アクリ瑠嘉が『くるみ割り人形』のハンス・ピーター役を踊る、英国ロイヤル・バレエ シネマシーズンが開幕

ワールドレポート/その他

インタビュー=関口紘一

――アクリさんは、ピーター・ライト版『くるみ割り人形』のハンス・ピーターを踊られるのは、今回が初めてですか。

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アクリ瑠嘉 © Johan Persson

アクリ いえ、ライト版『くるみ割り人形』はカンパニーに入った2013年からずっと、ほとんど毎年のように踊っています。ハンス・ピーターを初めて踊ったのは2015年くらいだったと思います。

――クララを踊られたイザベラ・ガスパリーニさんとは、よくパートナーを組まれるのでしょうか。

アクリ パートナーは作品によってかなり変わります。彼女とは今まではあまりたくさん踊ったことはありませんでした。昨年、中止となってしまいましたがこの『くるみ割り人形』を上演するはずだったので、その時に一緒に練習していました。そして今回上演された『くるみ割り人形』で初めて長いパートナーを組んで踊ることになりました。

――イザベラさんとのパートナーシップはいかがでしたか。

アクリ すごく楽しかったです。彼女は本当にプロフェッショナルでダンスが上手ですし、人間としてもすごくいい人で踊りやすかったです。お互いになんでも気楽に話し合って練習できる関係を築くことができました。彼女はとても頑張っているので、将来、一緒にもっといろいろなことにチャレンジしてみたいです。彼女は素晴らしいダンサーです。

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イザベラ・ガズパリーニ、アクリ瑠嘉
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

――ハンス・ピーター役はほとんど出ずっぱりで踊りますが、この役の難しいところはどういうところでしょうか。

アクリ そうですね、テクニックの話をしたら、クリーンでアカデミックなテクニックで、アラベスクなど美しいラインを見せるところが難しいですね。僕としては、テクニック的にはそうした難しいところもあるのですが、やっぱり一番難しいのは、物語をお客様にきちんと伝えることです。その点が一番大切ですのでテクニックだけではなく、(自分の役を)物語の一つのキャラクターとして表現することにより、バレエを創っていく、そういうところが楽しいですね。

――ピーター・ライト版は物語がわかりやすく筋が通っていて、理解しやすいですね。

アクリ 僕はこのヴァージョンをずっと踊ってきているので、すごく近い関係にあります。そうですね、物語の展開がシンプルでわかりやすくて、家族に向けて家族みんなで楽しんで観ていただける作品です。クリスマス・シーズン中に子どもから大人まで楽しんでいただけるというところが、やっぱり一番人気なんです。この新型コロナ禍の最中でも、今回公演のチケットは全部売り切れていました。

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© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

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イザベラ・ガズパリーニ、アクリ瑠嘉
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

――ライト版では、第2幕のスペインやロシアや中国の踊りなどのデヴェルティスマンでは、クララとハンスが一緒に加わって踊りますね。別の踊りが進行している中に、二人で一緒に加わるのはタイミングとか、難しくないですか。

アクリ いえ、そんなに難しくはないです。もう第2幕のあの場面になると、一緒にみんなで踊っているので本当に楽しいです。難しいのは第1幕です。第2幕に入ったら楽しくみんなで踊れます。僕の場合は、スパニッシュを踊ったり、ロシアのトレパックも踊りましたが、すごく盛り上がって踊れます。第2幕に入ったら「これはもう行ける!」っていう感じですね。全体の雰囲気も明るいですから、楽しく踊って大いに盛り上がるバレエです。

――アクリさんは、最近、英国ロイヤル・バレエ団の中で特に表現力を評価される役を踊ることが多いですね。マキューシオとかフランツとかパックとか。ロイヤル・バレエは表現力豊かな「役者」のダンサーが多いことがよく知られていますが、その中でも表現力で魅せる役を踊られることが多いのは素晴らしいことですね。

