フェデリコ・ボネッリが5月1日よりノーザン・バレエの芸術監督に就任

ワールドレポート/ロンドン

アンジェラ・加瀬  Text by Angela Kase

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© Andreuspenski

1月31日、イギリス五大バレエ団の1つであるノーザン・バレエが、新芸術監督に英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのフェデリコ・ボネッリが就任すると発表した。
現在43才のボネッリは現シーズンも精力的に英国ロイヤル・バレエの舞台に立っており、マクレガーの新作『ダンテ・プロジェクト』では主役のダンテを、『ジゼル』のアルブレヒト、『くるみ割り人形』の王子を始め、1月も10日に『ロミオとジュリエット』をW降板したナターリア・オシポワとリース・クラーク組に代わって、最近では全幕作品で組むことが少なかったマリアネラ・ヌニェスを相手役に複数回主演するなど素晴らしい舞台を披露してくれたばかり。そんな中でのディレクター就任のニュースは関係者やファンにとっては大変唐突であった。だが、ボネッリ本人は4年ほど前からバレエ団に在籍しながら「クロエ・リーダーシップ・プログラム」を履修するなど、将来への準備に余念が無かった。トップ・ダンサーとしてチューリッヒ・バレエ団を皮切りにオランダ国立バレエ、英国ロイヤル・バレエというヨーロッパのビッグカンパニーのトップとして長らく活躍する人望者ボネッリなら、多国籍のダンサーが在籍するノーザン・バレエの団員を見事に纏めあげ、必ずやバレエ団に新風を吹き込んでくれることだろう。

ノーザン・バレエ団は1966年にカナダ人のラヴァーン・マイヤーが設立後、昨年末まで5人の芸術監督が率いた歴史を持つ。バレエ団の黄金時代を築いたのは87年〜98年にバレエ団を率いた三代目芸術監督のクリストファー・ゲーブルと2001年以来20年間バレエ団を率いて来た五代目のデヴィッド・ニクソンである。
ゲーブルは87年に芸術監督に就任すると、古典全幕作品と共に『ブロンテ姉妹』『クリスマス・キャロル』『ドラキュラ』といったイギリスの大衆にとって馴染深い物語バレエの数々を発表。これらが新しいバレエ・ファンを増やし人気を博した。またこの時代は日本人の長尾千晶と高橋宏尚が長らくパートナーシップを築き、プリンシパルとして活躍。長尾は2003年に『マダム・バタフライ(蝶々夫人)』でローレンス・オリヴィエ賞を受賞している。

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「芸者」© Angela Kase

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© Bill Cooper

ゲーブルが58歳の若さで没した後、ステファノ・ジャンネッティが芸術監督に就任するも1年弱で退任。リーダーを失い低迷したバレエ団を、近年では毎年のように英国ダンス批評家賞のベスト・カンパニーにノミネートされる魅力あるバレエ団にまで引き上げたのがカナダ人のニクソンであった。
80年代後半に東京で開催された世界バレエ・フェスティバルに、夫人である日系アメリカ人バレリーナでモスクワ国際バレエ・コンクール受賞者のヨーコ・イチノと参加し、優れた容姿と舞踊技術、イチノとのパートナーシップで日本の観客を魅了したニクソンは、優れた振付家でもあり、舞台セットや衣装も手がける大変美意識の高いマルチ・アーティストであった。また自身もイチノも若手の指導に長けていたことが、2001年にニクソンがバレエ団芸術監督に、イチノがバレエ・アカデミーのアソシエイト・ディレクターに就任して以来、生徒やダンサーのレベル・アップにつながった。20年に及んだニクソン芸術監督時代に発表された全幕作品は『白鳥の湖』『嵐が丘』『真夏の夜の夢』『ハムレット』『三銃士』『美女と野獣』『グレート・ギャッツビー』『シンデレラ』『危険な関係』実在の芸者、唐人お吉をモデルにした『芸者』など名作・佳作が目白押しで、ビントレー芸術監督時代のバーミンガム・ロイヤル・バレエと共に、21世紀初頭のイギリス・バレエ界を大変魅力あるものにした。またバレエ団は2012年以降、それまでイギリス五大バレエ団がレパートリーに持っていなかった子ども向けのバレエ作品をシーズン毎に発表し、ノーザン・バレエのイギリス国内での人気と興行成績を不動にした。また若手振付家の育成や発掘にも余念が無く、ジョナサン・ワトキンス、キャシー・マーストン、ケネス・ティンダル、ドリュー・マクオニーらの優れた新作に発表の機会を与えた。この時代に活躍した日本人ダンサーは数多く、ゲーブル時代からコロナ禍まで高橋宏尚が長らくプリンシパルとして、またアシスタント・リハーサル・ディレクター、子ども向けバレエの芸術助監督を務めた他、高橋の夫人である雨宮景子がプリンシパルとして、宮田彩未、伊藤陸久がリーディング・ソリストとして数多くの作品の主役を踊っている。
ニクソンは昨年末に芸術監督を勇退したが、これまで次期芸術監督の発表が無かったことから、バレエ団のダンサーやスタッフ、バレエ・ファンや関係者らは大変心配を募らせていた。それだけに今回の発表は大いに期待を抱かせてくれる。

現在、ボネッリは3月4、19日にスカーレット版『白鳥の湖』を金子扶生と、4月30日にはアシュトン振付『田園の出来事』をラウラ・モレーラと主演する予定。英国ロイヤル・バレエ団でのさよなら公演の日程については、近日中にバレエ団より発表があるという。チケット争奪戦が予想される。

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「シェイプ・オブ・サウンド」© Angela Kase

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