勅使川原三郎が金獅子賞を受賞したヴェネツィア・ビエンナーレのさまざまな活動

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

Teshigawara2-© Akihito Abe.jpeg

勅使川原三郎 ph. Akihito Abe

すでに報じられているように、ヴェネツィア・ビエンナーレ財団は、第59回展の舞踊部門で勅使川原三郎に金獅子賞を授与すると発表した。舞踊部門ディレクター、ウェイン・マクレガーは「勇敢で、特異で、人道的で、スリル満点の勅使川原三郎は、何世代にもわたる舞踊創作者に刺激を与え、挑戦し、興奮させてきました」と述べ、さらに「勅使川原の鋭く設計された彫刻の感性、振付の強烈さ、そして彼独自の舞踊言語が融合して、彼だけのユニークな世界を作り出しています。彼の実践はライブの演劇パフォーマンスから視覚芸術、映画/ビデオ、さらには彼のすべてのパフォーマンスの舞台美術、照明、衣装のデザインに至るまで、幅広い分野にまたがっています。芸術のエコシステム全体を構築する彼の能力は他とは一線を画すものであり、彼の飽くなき勇気を解き放ちます。勅使川原は、絶え間なく変化する身体の力を理解し、振付の可能性を従来の限界を超えて拡大することを決意しています。彼の先駆的な精神、彼の計り知れない技量、そして彼の表現の流暢さによって、境界を越えジャンル間を自在に行き来する作品となるのです」と作品全体の魅力も丁寧に紹介している。また、今回の受賞に際して勅使川原のコメントはhttps://www.st-karas.com/(KARAS公式サイト)に掲載されている。
授賞式は7月22〜31日、ヴェネツィアで開催される第16回国際コンテンポラリー・ダンス・フェスティバルで行われる予定。この舞踊祭ではストラヴィンスキー作曲、ニジンスキーとカルサーヴィナが出演して初演されたバレエ・リュスの『ペトルーシュカ』を原本とした同名の作品が上演される(勅使川原と佐東利穂子出演)。これは2017年に彼の本拠地カラス アパラタスでのアップデイトダンスNo.46で初演されているが、今夏、新たに創作される。勅使川原は2004年『Bones in Pages』でヴェネツィア・ビエンナーレにデビューしている。

今回の銀獅子賞はスペインの新世代フラメンコ・ダンサーで振付師のロシオ・モリーナに授与される。2010年、若干26歳でスペイン国家舞踊賞を受賞、現代的な視点で伝統舞踊フラメンコを再構築した点が評価された。2014年と2015年、自身の舞踊団とともに来日している。2020年の来日公演はコロナ禍のため中止となったものの、彼女のドキュメンタリー映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』とパリ・シャイヨー国立舞踊劇場でのライブ映像『ロシオ・モリーナLIVE カイーダ・デル・シエロ』が日本で公開された。マリア・パヘス、ミゲル・ポベダ、アントニオ・カナレス、イスラエル・ガルバンなどのフラメンコの第一人者や、カルロス・マルケリエ、マテオ・フェイホ、ジャン・ポール・グードなどの現代美術家とのコラボレーションを行っている。
ヴェネツィア・ビエンナーレ舞踊部門における歴代の金獅子賞受賞者はマース・カニングハム(1995)、カロリン・カールソン(2006)、ピナ・バウシュ(2007)、イリ・キリアン(2008)、ウィリアム・フォーサイス(2010)、シルヴィ・ギエム(2012)、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(2015)、マギー・マラン(2016)、ルシンダ・チャイルズ(2017)と錚々たるメンバーが並んでいる。

1960-h.jpeg

マース・カニングハム ph. Radford Bascome

ヴェネツィア・ビエンナーレ2022舞踊部門では、監督ウェイン・マクレガー考案による第二版「ビエンナーレ舞踊大学」で、2月21日〜3月21まで世界の18〜30歳の16名のダンサー向けと18歳以上の2名の振付家のための会合が「明日の先進的人材」を求めて開かれている。
一線で活躍する振付家や教師、そしてマーケティング専門家らと共同してクラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスのテクニックについての日々のセッション、カニンガムのレパートリーを中心としたワークショップ、即興のトレーニング、個人の創造性の探求、メンター制度での人材育成、プロのダンサー、振付家としてのより実践的な側面に焦点を当てた講義やセミナーが行われる。注目は、参加者がGoogleとマクレガーのコラボレーションによって開発された人工知能の振付生成アプリケーションLiving Archiveを、実際に使用して振付を行う試みだろう。このワークショップでは、参加者のダンサー自身が基本となる動きを行うと、AIがそれを解析して新たな動きを生成するという流れで行われる。この舞踊大学の成果は、5月9日〜7月31日の3ヶ月間の会期の終わりに第16回国際コンテンポラリー・ダンス・フェスティバル(7月22〜31日)で次の3つのプログラムとして披露される。
勅使川原三郎がヴェネツィア・ビエンナーレの委嘱でダンサーと振付家のグループのために新作を創作。
「マース・カニングハム・イベント」の上演:カニングハムの作品を多数上演してきたダニエル・スクワイアとカニングハムのカンパニーに16年に渡りダンサーおよびリハーサル・アシスタントとして在籍したジーニー・スティール監修。
マクレガーの指導による2名の振付家と16名のダンサーによるオリジナルの短編作品。

ヴェネツィア・ビエンナーレは現代美術の国際展覧会で1895年に始まった。当初は各国が万国博覧会に倣った美術展示館(パビリオン)を出していた。現在では美術・建築・映画(ヴェネツィア映画祭として知られる)・音楽・演劇・舞踊・歴史的アーカイブと部門が複数あり、日本は1952年の第26回展から参加している。今年の美術部門には美術・映像・建築・音楽・ダンスなどの分野で活動する多彩なアーティストが集結したグループ、ダムタイプが出展する。プロジェクト・メンバーには高谷史郎、古舘健、坂本龍一、濱哲史、白木良、原摩利彦、高谷桜子などが名を連ねている。
ビエンナーレ財団はロシアによるウクライナ侵攻に対しての反対声明を25日に発表、その中で「平和を祈念し、いかなる形態の戦争と暴力に対しても断固として拒否し、ラ・ビエンナーレがあらゆる国、言語、民族、宗教の機関、芸術家、市民の間の対話の場であり続ける」としている。ロシア館の代表作家とキュレーターは今回の事態を受け辞任し、出展は事実上キャンセルとなった。この決断について、ビエンナーレ財団は「勇気ある高貴な決断に対して全面的に支持する」と表明している。ヴェネツィア映画祭では、2021コンペティション部門に出品されたウクライナのヴァレンティン・ヴァシノヴィチ Valentyn Vasynovych監督による映画『Reiflection』をローマ(3月7日)、ミラノ(3月9日)、ヴェネツィア(3月10日)で無料上映すると発表した。2014年ウクライナ東部ドンバスでロシア軍に囚われた外科医が直面する悲劇を描いた作品である。
●ヴェネツィア・ビエンナーレ公式サイト
https://www.labiennale.org/en

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る