ウクライナ支援ガラ「BALLET FOR PEACE」がアレッシオ・カルボーネによりイタリア、サン・カルロ劇場で開催される

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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オルガ・スミルノワ

パリ・オペラ座元プルミエ・ダンスールのアレッシオ・カルボーネの呼びかけによって、世界最高峰の劇場に在籍するウクライナやロシアのプリンシパル・ダンサーたちが集結し、ウクライナ支援のためのチャリティー・ガラがナポリのサン・カルロ劇場で開催される。
戦火を逃れてキエフから避難してきたウクライナ国立キエフ・バレエのアナスタシア・グルスカヤとスタニスラフ・アリシャンスキーを特別ゲストとして迎え、ダンサーたちはクラシックやコンテンポラリー・ダンスのパ・ド・ドゥやソロ作品を踊り、平和への祈念を表現する。

3月16日にオランダ国立バレエへ移籍したばかりの元ボリショイ・バレエのオルガ・スミルノワは、マリインスキー・バレエから同時期に同団へ移籍したヴィクター・カイシェタと『ライモンダ』に出演する。また、ハンブルク・バレエのウクライナ出身のアレクサンドル・リアブコとシルヴィア・アッツォーニ夫妻やマリインスキー・バレエを退団したアナスタシアとデニスのマトヴィエンコ夫妻、ウクライナ出身のヤーナ・サレンコとそのパートナーを務めるディヌ・タマズラカル、ロシア出身でアメリカを拠点にフリーランスとして活躍するマリア・コチェトコワと夫のセバスチャン・クロボーグ、ミラノ・スカラ座バレエからウクライナ生まれのアンドレイ・ティモフェイチェンコとニコレッタ・マンニのカップル、ベジャール・バレエ・ローザンヌからオスカー・シャコンヌとウクライナ出身の夫人エカテリーナ・シャルキナ、そしてサン・カルロ劇場のソリストたち(アンナ・キアラ・アミランテ、ルイザ・イエルッツィ、スタニスラオ・カピッシ、アレッサンドロ・スタイアーノ)、ウクライナのセヴァストポル生まれのウィーン国立バレエのピアニスト、イーゴリ・ザプラヴディンも出演する。

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アレッシオ・カルボーネ

カルボーネは「ダンスには感動を呼び団結させる力があります。この力こそ、この公演のコンセプトが生まれるきっかけとなりました。クラシック・バレエの伝統はロシアとウクライナの影響を大いに受けています。われわれはこれらの文化圏がバレエに与えた美を伝えたい。情熱と友情をもって平和のために団結することを世界に示します」とガラ公演開催の抱負を語る。パリ・オペラ座バレエでカルボーネと同僚だったクロチルド・ヴァイエは昨年4月からサン・カルロ劇場の舞踊監督の任に当たっている。彼からウクライナとロシアのダンサーが結集し、同じ舞台に立つというコンセプトのガラ公演のアイデアを打診されるや、その明確なイメージとメッセージに強く共感した彼女は、総裁・芸術監督のステファン・リスナーとCEOのエマヌエラ・スペダリエーレに実現の可能性について打診した。「二人ともその企画に感銘を受け夢中になりました。ものの数時間で私たちのチームは4月4日にガラ公演を開催できるところまで漕ぎ着けました。ゲスト・ダンサーの方々をお迎えしてサン・カルロ劇場バレエ団のレパートリーの数々をお見せします」と彼女は公演実現までの経緯を詳らかにしている。この公演でのすべての収益は赤十字社に寄付され、ウクライナ支援の最前線のために充てられる。

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◆サン・カルロ劇場特別公演 ウクライナ支援ガラ「BALLET FOR PEACE」

