タマラ・ロホがサンフランシスコ・バレエ芸術監督に就任することが発表された

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

サンフランシスコ・バレエは6月に退任する芸術監督ヘルギ・トマソン(79歳)の後任として、現在イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)芸術監督を務めるタマラ・ロホを任命したと1月11日に発表した。1985年以来、37年間という長期に渡って芸術監督を務めてきたトマソンが今年退任することが一年前に決定するや、バレエ団理事で人事委員のフラン・ストリーツとサニー・エヴァンズは後任者を求めて、2021年2月から200名ほどの人物と接触してきた。「バレエ界は白人に支配されている」という批判にも考慮しつつ、2021年7月に白人以外の指導者3名、また女性3名を含む候補者を8名まで絞り込んだという(NYタイムズ)。さらにサンフランシスコ・バレエ団の指導者、スタッフ、ダンサー、音楽家からの意見を取り入れて、最終的にタマラ・ロホに白羽の矢が立てられた。

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タマラ・ロホ © Karolina Kuras

ロホは2012年よりイングリッシュ・ナショナル・バレエ芸術監督に就任し、アクラム・カーンの『ジゼル』や自身初の演出による『ライモンダ』など古典作品を現代的な文脈で再構築した上演や女性振付家の積極的な登用、バレエ団の性別・人種構成の均衡を目指すなど、常に革新的な試みを継続してきた。また、2019年にカンパニーの拠点を東部ロンドンのより広大で最先端のビル Mulryan Centre for Dance(この建物は王立英国建築家協会賞を受賞した)に移転する際に、3600万ポンド(約56億円)もの資金調達に成功している。この新天地でオンライン上演やカンパニー内でのリーダー育成、次世代のダンス人口を拡大するために地域の子どもたちへのバレエ教育プログラムなども始動させた。
彼女はENBでの年月を次のように振り返っている
「10年間、この並外れたカンパニーを率いてきたことを光栄に思います。在籍メンバーやご縁があった素晴らしい才能に恵まれた方々から、現在 "私たちの家" と呼ばれている素晴らしい新しいビルの建築と移転、舞台を離れた形での教育ベースのコミュニティまで、私たちが一緒に達成したすべてのことを非常に誇りに思っています」。
サンフランシスコ・バレエについて、彼女は以下のように抱負を語る 。
「サンフランシスコ・バレエに参加して、バレエの未来がどのようになるべきかを再考し、可能な限り多くの観客の皆様に最善のものをお届けし、カンパニーの革新的な精神をさらに推し進めることができそうです。地域の観客の皆様との深い繋がりがあるので、これからの交流がとても楽しみです」。

サンフランシスコ・バレエは1933年、バレエ・リュスのダンサーとして活躍したアドルフ・ボルムによって設立されたアメリカ最古のバレエ団で、今年で設立89年を迎える。タマラ・ロホは、ウィラム・クリステンセン Willam Christensen(1942〜1951)、その弟のルー・クリステンセン Lew Christensen(1951〜1973)、マイケル・スムイン Michael Smuin(1973〜1985)、ヘルギ・トマソン(1985〜2022)に次いで女性初の5代目芸術監督となる。
サンフランシスコ・バレエには現在、プリンシパルとして倉永美沙、ヤンヤン・タン、ジュリアン・マッケイ、ニキーシャ・フォゴ、ソリストでは山本帆介、松山のりか、サーシャ・ムハメドフ(イレク・ムハメドフの娘)などが在籍する。
ヘルギ・トマソンは退任にあたって「サンフランシスコ・バレエ団の成長と進化をサポートし、ダンスの世界にも私たちが影響を与えたことを実感し続け、非常にやりがいのある37年でした」と語り、さらに「タマラが大胆なビジョンと芸術性でカンパニーをリードし、革新的なアイデアをもたらすのを楽しみにしています。このバレエ団は彼女のリーダーシップの下で繁栄し続けると確信しています。」トマソンが在任中に手掛けたバレエ作品は195にも上る。

ENBでリード・プリンシパルを務めており、ロホの夫でもあるイサック・エルナンデスもサンフランシスコ・バレエにプリンシパルとして移籍する。彼は2008年にサンフランシスコ・バレエに入団し、2010年にソリスト昇進を果たしている。2012年よりオランダ国立バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエには2015年より在籍していた。2018年にはブノワ賞を受賞している。

●サンフランシスコ・バレエ公式サイト
https://www.sfballet.org/

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