スターダンサーたちが煌めく「ダイヤモンド・セレブレーション」が1週間限定で公開される、英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン2022/23
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香月 圭 text by Kei Kazuki
英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン 2022/23プログラム第二弾は、「ダイヤモンド・セレブレーション」(22年11月16日収録)と銘打ったオール・スター・キャストによる祝祭的公演。これはオペラハウスの友の会(フレンズ・オブ・コヴェント・ガーデン)の発足60年を祝したガラ・コンサートである。今回、この祝祭公演のライヴと当日に行われた芸術監督他のスタッフのインタビューを交えた映像が、TOHOシネマズ 日本橋ほか、全国で2月17日から一週間限定で公開される。
英国ロイヤル・バレエ芸術監督ケヴィン・オヘアが選定した「ダイヤモンド・セレブレーション」の演目は、カンパニーの過去・現在・未来を展望するもの。カンパニーの代表作を辿りながら、コンテンポラリーの若手振付家作品までを構成している。日本ではあまり観る機会に恵まれない、現在活躍中の才能あふれるダンサーたちが舞台で輝く姿を観ることができる。
Artists of The Royal Ballet in Diamonds, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
プログラムは三部構成となっており、カンパニー創設期から多く名作を残したフレデリック・アシュトンによる『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』序曲とパ・ド・ドゥによって開幕する。2021年9月にプリンシパルとなったアナ=ローズ・オサリヴァンがアレクサンダー・キャンベルとアシュトンならではの小刻みなステップを踏みながら軽やかに踊り、牧歌的な雰囲気のなかで楽しむ恋人たちの姿が描かれる。
続いてドラマティック・バレエの名手ケネス・マクミランによる『マノン』1幕 寝室のパ・ド・ドゥ。プリンシパルとして活躍中の高田茜がファースト・ソリストのカルヴィン・リチャードソン扮する純朴な学生デ・グリューと踊り、つま先から上半身に至るまでしなやかで美しいラインを見せる。高田ならではの妖艶なマノン像が浮かび上がった。
Alexander Campbell and Anna Rose O'Sullivan in La Fille mal gardée, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski.
Akane Takada and Calvin Richardson in Manon, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
三番目の演目、ウェイン・マクレガー振付『クオリア』は「生々しく感覚的な体験」というコメントのように、クラシック・バレエの規範を打ち破る斬新なスタイルながら官能が漂うデュエット。2003年にウェイン・マクレガーがロイヤル・オペラ・ハウスのデビューを飾った作品で、初演はエドワード・ワトソンとリャーン・ベンジャミンだった。ファースト・ソリストのメリッサ・ハミルトンはコール・ド・バレエ在籍時の2007年、マクレガーの『インフラ』の初役に抜擢され、以来、彼の作品に出演する機会が多い。彼女のパートナーを務めるビヨンボーはバレエに打ち込むオスロの少年たち3人を描くドキュメンタリー映画『バレエボーイズ』(2014年)に出演したことでも知られ、現在は英国ロイヤル・バレエのソリストとして活躍している。
第一部を締めくくる『For Four』はクリストファー・ウィールドンが2006年のガラ公演で、当時アメリカン・バレエ・シアターのアンヘル・コレーラとイーサン・スティーフェル、英国ロイヤル・バレエのヨハン・コボー、ボリショイ・バレエのニコライ・ツィスカリーゼのためにシューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」に振付けたもの。今回はマシュー・ボールがオーセンティックなスタイルの踊り、ジェームズ・ヘイは軽やかでスピーディーなプティ・アレグロ、マルセリーノ・サンベはパワフルな勇壮さ、ワディム・ムンタギロフは優雅なアダージオを披露。4人のスター・ダンサーは高難度の技を次々と繰り出し、お互いに火花を散らしてそれぞれの個性を発揮しながらも、英国スタイルで踊った。
Melissa Hamilton and Lukas B. Brændsrød in Qualia, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
Matthew Ball, Marcelino Sambé, Vadim Muntagirov and James Hay in For Four, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
休憩をはさんで、第二部は注目のコンテンポラリー・ダンスの作家三名による世界初演作が続く。『SEE US !! 』は、昨年、ロイヤル・バレエが育成する新進振付家になったジョゼフ・トゥーンガによるヒップホップやクランプをベースとする作品。ファースト・ソリストのジョゼフ・シセンズがカリスマ的存在として集団を率いて、人間の不屈の精神を力強く訴える。バレエ・ダンサーならではのしなやかなニュアンスが加わったヒップホップ・ステップが興味深い。
アメリカを拠点として活動するパム・タノウィッツによる『ディスパッチ・デュエット』は、コンテンポラリー・ダンスのクリエイターとしてロイヤル・オペラハウスという空間やクラシック・バレエを、部外者の視点で見つめ直して創作したという。その結果、アナ=ローズ・オサリヴァンとウィリアム・ブレイスフルの新世代のプリンシパルのカップルは、クラシック・バレエのデュエットを華麗に踊るかと思えば、その流れを唐突に打ち切ったりする次のムーブメントが予測できない作品となっている。「なぜ、男性が女性を支えるのがクラシックでは当たり前なのか」といった、振付家自身の問いかけがダンサーたちにも伝染したかのようだ。タノウィッツのダンスに対する深い好奇心と批判精神から生み出される意外性のある作風に、観客も思わず引き込まれるだろう。
Joseph Sissens in See Us!!, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
William Bracewell and Anna Rose O'Sullivan in Dispatch Duet, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
『コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使』は、アルヴィン・エイリー舞踊団の出身でニューヨークのシーダー・レイク・コンテンポラリー・ダンスカンパニーの芸術監督を経て、現在はランベール・カンパニーの芸術監督となったブノワ・スワン・プフェールによる作品。音楽はフランスの作曲家サン=プルーが1969年に作曲したフレンチ・ポップスのヒット曲『Concerto pour une Voix(邦題:ふたりの天使)』。ダニエル・リカーリのソプラノの声で「ダバダ〜」というスキャットで始まる、日本でもお馴染みの哀調を帯びた曲に合わせて、ナタリア・オシポワとスティーヴン・マックレーが愛の終焉を迎えるかのように官能的デュエットを踊った。二人は溢れんばかりの感情を湛え、複雑な深層心理を現した。
第二部最後の演目は、英国ロイヤル・バレエ ファースト・ソリスト ヴァレンティノ・ズケッティによる『プリマ』。『FOR FOUR』と対を成す作品として、サン=サーンスのヴァイオリン・コンチェルトに合わせ、金子扶生、ヤスミン・ナグディ、フランチェスカ・ヘイワード、マヤラ・マグリの四人のプリンシパルが舞台狭しと華やかに舞い踊る。2021年、『アネモイ』でナショナル・ダンス・アワード最優秀クラシック振付賞を受賞したズケッティは、この4人のダンサーたちとそれぞれとパートナーを組んだことがあり、一人一人の個性を知り尽くしている。四人のプリマ・バレリーナは、ユーゴスラヴィアの元モデルでロンドンを拠点とするファッション・デザイナー、 ロクサンダ・イリンチックのカラフルな衣装で流麗に踊る。舞台は、大輪の花が咲き揃った花園のような艶やかさが満ちた。
Steven McRae and Natalia Osipova in concerto pour deux, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
Fumi Kaneko in Prima, The Royal Ballet ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
この祝典公演のフィナーレを彩るのは1967年ニューヨーク・シティ・バレエで初演されたジョージ・バランシンによる『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」。音楽は自身がバレエの教育を受けた帝政ロシア、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場をイメージしてチャイコフスキーによる音楽が選ばれている。ここでは、英国ロイヤル・バレエが誇るアーティストたちはコール・ド・バレエのメンバーからソリストに至るまで、無数のダイヤモンドから放たれる光のように輝いている。そして、壮大なアンサンブルのトップに君臨するプリンシパルのマリアネラ・ヌニェスとリース・クラークによるパ・ド・ドゥは、君主の王冠の中央を飾る、一際、大きな宝石のように高貴な輝きを放つ。
また、6月24日、25日に開催される英国ロイヤル・バレエ団2023年日本公演の〈ロイヤル・セレブレーション〉では、アシュトンの『田園の出来事』と『For Four』『プリマ』『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」が上演される予定である。
英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン2022/23
「ダイヤモンド・セレブレーション」演目
●『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』序曲とパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:フェルディナンド・へロルド
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、アレクサンダー・キャンベル
●『マノン』1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ
出演:高田茜、カルヴィン・リチャードソン
●『クオリア』
振付:ウェイン・マクレガー/音楽:スキャナー
出演:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド
●『For Four』(カンパニー初演)
振付:クリストファー・ウィールドン/音楽:フランツ・シューベルト
出演:マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、マルセリーノ・サンベ、ワディム・ムンタギロフ
●『SEE US !!』(世界初演)
振付:ジョゼフ・トゥーンガ/音楽:マイケル"マイキーJ"アサンテ
出演:ミカ・ブラッドベリ、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、レオ・ディクソン、ベンジャミン・エラ、オリヴィア・フィンドレイ、ジョシュア・ジュンカー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ、アメリア・タウンゼンド、マリアンナ・ツェンベンホイ
●『ディスパッチ・デュエット』(世界初演)
振付:パム・タノウィッツ/音楽:テッド・ハーン
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、ウィリアム・ブレイスウェル
●『コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使』(世界初演)
振付:ブノワ・スワン・プフェール/音楽:サン=プルー
出演:ナタリア・オシポワ、スティーヴン・マックレー
●『プリマ』(世界初演)
振付:ヴァレンティノ・ズケッティ/音楽:カミーユ・サン=サーンス
出演:フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ
●『ジュエルズ』より『ダイヤモンド』
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン 2022−23
ロイヤル・バレエ ダイヤモンド・セレブレーション
2月17日〜24日 東宝シネマズ 日本橋 ほか全国公開
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=a_diamond_celebration2022
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