕自身はどのように役作りをしようかと思っていましたが、ギャリー演じるお姉さんがすごく強いので、バランスを取って自然と可愛らしい性格で、いじめられてもお姉さんのことは大好きな妹というイメージで演じていました。

シンデレラ Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』左よりギャリー・エイヴィス、ワディム・ムンタギロフ、マリアネラ・ヌニェス、アクリ瑠嘉
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

―― お父様も以前、新国立劇場バレエの公演でこの義理の姉の役を演じましたね。

アクリ:このときはまだ弟の士門が小さかった頃ですが、3幕で義姉と手遊びをするシーンを真似したりしてゲラゲラ笑ったりしていたのを今でも覚えています。子どものときから『シンデレラ』の曲や振りはほとんど頭に入っていましたね。演技力については父のDNAを受け継いでいるのかなと思います。父自身にとっても、この義姉役はこれまで演じてきたキャラクターの中でもすごく好きな役だと今でも言っているくらいです。この冬、日本に帰国した際も、このバレエを最初から最後まで家で父と一緒に踊りました。アシュトン・バレエは、曲のカウントの取り方や振付がびっしり詰まっています。一回覚えると、それしか頭に入らなくなるという感じの振付です。父も「今でも覚えてるよ」と言って、一緒に動いては「僕はこうやったんだけど、今は違うんだね」と振付の変遷を家族で楽しんだりしました。1月の頭に、両親と士門が休みがとれたときに家族全員で僕の舞台をロンドンまで観に来てくれたのですが、そのときも家で本番前日に1幕から3幕まで通して振りのおさらいをガッツリやりました(笑)。

シンデレラ Vadim-Muntagirov-and-Marianela-Nunez-in-Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

シンデレラ Fumi-Kaneko-in-Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』金子扶生
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

シンデレラ Gary-Avis-and-Luca-Acri-in-Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』ギャリー・エイヴィス、アクリ瑠嘉
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

―― 女性役としてドレスを着てヒール靴を履き、かつらや大きな髪飾りを被って踊るのは大変でしたか。

アクリ:はい、いつもと全く異なる経験になりました。あれほど大きいドレスを着たことは初めてだったと思います。ピンクずくめのドレスを着たら、仕草が自然と女の子っぽくなりましたね。ヒールを履いて踊るのは大変ではなかったのですが、やはり踊り方が普段とは全く違います。リハーサルのときからずっとヒールを履いて練習しました。特に2幕でオレンジを持って踊る「オレンジ・ダンス」のシーンで、お姉さんと一緒にジュッテで舞台上を回っていくところが一番難しかったです。気をつけないと足をひねってしまうことになりかねないので、そうならないようにちゃんと踏ん張って、きれいに着地できるように心がけて踊りました。普段ヒールを履いている女性の方々はすごいなとあらためて思いました。
開幕前1、2時間前には楽屋入りして、メイクアップ・アーティストの方々に入念なメイクを施していただきました。頭部にはプラスチック製の「ボールドキャップ」を被せてもらい、地毛を完全に隠して大きなかつらを被ります。メイクが終わると衣装を着て、すぐ舞台に向かいます。幕が変わることにメイクと衣装を変えてまた舞台へ走り、終幕までノンストップでした。僕たちは脇役ですが、主人公と同じくらい出番が多いなあという感覚でしたね。衣装・メイクのチームの方たちもいい方ばかりで、本当によくしていただきました。

シンデレラ Marianela-Nunez-in-Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』マリアネラ・ヌニェス
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

シンデレラ Yuhui-Choe-in-Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』崔由姫
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

―― 今回、新しく制作された『シンデレラ』は舞台美術や衣装などもデザインが一新されましたね。

アクリ:制作当初から美術デザインのイメージは提示されていましたが、舞台稽古をやっている最中にデザイン変更が何度も行われ、最終的には以前のヴァージョンとは全く異なるユニークなものになりました。

―― 『シンデレラ』でお好きなシーンを教えてください。

アクリ:全幕通して最初から最後までの流れがいいので、好きなのはこのシーンだけということはないですが、やはり1幕では僕たちには踊る場面もあって、演技のシーンもすごく多いので好きですね。ダンシング・マスター(ダンス教師)と一緒に踊る場面もお客様がすごく楽しんでくださったので印象に残っています。2幕冒頭での僕たちの登場シーンでは、階段の上から落ちるときに一番受けていたようで、その場面も気に入っています。それから「オレンジ・ダンス」のシーンも乗りのいい曲だったので、楽しんで踊れました。やはりプロコフィエフの曲はすごく素晴らしいと思います。2幕で皆が踊るワルツはプロコフィエフらしくミステリアスな曲調でありながらも、壮大なスケール感を感じさせる大好きな曲でした。

