オリヴィエ賞 2022は『キャバレー』が最多7部門独占、クリスタル・パイトと新人アリエル・スミスが舞踊部門を受賞した

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

イギリス演劇界の優れた作品や人材を表彰するオリヴィエ賞の授賞式が、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催された。世界中がCovid-19の感染拡大に見舞われて以来、劇場に観客を迎えた通常形態でのセレモニーは前回の2020年以来、実に3年ぶりとなった。世界の視聴者はロンドン演劇協会YouTubeでライブ配信を見ることができた(アーカイブ動画 https://www.youtube.com/watch?v=aZdwNClfRVs )。

今回の授賞式では、作曲家ジョン・カンダーと作詞家フレッド・エブのコンビによるミュージカル『キャバレー』がリバイバル作品賞、監督賞、音響デザインと俳優陣が男女とも主演・助演賞をすべて最優秀賞に輝き、最多7部門を独占した。主演のエディ・レッドメインはこの作品でミュージカル部門 最優秀主演男優賞を獲得し、オリヴィエ賞は2010年助演男優賞以来2度目の授賞となった。また同じく主演のジェシー・バックリーは『ロスト・ドーター』で今年のアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど、今、最も注目されている俳優の一人である。

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『キャバレー』© Marc Brenner

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『ライフ・オブ・パイ』© Johan Persson

次いで、ロリータ・チャクラバーティ演出による演劇『ライフ・オブ・パイ Life Of Pi 』が新作演劇、舞台装置デザイン、照明デザイン、主演男優、助演男優賞の5部門を授賞した。背景や動物園の檻などを出演者が持って動き回り、7人の俳優がトラの被り物の下に入り、一体となって1匹のトラを演じる斬新な演出が高い評価を受けた。助演男優賞はオリヴィエ賞史上初めて、これら7人の俳優に対して授与された。原作はカナダのヤン・マーテルによる同名の小説で(日本では「パイの物語」として唐沢則幸による翻訳版が竹書房から刊行されている)、英国の文学賞ブッカー賞を2002年に受賞し、ハリウッドで2004年に映画化もされている。

新作ダンスはゴーゴリの『検察官』を下敷にした『Revisor』(クリスタル・パイトとジョナサン・ヤング / Kidd Pivot)が授賞した。パイトの作品は2015年『The Associates』、2017年『Betroffenheit』、2019年『Flight Pattern』に次いで4度目の授賞を成し遂げた。同じカナダ出身の俳優・劇作家のジョナサン・ヤングとの共作は『The Statement』『Betroffenheit』に継ぐ3作目となる。

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クリスタル・パイト振付『Revisor』© Michael Slobodian

ダンスにおける優れた功績部門では、キューバのハバナ出身でランベール・スクールを2016年に卒業し、マシュー・ボーンのアシスタントとして修行した新進振付家アリエル・スミスがイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の劇場閉鎖中に創作した『Jolly Folly』が選出された。チャイコフスキーやヨハン・シュトラウスやモーツァルトの原曲をクラッツ・ブラザーズがラテン・ミュージック風にアレンジした軽快な楽曲に乗ってダンサーたちが蝶ネクタイのスーツ姿で粋に踊る姿をエイミー・ベッカー=バーネットがノスタルジックなモノクロ映像に収めている。1920〜30年代の無声映画からインスピレーションを受けたもの。このデジタル作品は「Reunion(再会)」と題したプロジェクトの一作品として創作され、昨年5月、ENBの劇場再開時にサドラーズ・ウェルズで上演された。ENBの有料配信サービス「バレエ・オンデマンド」にて370円で視聴できる。
◆ENB『Jolly Folly』視聴案内ページ https://ondemand.ballet.org.uk/production/jolly-folly/

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アリエル・スミス振付、エイミー・ベッカー=バーネット監督による映像『Jolly Folly』
© English National Ballet

授賞式の最後には、昨年11月に亡くなったスティーヴン・ソンドハイムの「アワー・タイム」(『メリリー・ウィー・ロール・アロング』)を英国演劇界を支えている役者たちが歌い上げた。彼らはコロナ禍のなかでも劇場公演が途切れないよう縁の下で尽力してきたメンバーである。このパフォーマンスの間に、2020年の前回の授賞式以降に亡くなった英国演劇界の著名人の遺影と名前がスクリーンに映し出され、在りし日の彼らを偲ぶ時間となった。

◆2022年ローレンス・オリヴィエ賞受賞者一覧

最優秀新作ダンス賞:『Revisor』(クリスタル・パイトとジョナサン・ヤング / Kidd Pivot)
ダンスにおける優れた功績:アリエル・スミス(イングリッシュ・ナショナル・バレエ「Reunion」より『Jolly Folly』の振付に対して)

最優秀新作演劇賞:『ライフ・オブ・パイ 』

最優秀リバイバル演劇賞:『Constellations』

最優秀主演男優賞:ハイラン・アベイセケラ(『ライフ・オブ・パイ 』)

最優秀主演女優賞:シーラ・アティム(『Constellations』)

最優秀助演男優賞:トラを演じた7人の俳優〈フレッド・デイヴィス、デイジー・フランクス、ロミナ・ヒッテン、トム・ラーキン、ハビブ・ナジブ・ナダー、トム・ステイシー、スカーレット・ウィルダリンク〉(『ライフ・オブ・パイ 』)

最優秀助演女優賞:リズ・カー(『ノーマル・ハート』)

エンターテインメントまたはコメディ最優秀作品賞:『Pride and Prejudice* (*Sort Of)』

最優秀新作ミュージカル賞:『バック・トゥ・ザ・フューチャー:ザ・ミュージカル』

最優秀リヴァイヴァル・ミュージカル賞:『キャバレー』

最優秀ミュージカル主演男優賞:エディ・レッドメイン(『キャバレー』)

最優秀ミュージカル主演女優賞:ジェシー・バックリー(『キャバレー』)

最優秀ミュージカル 助演男優賞:エリオット・リーヴィ(『キャバレー』)

最優秀ミュージカル助演女優賞:リザ・サドヴィ(『キャバレー』)

監督賞:レベッカ・フレックナル(『キャバレー』)

照明デザイン賞:ティム・ラトキンとアンジェイ・ゴールディング(『ライフ・オブ・パイ』)

音響デザイン賞:ニック・リドスター(『キャバレー』)

衣装デザイン賞:キャサリン・ズーバー(『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』)

舞台装置デザイン賞:ティム・ハトリー(デザイン)、ニック・バーンズとフィン・コールドウェル(パペット)(『ライフ・オブ・パイ』)

振付家賞:キャスリーン・マーシャル(『エニシング・ゴーズ』)

オリジナル楽曲または新編曲賞:『Get Up, Stand Up! ザ・ボブ・マーリー・ミュージカル』(編曲家:サイモン・ヘイル)

新作オペラ賞:『イェヌーファ』英国ロイヤル・オペラ

オペラにおける優れた功績:ピーター・ウィーランとアイリッシュ・バロック・オーケストラ(『Bajazet』)

ファミリー賞:『Wolf Witch Giant Fairy』

提携劇場における優れた業績賞:『オールド・ブリッジ』

特別表彰賞:リサ・バーガー、ボブ・キング、グロリア・ルイス、スージー・セインズベリー、シルヴィア・ヤング

◆ロンドン演劇協会によるオリヴィエ賞2022ページ
https://officiallondontheatre.com/olivier-awards/year/olivier-awards-2022/

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