ナショナル・ダンス・アワード(英国批評家協会賞)をE.ワトソン、M.ヌニェス、N.オシポワ、鈴木絵美里が受賞!
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ワールドレポート/ロンドン
香月 圭 text by Kei Kazuki
イングリッシュ・ナショナル・バレエ 鈴木 絵美里 タマラ・ロホ版『ライモンダ』
Emily Suzuki in Tamara Rojo's Raymonda by English National Ballet ©Johan Persson
6月13日にロンドンのバービカン・センターで第22回英国批評家協会賞(ナショナル・ダンス・アワード)の授賞式が行われた。最優秀クラシック・ダンサーには英国ロイヤル・バレエのエドワード・ワトソンとマリアネラ・ヌニェス、そしてクラシック・バレエ公演の最も優れた演技としてナタリア・オシポワ(英国ロイヤル・バレエ『ジゼル』)と、アクラム・カーンの『クリーチャー』(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)でジェフリー・シリオが扮したタイトル・ロールが高く評価された。新人賞にはジュニア・ソリストへの昇進が発表されたイングリッシュ・ナショナル・バレエの鈴木絵美里が選ばれた。カンパニー別では、英国ロイヤル・バレエが5部門、イングリッシュ・ナショナル・バレエが3部門、マシュー・ボーン率いるニュー・アドヴェンチャーズが2部門の受賞となった。
対象となったのは2021年1〜12月に英国で上演された舞台で、英国の舞踊批評家協会員から挙げられた355のダンス公演のなかから候補が70作品に絞り込まれ、最終的に15の部門での受賞が発表された。司会はイングリッシュ・ナショナル・バレエの元プリンシパルのベゴーニャ・カオとアーティストとして在籍するジョルジオ・ガレットが担当した。2021年は新型ウィルス感染の影響で、劇場の再オープンが5月からとなり、大規模なバレエ団は比較的早期に上演を再開することができた。このことから、今回はクラシック・バレエ関連の受賞が多勢を占める結果となった、と"SeeingDance"の評論家デヴィッド・ミードは分析している。
エドワード・ワトソン、英国批評家協会賞2021授賞式にて
マリアネラ・ヌニェス
ナタリア・オシポワ
ヴァレンティノ・ズケッティ
2021年10月にウェイン・マクレガーの『ダンテ・プロジェクト』をもって引退したエドワード・ワトソンは「多くの監督や振付家と出会い、自身の27年に渡る英国ロイヤル・バレエでのバレエ人生は素晴らしいものでした」と自身の歩みを振り返った。この『ダンテ・プロジェクト』の楽曲を担当したトマス・アデスはクリエイティブ最高賞を受賞した。
英国ロイヤル・バレエのヴァレンティノ・ズケッティが創作し昨年6月のシーズン最終期に初演された『アネモイ』は、最優秀クラシック作品に選ばれた。この作品はギリシャの風の神々をテーマにしており、佐々木万璃子や中尾太亮、五十嵐大地、佐々木須弥奈なども出演している。受賞スピーチでズケッティは困難な時期に公演を遂行するために尽力した舞台裏のすべての人に敬意を表した。
エドワード・ワトソン、金子芙生『ダンテ・プロジェクト』
Edward Watson and Fumi Kaneko in The Dante Project, The Royal Ballet ©2021 ROH. Photograph by Andrej Uspenski
イングリッシュ・ナショナル・バレエ ジェフリー・シリオ『クリーチャー』
English National Ballets Jeffrey Cirio in Creature by Akram Khan ©Ambra Vernuccio
イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)は最優秀カンパニー賞を受賞した。今シーズンのENBを有終の美で飾った芸術監督タマラ・ロホは、今年秋からサンフランシスコ・バレエを率いる。彼女は授賞式には参加できなかったが、今回の賞と昨年度の「パンデミック対応が最も優れていたカンパニー賞」を英国批評家協会長グレアム・ワッツから授与される映像が会場で公開された。彼女は「10年間このカンパニーでスタッフやダンサー、ミュージシャン、支援者の方々、そして観客の皆さんと共に成し遂げたことをこの上なく誇りに思います」とENBでの活動について総括した。