2022年4月4日午後9時開演 上演時間:休憩一回をはさみ約2時間
アーティスティック・コーディネーター:アレッシオ・カルボーネ

《上演プログラム》
『アザー・ダンシズ』
音楽:フレデリック・ショパン
振付:ジェローム・ロビンズ(ロビンズ財団の許可を得ての上演)
出演:マリア・ヤコブレワ、デニス・チェレヴィチコ
『騎兵隊の休止』
音楽:イワン・アルムスゲイメル
振付:マリウス・プティパ
出演:ヤーナ・サレンコ、ディヌ・タマズラカル
『コンチェルト』
音楽:ドミトーリイ・ショスタコーヴィチ
振付:ケネス・マクミラン
出演:ルイザ・イエルッツィ、スタニスラオ・カピッシ
『エコーズ・オブ・ライフ Echos of life』
音楽:モーリス・ラヴェル
振付:ティアゴ・ボルディン
出演:アレクサンドル・リアブコ、シルヴィア・アッツォーニ
バレエ『ブルー・ノートの愛 L'amour en notes bleus』より抜粋
音楽:フレデリック・ショパン
振付:オスカー・シャコン
出演:カテリーナ・シャルキナ、オスカー・シャコン
『ハート・オブ・グラス』
音楽:ブロンディ、フィリップ・グラス(クラブツリー・リミックス)
振付:セバスチャン・クロボーグ
出演:マリア・コチェトコワ、セバスチャン・クロボーグ
「バレエ・フォー・ピース」での世界初演作品
音楽:ミハイロ・スコーリク
振付:オスカー・シャコン
出演:カテリーナ・シャルキナ
『ジゼル』
音楽:アドルフ・アダン
振付:ジャン・コラーリ/ジュール・ペロー
出演:アナスタシア・グルスカヤ、スタニスラフ・アリシャンスキー
『レ・ブルジョワ』
音楽:ジャック・ブレル
振付:ベン・ファン・コーウェンベルク
出演:ディヌ・タマズラカル
『ラジオとジュリエット Radio and Juliet』
音楽:レディオヘッド
振付:エドワード・クルグ
出演:アナスタシア&デニス・マトヴィエンコ
『瀕死の白鳥』
音楽:カミーユ・サン=サーンス
振付:ミハイル・フォーキン
出演:アナスタシア・マトヴィエンコ
『テーマとヴァリエーション』
音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
振付:ジョージ・バランシン(バランシン財団の許可を得ての上演)
出演:アンナ・キアラ・アミランテ、アレッサンドロ・スタイアーノ
『カラヴァッジョ』
音楽:ブルーノ・モレッティ(原曲クラウディオ・モンテヴェルディ)
振付:マウロ・ビゴンゼッティ
出演:ティモフェイ・アンドリヤシェンコ、ニコレッタ・マンニ
『マノン』
音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
出演:カーチャ・カニューコワ、ガブリエレ・フロラ
『海賊』
音楽:アドルフ・アダン
振付:ジュール・ペロー
出演:リュドミラ・コノワロワ、アレクセイ・ポポフ
『ライモンダ』
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
振付:マリウス・プティパ
出演:オルガ・スミルノワ、ヴィクター・カイシェタ

ウクライナ出身の出演者

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アナスタシア・グルスカヤ(キエフ・バレエ):ウクライナに生まれ、2018年、キエフ舞踊学校を卒業と同時にキエフ・バレエに入団、2021年にプリンシパルに昇進。2022年、キエフでロシア軍による爆撃に遭うが、無事戦禍を逃れて今公演に出演する。

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スタニスラフ・アリシャンスキー(キエフ・バレエ):ウクライナ生まれ。キエフ舞踊学校を卒業後、2011年よりウクライナ西部のリヴィウ国立劇場バレエに入団。2016年、キエフ・バレエのソリストとなり、2018年、プリンシパルに昇進。キエフでのロシア軍による攻撃を逃れて今公演に出演する。

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ヤーナ・サレンコ(ベルリン国立バレエ):キエフ生まれ。ドネツクのワジム・ピサレフ・バレエスクールを2000年に卒業後、ドネツク・バレエ団に2000〜2002年在籍し、キエフ国立バレエのプリンシパルとなる。2005年よりベルリン国立バレエに入団。

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アナスタシア・マトヴィエンコ:ウクライナのセヴァストポリ生まれ。1996年よりキエフ舞踊学校に学ぶ。2001年、キエフ国立バレエのプリンシパルに任命される。2007年、ミハイロフスキー劇場バレエのプリンシパルとなる。2009年よりマリインスキー劇場バレエのファースト・ソリストとして活躍していた。