アクリ そうですね、やっぱり父から譲り受けたものでしょうかね、父には「これ(表現力)は、私からもらったものでしょう」って言われると思います。父の才能が遺伝したんだ、と。
僕は、小さい時からバレエのトレーニングとして表現力は大切だ、と教えられて育てられました。日本では井上バレエ団さんなどで『くるみ割り人形』のフリッツ役とかをたくさん踊らせていただきました。そういう経験を積ませていただいたのと、豊かな経験のある多くの優れたダンサーたちを見て育ちました。
やっぱり、ロイヤル・バレエのいいところというのは、舞台上で本当にそういう世界が起こっていると信じられる表現力がダンサーに備わっていることだと思います。人としての表現というのはオーバーになったりしますが、そこに一つの世界が生まれる、それがロイヤル・バレエのすごいところだと思います。マクミラン・バレエの『ロミオとジュリエット』とか、アシュトン作品もそうですし表現力はとても大切ですね。僕はすごい先輩たちを見てキャリアを積んできていますから、ここでもらったものを生かして、どんどん舞台を楽しんでいきたいと思います。その方が楽しいですし、表現力を舞台上で発揮するということは、本当に楽しいことです。テクニックよりもキャラクターになりきって踊る、ということが楽しいと思います。

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アクリ瑠嘉
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

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イザベラ・ガズパリーニ
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

――日本ではどうしてもテクニックの方に目が行きがちですが、シェイクスピアの国のロイヤル・バレエで優れた表現力を評価されるダンサー、ということは素晴らしいことだと思います。マキューシオやパックなど見せ場の多い役を踊られていますが、特に印象深い役はありますか。

アクリ すべてそれぞれいいところはあります。今、ちょうど『ロミオとジュリエット』を上演していて、僕は明日(2月10日日本時間)マキューシオを踊るんですけれど、やっぱりマキューシオは今回、かなり楽しんで踊っていますね。こういうキャラクターが強い役っていうのは演じれば演じるほど、踊れば踊るほどおもしろくなっていきます。「あー、こうしたらこうできる」といろいろと考えが浮かんで正解はないです。自分の好きなように、自分がマキューシオだったらこうするだろうなとか、いろいろと工夫します。マキューシオはマキューシオでもいろいろなマキューシオを演じてもいいと思います。ひとつ一つの舞台が違うというところが楽しいのですね。

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© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

――これからどうしても踊ってみたいという役はありますか。

アクリ よくそういう質問を受けますが、特にそういうことはないですね。いろんなことをやるのが楽しいので。これだけはやりたいっていうのはないのですけれど、でもやっぱり主役で一つの大きいバレエを背負っていくという経験を積んでいきたいですね。もちろん、王子役も将来的に踊りたいとも思いますし、王子ではなくても主役としてカンパニーを引っ張っていける、という役をやりたいですね。

――日本の舞台で英国ロイヤル・バレエのメンバーとして踊る、というのはいかがですか。

アクリ ロイヤル・バレエとしては日本公演、というのは意味がある舞台です。いつも日本のお客様にはとても良くしていただいていますし、僕らは国際ツアーはいろんなところに行くのですが、やっぱり、日本ツアーは一番人気があります。みんなも早く日本に行きたい、と言っています。コロナ禍で大変な状況ですけれど、早く日本へ公演に行くことができたらいいな、と思っているところです。

――リハーサルで大変お忙しい中、お時間をとっていただきましてありがとうございました。

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ヤスミン・ナグディ
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

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セザール・コラレス
© 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.

2022年2月18日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開

『くるみ割り人形』
【振付】ピーター・ライト
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】クン・ケセルス
【出演】
ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ
クララ:イザベラ・ガスパリーニ
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:アクリ瑠嘉
金平糖の精:ヤスミン・ナグディ
王子:セザール・コラレス
ローズ・フェアリー(薔薇の精):崔由姫
(c) 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
■配給:東宝東和

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