アクラム・カーンの『クリーチャー』に主演したジェフリー・シリオは、創作過程のごく初期の段階から参加しており、昨年サドラーズ・ウェルズ劇場での世界初演を踊り、クラシック作品での男性ダンサーの最高演技賞を受賞した。彼は来シーズンから以前在籍していたボストン・バレエに戻る。
新人賞を受賞した鈴木絵美里は昨シーズンにアクラム・カーンの『クリーチャー』のマリー役、スティナ・クァグブーアの『Hollow』、昨年6月のパンデミックからの劇場再開におけるロイヤル・アルバート・ホールでの「夏至」プログラムでアクラム・カーンの『ダスト』の最後を飾るパ・ド・ドゥ、ウェイン・イーグリング版『くるみ割り人形』など幅広く活躍した。来る2022-23年シーズンより、彼女はアーティストの地位からファースト・アーティストを飛び越えてジュニア・ソリストへ抜擢された。
ニュー・アドヴェンチャーズの『The Midnight Bell』は現代作品の部で最優秀賞、そして女性モダン部門でミス・ローチ役のミケーラ・ミアッツァの演技が評価された。現代作品での男性ダンサーで最高の演技と評価されたのはアクラム・カーンの『Outwitting the Devil』に出演したジェイムズ・ヴュ・ファムだった。
ミケーラ・ミアッツァ、英国批評家協会賞2021授賞式にて
クリストファー・ハンプソンとパトリシア・ワード・ケリー、英国批評家協会賞2021授賞式にて
スコティッシュ・バレエのダンス・フィルム『Starstruck』は最優秀ダンス・フィルム賞に輝いた。この作品は伝説のハリウッド・ミュージカル・スターのジーン・ケリーが1960年にガーシュウィンの軽快なジャズ・テイストの「ヘ長調ピアノ協奏曲」を用いてパリ・オペラ座に振付け、クロード・ベッシーらが出演した『パ・ド・デュー Pas de Dieux』のリバイバルで、彼の三番目の妻で作家のパトリシア・ワード・ケリーの協力を経て芸術監督のクリストファー・ハンプソンが改定振付し、映像化した作品である。授賞式に出席したケリーは次のように述べた「夫は素晴らしいダンサーでしたが、振付家として後世に名を残したいと思っていたのです」。
Claire Souet and Javier Andreu in Scottish Ballet's Starstruck - Gene Kelly's Love Letter to Ballet. ©Andy Ross
ジョン・アシュフォード、英国批評家協会賞2021授賞式にて
ド・ヴァロワ生涯功労賞はロンドンでのコンテンポラリー・ダンスの拠点「ザ・プレイス」で1986年から2009年まで劇場監督を務めたジョン・アシュフォードに授与された。この劇場では元々多彩なジャンルのパフォーミング・アーツの上演を行っていたが、彼の采配によりウェイン・マクレガー、ホフェッシュ・シェクターなどの当時は無名だった若手振付家のダンス作品が数多く上演されるようになり、コンテンポラリー・ダンスの中心地として名を輝かせるようになった。
《2021年 英国批評家協会賞(ナショナル・ダンス・アワード)結果》
ド・ヴァロワ生涯功労賞:ジョン・アシュフォード
最優秀男性ダンサー:エドワード・ワトソン
最優秀女性ダンサー:マリアネラ・ヌニェス
最優秀カンパニー:イングリッシュ・ナショナル・バレエ
最優秀中規模カンパニー:バレエ・ブラック
最優秀インディペンダント・カンパニー:ヨーク・ダンス・プロジェクト Yorke Dance Project
最優秀クラシック作品:ヴァレンティノ・ズケッティ振付『アネモイ』
最優秀モダン作品:マシュー・ボーン振付『The Midnight Bell』
新人賞:鈴木 絵美里
傑出したパフォーマンス(女性 モダン部門):ミケーラ・ミアッツァ(『The Midnight Bell』のミス・ローチ役)
傑出したパフォーマンス(男性 モダン部門):ジェイムズ・アン・ファム(『Outwitting the Devil』)
傑出したパフォーマンス(女性 クラシック部門):ナタリア・オシポワ(『ジゼル』タイトル・ロール)
傑出したパフォーマンス(男性 クラシック部門):ジェフリー・シリオ(『クリーチャー』タイトル・ロール)
傑出したクリエイティブの貢献:トマス・アデス(作曲家『ダンテ・プロジェクト』)
最優秀ダンス・フィルム:『Starstruck』スコティッシュ・バレエ
◆英国批評家協会賞(National Dance Awards)Facebook
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