英国ロイヤル・バレエ 『くるみ割り人形』に主演した金子扶生に聞く「金平糖が床に落ちるクリスピーな感じを表現できたら」

ワールドレポート/ロンドン

香月 圭 text by Kei Kazuki

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23『くるみ割り人形』が2月24日よりTOHO シネマズ 日本橋 ほか全国公開される。金平糖の精を演じた英国ロイヤル・バレエのプリンシパル 金子扶生に話を聞いた。

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© 2020 ROH. Photograph by Lara Cappelli

――英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23の『くるみ割り人形』では、ウィリアム・ブレイスウェルさんとお二人で厳かに舞台に登場して、金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥを見事に踊りました。金子さんが演じたお菓子の国の女王のような存在の金平糖の精は、きらきら輝いていて貴婦人のような優雅さ・高貴さもあり、母性のようなものも感じられました。

金子:英国ロイヤル・バレエに入団してケヴィン・オヘア監督から初めていただいた主役がこの『くるみ割り人形』でしたので、私にとっては記念すべき作品です。それ以来、このパ・ド・ドゥは何度も踊ってきました。難しいテクニックがすべてと言っていいほど含まれ、長いパ・ド・ドゥなので、リハーサルで毎回踊るたびにスタミナの限界まで達して、床に座り込むほど体力を消耗します。古典作品のなかでは一、二を争うぐらい、とてもチャレンジングなパ・ド・ドゥだと言ってもいいと思います。特にソロの部分などは、上半身で柔らかさを表現しながらも踊りのキレを見せる必要があり、そういった面が難しい役です。この登場人物の足さばきについては「ポツポツした和菓子の金平糖が床に落ちるようなクリスピーな感じ」をイメージしていますが、そういった雰囲気を表現できたらと思います。一旦、舞台の上に立ったら、美しいチャイコフスキーの音楽に体を任せようと心に決めて踊りました。

――ダーシー・バッセルさんから指導を受けている場面が映画でも見られましたが、どんなアドバイスをもらいましたか。

金子:今回、ダーシーさんにコーチングしていただいて、彼女が描く金平糖の精のイメージについて非常に多くのことを教えていただきました。彼女は「これは本当に難しいパ・ド・ドゥだから、その難しさを隠さなくてもいいわよ」とおっしゃいました。また「ダイナミックに踊りなさい」というアドバイスもいただき、その点にも気をつけて踊りました。

ーー王子役のウィリアム・ブレイスウェルさんはどのようなパートナーでしょうか。

金子:ウィリアムとはこの作品を数回一緒に踊っていますが、初めて組んだときからとても踊りやすいと感じていました。二人の踊りをお互いに高め合えるようなパートナーだと思います。彼とこのパ・ド・ドゥを踊っているときは、まるで天国にいるような気分で楽しむことができました。

ーーお召しになっていた金平糖の精の衣装はジュリア・トレヴェリャン・オーマンさんのデザインによるものですが、上半身が貴婦人のドレスのようでとても素敵でした。また銀髪のウィッグもお似合いでしたね。

金子:スタジオではリハーサルを何度も繰り返して失敗がないように努力します。そうした準備を重ねたうえで本番に臨みます。楽屋でメイクアップをしてきれいな衣装をまとい、ウィッグを付けてさらに頭にティアラを乗せると、自分自身が金平糖の精になったように感じてやはり気分も上がります。そういった一連のプロセスも、役作りにおいてすごく大切なことだと思います。1幕で登場するクリスマス・ケーキが2幕の舞台になっており、ケーキのようなデコレーションの中で踊ることも非日常的な経験だと言えます。

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『くるみ割り人形』金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル © 2018 ROH. Photograph by Alastair Muir

ーー金子さんがかつて吉田都さんなどの素晴らしいダンサーの方々の『くるみ割り人形』の舞台を見てバレリーナに憧れたように、今はご自身が英国ロイヤル・バレエを代表するプリンシパルのお一人として世界中のバレエ・ファンの憧れの的となる存在です。今回もクララ役の前田紗江さんや花のワルツのリードを踊った佐々木万璃子さん、魔術師ドロッセルマイヤーのアシスタント役や中国の踊りに出演した中尾太亮さんなど日本人のダンサーの皆様も舞台を盛り上げていらっしゃいましたね。

金子:そのようにおっしゃっていただき、ありがとうございます。吉田都さんの『くるみ割り人形』は母にお願いして初めて買ってもらったバレエのDVDだったので、彼女の踊る姿は脳裏に焼きついています。今回のキャスティングが決まって前田紗江ちゃんがクララを演じることになり、すごく嬉しくて私たちは何ヶ月も前から「一緒に頑張ろうね」と励まし合っていました。他の日本人の方々もこのカンパニーで大活躍していて、私も彼らからインスピレーションを毎日たくさんもらっています。佐々木万璃子ちゃんは今回、別の公演でついに金平糖の精でのデビューも果たしましたし、嬉しい限りです。

ーー終演後、カーテンコールの舞台裏では前田紗江さんとほっとした様子で談笑されていましたね。これからロイヤル・オペラハウス・シネマシーズンで『くるみ割り人形』をご覧になるお客様に一言お願いします。

金子:このシネマ・シリーズは英国ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台をまるで劇場にいるかのように世界中で見ていただける素晴らしい機会です。今回の映像ではクララを演じた前田紗英さんをはじめ、たくさんの日本人のバレエダンサーが活躍しています。この公演のライブ・シネマが日本でも公開されるということが私にとってはとても嬉しく、そのことも励みにして頑張りました。皆様にもぜひ見に来ていただけると嬉しいです。

ーー今後、シネマの新しい作品や6月末からの英国ロイヤル・バレエ来日公演などでまた金子さんのお姿を拝見するのをとても楽しみにしております。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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『くるみ割り人形』金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル ©2018 ROH. Photograph by Alastair Muir

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23

ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』
2023年2月24日(金)より TOHO シネマズ 日本橋 ほか全国公開
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/

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