英国ロイヤル・バレエのパトロン、エリザベス女王の崩御に総裁が追悼の辞。そして新シーズン開幕公演『うたかたの恋』(マクミラン:振付)の詳報

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

9月8日、イギリスのエリザベス女王が96歳の天寿を全うした。1956年から英国ロイヤル・バレエのパトロンを務めてきた女王について、ロイヤル・オペラ・ハウスのアレックス・ベアード総裁が追悼の辞を寄せた。
「エリザベス2世女王陛下の訃報を知り、心からお悔やみ申し上げます。彼女がロイヤル・オペラ・ハウスを後援したことは、すべてのアーティストとスタッフにとって大きな誇りであり、彼女の長年にわたる芸術への支援に深く感謝しています。
女王陛下はロイヤル・バレエに勅許を与え、66 年以上前の1956年にパトロンになり、ロイヤル・オペラ・ハウスと長きに渡る歴史を築きました。
女王陛下は生涯を通じて芸術の熱心な支持者であり、ロイヤル・オペラ・ハウスを何回も訪れ、2002 年にここでゴールデン・ジュビリー(即位50周年)を祝いました。
英国全体にとってこの非常に悲しい時期に、王室の他のすべてのメンバーに心からお悔やみを申し上げます。」

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『うたかたの恋』平野亮一、ナターリヤ・オシポワ、© ROH, 2018. Ph. by Helen Maybanks

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『うたかたの恋』スティーヴン・マックレー、アナ・ローズ・オサリヴァン ©ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather

英国ロイヤル・バレエの2022/23シーズンは10月5日にケネス・マクミラン振付『うたかたの恋(マイヤーリング)』で幕を開ける。初日キャストは、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフを平野亮一、ルドルフの愛人である男爵令嬢マリー・ヴェッツェラをナターリヤ・オシポワが演じる。この日のブラットフィッシュ役にはアクリ瑠嘉が予定される。この舞台は英国ほか500の映画館で中継・収録が行われるので、後日、日本でも鑑賞できる機会を楽しみに待ちたい。
『うたかたの恋』は1978年にロイヤル・オペラ・ハウスでデヴィッド・ウォールとリン・シーモアが主役を演じて以来、マクミラン没後30年の節目の年となる今回の再演は14回目となる。1898年に起こったオーストリア・ハンガリー帝国皇太子ルドルフと17歳のマリー・ヴェッツェラのマイヤーリングでの心中事件を題材にした作品で、愛に飢えた孤独なルドルフの苦悩の姿が描かれる。マクミラン作品の美術を長年に渡って手がけてきたニコラス・ジョージアディスによるデザインは、19世紀末のオーストリア・ハンガリー帝国の宮廷の豪華さをまざまざと観客に伝える。音楽はフランツ・リストの曲をジョン・ランチベリーが編曲した。

今回の再演では、ワディム・ムンタギロフとマルセリーノ・サンベが初のルドルフ役に挑む。内面に闇を抱え複雑な感情を表現する、バレエのハムレットとも評されるこのルドルフ役は、英国ロイヤル・バレエのレパートリーに登場する男性のなかで最大の難役とされている。

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『うたかたの恋』スティーヴン・マックレー、サラ・ラム
©ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather

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『うたかたの恋』スティーヴン・マックレー
©ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather

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『うたかたの恋』スティーヴン・マックレー、サラ・ラム
©ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather

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『うたかたの恋』平野亮一 © ROH, 2018. Ph. by Helen Maybanks

主な日本人ダンサーの配役は以下のとおり。
平野亮一:ルドルフ(10月5日、8日、15日夜、11月12、21日)
高田茜:マリー・ヴェッツェラ(11月25、29日、ルドルフ役はスティーヴン・マックレー)
アクリ瑠嘉:ブラットフィッシュ(10月5、8、15日夜)
金子扶生:ラリッシュ伯爵夫人〈初役〉(10月21日、11月11日)/ミッツィ・カスパール(10月29日、11月23日)
中尾太亮:ブラットフィッシュ〈初役〉(11月24、30日)

そのほかの初役を演じる主なダンサーは以下のとおり。
マリー・ヴェッツェラ:フランチェスカ・ヘイワード(プリンシパル)
ラリッシュ伯爵夫人(ルドルフの母エリーザベト皇后付の女官で彼のかつての愛人):ヤスミン・ナグディ、金子扶生、マヤラ・マグリ(すべてプリンシパル)
エリザベート皇后(ルドルフの母):ジーナ・ストーム=ジェンセン(ソリスト)、イツァール・メンティザバル(ファースト・ソリスト)、アネット・ブヴォリ(ファースト・アーティスト)
ステファニー王女(ルドルフの妻):イザベラ・ガスパリーニ(ソリスト)
"ベイ"・ミドルトン大佐:リース・クラーク(プリンシパル)
ブラットフィッシュ:デヴィッド・ユーデス(ソリスト)

英国ロイヤル・バレエ元プリンシパルのリャーン・ベンジャミンとイレク・ムハメドフ、エドワード・ワトソン、ゼナイダ・ヤノウスキーなどが主要キャストのコーチを務める。

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『うたかたの恋』平野亮一、ナターリヤ・オシポワ
© ROH, 2018. Ph. by Helen Maybanks