シンデレラ Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』ギャリー・エイヴィス、アクリ瑠嘉
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

シンデレラ Cinderella,-The-Royal-Ballet-©2023-Tristram-Kenton

『シンデレラ』ギャリー・エイヴィス、アクリ瑠嘉
The Royal Ballet ©2023 Tristram Kenton

―― 6月末からスタートする英国ロイヤル・バレエ団の来日公演についてもお話しください。

アクリ:〈ロイヤル・セレブレーション〉のクリストファー・ウィールドン振付作品『FOR FOUR』に出演します。元々アンヘル・コレーラのために振付けられたパートで、今回はマルセリーノ・サンベと僕が踊ります。ジャンプやターンも多くダイナミックな振付です。ウィールドンのクオリティーを崩さずにダイナミックなところを見せたいと思います。舞台に出たらずっと踊り続ける作品で、結構タフな振付だと思います。来日公演前にはロイヤル・オペラ・ハウスでウィールドンの『コリュバンテスの遊戯』も踊るので、ウィールドンさんご本人によるご指導も受けることになっています。この夏は彼の作品を学ぶいい機会をいただきました。今回の英国ロイヤル・バレエ団来日公演では、アシュトン振付の『田園の出来事』でナターリヤの息子のコーリア役で出演予定です。熊川哲也さんがローザンヌ国際バレエコンクールでボールを操りながら踊ったヴァリエーションを披露します。

―― 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23『シンデレラ』や英国ロイヤル・バレエ団来日公演に続いて、夏の舞台も続きますね。

アクリ:7月19、20日に両親が経営するアクリ・堀本バレエアカデミーのガラ公演が地元、大宮のソニックシティで開催されます。国内外で活躍するアカデミー卒業生が在校生と共演するガラ公演で、今回で2回目になります。弟の士門を含め、海外で活躍する同窓生がこんなにいたのかと驚くほどです。クラシックからコンテンポラリーまで、皆で踊るグループ作品もあり、プログラムもバラエティーに富んでいます。皆さん、ぜひ観にいらしてください。
8月11日に新国立劇場オペラハウスで上演されるスターダンサーズ・バレエ団の「ドラゴンクエスト」では、士門と共演という夢のような機会をいただき、とても楽しみにしています。スターダンサーズ・バレエ団にも池田武志くんや佐野朋太郎くんなど幼なじみのダンサーがいます。このぐらいの年齢になると、一回一回の舞台が意味のあるものになると実感しています。今年2月の都民芸術フェスティバルでも『ドン・キホーテ』に出演させていただき、夢のような経験になりました。

―― 英国ロイヤル・バレエ団ではプティパなどの古典作品からフレデリック・アシュトン、ケネス・マクミランのドラマティック・バレエ、そしてクリストファー・ウィールドン、ウェイン・マクレガー、クリスタル・パイトなどの現代作品まで様々な作品に出演されてきましたが、今後はどんな役をやってみたいですか。

アクリ:今回のようなキャラクター要素の強い役は、テクニックなどの難しさはあまりなく、役に入り込んで演じることが楽しいので、もっと挑戦していきたいです。もちろん、踊りの面でももっと頑張っていきたいと思います。全幕物を踊らせていただく機会が回って来るといいのですが、英国ロイヤル・バレエのダンサーは皆踊りが上手で、競争率が高いからなあ(笑)。

―― 今後のご活躍を期待しております。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23
ロイヤル・バレエ『シンデレラ』

6月16日(金)より TOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

シンデレラ:マリアネラ・ヌニェス
王子:ワディム・ムンタギロフ
シンデレラの義理の姉たち:アクリ瑠嘉、ギャリー・エイヴィス
シンデレラの父:ベネット・ガートサイド
仙女:金子扶生
春の精:アナ=ローズ・オサリヴァン
夏の精:メリッサ・ハミルトン
秋の精:崔由姫
冬の精:マヤラ・マグリ
道化:中尾太亮

公式サイト
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=cinderella2022

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