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デニス・マトヴィエンコ(フリーランス):キエフ生まれ。キエフ国立舞踊学校で学ぶ。1997年、キエフ国立バレエのプリンシパル・ダンサーに任命される。2011〜2013年キエフ・バレエの芸術監督を務める。2013〜2016年、マリインスキー劇場バレエ、また2009〜2022年、ミハイロフスキー劇場バレエにてプリンシパルを務めた。2016年にノボシビルスク・バレエの芸術監督を務めた。2020年よりワガノワ・バレエアカデミーにて教鞭を執っていた。

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デニス・チェレヴィチコ(ウィーン国立バレエ):ウクライナのドネツク生まれ。ワジム・ピサレフ・バレエスクール、ミュンヘン・バレエアカデミーで学ぶ。2006年、ウィーン国立バレエに入団、2012年にプリンシパルに昇進した。

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カテリーナ・シャルキナ:キエフ生まれ。ウクライナ国立キエフ舞踊学校で学び、2000年にキエフ国立バレエに入団。奨学金を得てベジャール・ルードラ・バレエスクールで学び、2003年ベジャール・バレエ・ローザンヌに入団する。2017年、トゥールーズ・キャピトル劇場バレエのソリストとなる。

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アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ):キエフ生まれ。キエフ舞踊学校で学んだ後、ハンブルク・バレエスクールへ留学し、ハンブルク・バレエ団へ入団。1996年にソリスト、2000年にプリンシパルとなる。

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ティモフェイ・アンドリヤシェンコ(ミラノ・スカラ座バレエ):ロシアとウクライナの出自をもつ家族のもと、リトアニアのリガに生まれる。リトアニア国立アカデミーで学び、奨学金を得て2009年、ロシア舞踊大学に入学。2014年ローマ歌劇場バレエに加入後、ミラノ・スカラ座バレエに移籍、2018年にプリンシパルとなる。

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カーチャ・カニューコワ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ):キエフ生まれ。キエフ舞踊学校卒業後ウクライナ国立キエフ・バレエに入団、間もなくプリンシパルとなる。2014年よりイングリッシュ・ナショナル・バレエに移籍、プリンシパルとして活躍中。

ロシア出身の出演

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オルガ・スミルノワ(オランダ国立バレエ):サンクトペテルブルク生まれ。祖父はウクライナ人。ワガノワ・バレエアカデミー卒業後ボリショイ・バレエに入団し、2016年にプリンシパルとなる。ロシアのウクライナ軍事侵攻に異を唱え、2022年3月にオランダ国立バレエに電撃移籍した。

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マリア・ヤコヴレワ(ウィーン国立バレエ):サンクトペテルブルク生まれ。2004年ワガノワ・バレエアカデミーを卒業しマリインスキー劇場バレエに入団、2005年にウィーン国立バレエのソリストとして移籍、2010年プリンシパルとなる。

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マリア・コチェトコワ(フリーランス):モスクワ生まれ。ボリショイ・バレエ学校で8年間学ぶ。ロイヤル・バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエ、サンフランシスコ・バレエ、ABT、ボリショイ・バレエ、モスクワ音楽劇場バレエ、マリインスキー劇場バレエ、ミハイロフスキー・バレエなど世界各地で客演を重ねている。

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アレクセイ・ポポフ(ウィーン国立バレエ):ワガノワ・バレエアカデミーを卒業後、2010年、マリインスキー・バレエに入団。2016年にミュンヘン・バレエへ移籍。2021年にウィーン国立バレエにプリンシパルとして入団。

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リュドミラ・コノワロワ(ウィーン国立バレエ):ロシアに生まれ、ボリショイ・バレエアカデミーを卒業後、ロシア国立バレエ団に2002年入団、2004年にソリストとなる。2007年、ベルリン国立バレエに移籍、2009年ソリストに昇進。2010年、ウィーン国立バレエにソリストとして入団、翌2011年、プリンシパルに昇進した。

◆サン・カルロ劇場公式サイトのガラ公演案内
https://www.teatrosancarlo.it/en/spettacoli/ballet-for-peace.html

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