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『うたかたの恋』サラ・ラム©ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather


英国ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』(シーズン2022/23)配役(*印は初役)

◆10月5日(英国ほかでのライブ・シネマ配信日)、8日、15日夜
ルドルフ:平野亮一
男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ:ナターリヤ・オシポワ
ラリッシュ伯爵夫人:ラウラ・モレーラ
エリザベート皇后:クリスティーナ・アレスティス
ステファニー王女:フランチェスカ・ヘイワード
ミッツィ・カスパール(高級娼婦、ルドルフの愛人):マリアネラ・ヌニェス
ブラットフィッシュ(ルドルフの個人付き御者、人気芸人):アクリ瑠嘉
フランツ・ヨーゼフ皇帝(ルドルフの父):クリストファー・サウンダース
"ベイ"・ミドルトン大佐(英国から来た軍人、エリーザベト皇后の愛人):ギャリー・エイヴィス

◆10月7日昼
ルドルフ:スティーヴン・マックレー
マリー・ヴェッツェラ:サラ・ラム
ラリッシュ伯爵夫人:ヤスミン・ナグディ*
エリザベート皇后:クリステン・マクナリー
ステファニー王女:アナ=ローズ・オサリヴァン
ミッツィ・カスパール:レティシア・ディアス*
ブラットフィッシュ:ジェームズ・ヘイ
フランツ・ヨーゼフ皇帝:ベネット・ガートサイド*
"ベイ"・ミドルトン大佐:トーマス・ホワイトヘッド*

◆10月21日、11月11日
ルドルフ:ワディム・ムンタギロフ*
マリー・ヴェッツェラ:ローレン・カスバートソン
ラリッシュ伯爵夫人:金子扶生*
エリザベート皇后:イツァール・メンティザバル
ステファニー王女:ミーガン・グレース・ヒンキス
ミッツィ・カスパール:クレア・カルヴァート
ブラットフィッシュ:ポール・ケイ
フランツ・ヨーゼフ皇帝:トーマス・ホワイトヘッド
"ベイ"・ミドルトン大佐:ベネット・ガートサイド

◆10月29日、11月23日
ルドルフ:マシュー・ボール
マリー・ヴェッツェラ:ラウラ・モレーラ
ラリッシュ伯爵夫人:マヤラ・マグリ
エリザベート皇后:ジーナ・ストーム=ジェンセン*
ステファニー王女:ミーガン・グレース・ヒンキス
ミッツィ・カスパール:金子扶生
ブラットフィッシュ:デヴィッド・ユーデス*
フランツ・ヨーゼフ皇帝:ギャリー・エイヴィス
"ベイ"・ミドルトン大佐:リース・クラーク*

◆11月12、21日
ルドルフ:平野亮一
マリー・ヴェッツェラ:メリッサ・ハミルトン
ラリッシュ伯爵夫人:イツァール・メンティザバル
エリザベート皇后:後日発表
ステファニー王女:崔由姫
ミッツィ・カスパール:クレア・カルヴァート
ブラットフィッシュ:ポール・ケイ
フランツ・ヨーゼフ皇帝:クリストファー・サウンダース
"ベイ"・ミドルトン大佐:ギャリー・エイヴィス

◆11月24、30日
ルドルフ:マルセリーノ・サンベ*
マリー・ヴェッツェラ:フランチェスカ・ヘイワード*
ラリッシュ伯爵夫人:サラ・ラム
エリザベート皇后:アネット・ブヴォリ*
ステファニー王女:イザベラ・ガスパリーニ*
ミッツィ・カスパール:マヤラ・マグリ
ブラットフィッシュ:中尾太亮*
フランツ・ヨーゼフ皇帝:ギャリー・エイヴィス
"ベイ"・ミドルトン大佐:ニコル・エドモンズ*

◆11月25、29日
ルドルフ:スティーヴン・マックレー
マリー・ヴェッツェラ:高田茜
ラリッシュ伯爵夫人:ヤスミン・ナグディ
エリザベート皇后:クリステン・マクナリー
ステファニー王女:アナ・ローズ・オサリヴァン
ミッツィ・カスパール:レティシア・ディアス
ブラットフィッシュ:ジェイムズ・ヘイ
フランツ・ヨーゼフ皇帝:ベネット・ガートサイド
"ベイ"・ミドルトン大佐:トーマス・ホワイトヘッド

2022/23シーズンにおける英国ロイヤル・バレエのダンサーの主な人事は以下のとおり。ジョゼフ・シセンズがファースト・ソリストに昇進するほか、佐々木万璃子がソリスト、前田紗江と中尾太亮がファースト・アーティスト、五十嵐大地と2020年ローザンヌ国際バレエコンクール第1位のマルコ・マシャーリ、2018年ローザンヌ国際バレエコンクール2位のパク・ハンナがアーティストとなった。2022 年ローザンヌ国際バレエコンクール第1位に入賞したダリオン・セルマンは、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーを卒業し、2022/23 シーズンの「ローザンヌ国際バレエコンクール・ダンサー」として英国ロイヤル・バレエ団に参加する。

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