マニュエル・ルグリ率いるミラノ・スカラ座がヌレエフ版『ラ・バヤデール』を初めて上演

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

La-bayadre--Nicoletta-Manni-e-Timofej-Andrijashenko--ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala.jpg

『ラ・バヤデール』ニコレッタ・マンニ、ティモフェイ・アンドリヤシャンコ
Nicoletta Manni e Timofej Andrijashenko. Photo Brescia e Amisano©Teatro alla Scala

マニュエル・ルグリ舞踊監督によるミラノ・スカラ座2021/22シーズンがヌレエフ版『ラ・バヤデール』で開幕した。ヌレエフ財団がパリ・オペラ座バレエ以外での上演を初めて許可し、スカラ座で上演される運びとなった。開幕直前、バレエ団で新型コロナ陽性者が数名判明したため、接触者の検疫措置が行われ、スカラ座は保健当局との合意に基づき『ラ・バヤデール』の初日を12月21日とした。当初12月14日に予定されていた30歳以下のためのプレビューは12月20日に行われ、12月15日と17日の公演はそれぞれ1月12日と13日に延期された。団員数名とスカラ座バレエ・アカデミー生徒の出演は衛生上の理由で見送られた。1月5日、8日に客演するスヴェトラーナ・ザハーロワのパートナーはティモフェイ・アンドリヤシェンコが務める。ザハーロワはこれまでマカロワ版、グリゴローヴィチ版を踊って絶賛されてきたが、今回、新たにヌレエフ版に挑戦する。
ルグリは上演についての抱負を語る。「この作品はとても美しく、スカラ座のように熟練したスタッフと粒揃いのダンサーが揃わないと上演が成り立たないものです。スカラ座のダンサーたちを見て、この作品の様々な役にふさわしく、興味深い特質を備えていると思いました。ヌレエフが創作したヴァージョンでは寺院が崩壊する第4幕はありませんが、第3幕の雄大で簡潔な『影の王国』で本質的な主題が集約され完結する点が、かえって現代的だと思います。ヌレエフ自身の役作りは、超絶技巧に終始することだけではない絶妙なものでした」。舞台美術と衣装デザインは、新国立劇場バレエ団や東京バレエ団、牧阿佐美バレヱ団などでもデザインを担当しているルイザ・スピナテッリが手掛けた。スカラ座オーケストラ指揮はケヴィン・ローズ。両者ともルグリとはウィーン国立バレエ『海賊』、そして現在のミラノ・スカラ座『ジゼル』での協同作業を通じて厚い信頼関係を築いている。

La-bayadre--Nicoletta-Manni--ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala.jpg

『ラ・バヤデール』ニコレッタ・マンニ
Nicoletta Manni_Photo Brescia e Amisano ©Teatro alla Scala

La-bayadre---Nicoletta-Manni-e-Timofej-Andrijashenko-e-il-corpo-di-ballo-ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala-(3).jpg

『ラ・バヤデール』ニコレッタ・マンニ、ティモフェイ・アンドリヤシャンコとコール・ド・バレエ
Nicoletta Manni e Timofej Andrijashenko e il corpo di ballo_Photo Brescia e Amisano ©Teatro alla Scala

1877年サンクトペテルブルクで初演された『ラ・バヤデール』は、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)が1961年のパリ公演で「影の王国」を上演するまで西側に知られていなかった演目だった。その時ソロルを演じたのが当時23歳だったヌレエフで、ターバンを頭に巻いた衣装がタタール系の彼の風貌をよりエキゾチックなものにした。何より、女性ダンサーの魅力すらもを凌駕する野性味溢れる演技に、パリやロンドンの観客は一瞬でヌレエフに魅了された。亡命後、ヌレエフは1963年に「影の王国」を英国ロイヤル・バレエ、1974年にパリ・オペラ座バレエに振付けている。1992年、伝説のダンサー、ヌレエフの象徴ともいえるこの演目の、満を持しての全幕版がパリ・オペラ座で初演された。当時のことをルグリは次のように回想している。
「オペラ座のレパートリーには『ラ・バヤデール』の演目がなく、ボリショイやキーロフ版を見たことはありました。ヌレエフからソロル役に配役されたときは驚きました。それまでロミオ、オネーギン、デ・グリュー、などのロマンチックで洗練された役が多かったので、力強い戦士であるソロルを演じることができるのかという戸惑いもありましたが、彼の期待に応えようと思いました。1992年パリ・オペラ座でヌレエフ版が初演された際、ローラン・イレールがソロル役のファースト・キャストで私は2番手でした。このバレエに関しては、カドリーユ時代からすべての役を踊ってきたので、全体の動きやテクニック、役のパーソナリティまで含め、作品全体を熟知しています」

La-bayadre---Federico-Fresi--ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala.jpg

『ラ・バヤデール』フェデリコ・フレーシ
Federico Fresi_Photo Brescia e Amisano ©Teatro alla Scala

La-bayadre--al-centro-Maria-Celeste-Losa-e-Timofej-Andrijashenko--ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala.jpg

『ラ・バヤデール』舞台中央:マリア・セレステ・ロサ、ティモフェイ・アンドリヤシャンコ al centro Maria Celeste Losa e Timofej Andrijashenko_Photo Brescia e Amisano ©Teatro alla Scala

ミラノ・スカラ座『ラ・バヤデール』(全2幕)
台本:マリウス・プティパ、セルゲイ・クデコフ
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ原版に基づく)
改訂:フローランス・クレール、マニュエル・ルグリ
振付監修:マニュエル・ルグリ
指揮:ケヴィン・ローズ
オーケストレーション:ジョン・ランチベリー
舞台美術・衣装:ルイザ・スピナテッリ
ゲスト・アーティスト:スヴェトラーナ・ザハーロワ(2022年1月5、8日)
2021年12月21日〜2022年1月13日

ミラノ・スカラ座公式サイト
https://www.teatroallascala.org/en/index.html

ミラノ・スカラ座Facebook
https://www.facebook.com/teatro.alla.scala

またスカラ座付属アカデミーでは、12月12日に20周年記念ガラを開催した。バレエスクールからは、ディレクター、フレデリック・オリヴィエリの下、生徒たちがハロルド・ランダー『エチュード』、『くるみ割り人形』(1934年ワイノーネン版。パ・ド・ドゥのキャストは上級生アシア・マッテアッツィ Asia Mateazziとロレンツォ・レッリ Lorenzo Lelli)に出演した。プログラム最後は、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』第二幕「大行進曲」に乗せたデフィレでは、一列ずつ舞台奥から前方へ進み出て観客に挨拶した。この模様はスカラ座アカデミーFacebook、YouTubeにて公開中。この学校の発祥は1813年創立の帝国舞踊アカデミーに遡り、カルロ・ブラジス、オルガ・プレオブラジェンスカ、エンリコ・チェケッティなどの優れた指導陣によって大きく発展した。2001年より音楽・バレエ・舞台制作・舞台マネジメントと演劇人材を幅広く育成する総合芸術学校となった。

ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミーFacebook
https://www.facebook.com/accademiascala/

ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミーYouTube
https://www.youtube.com/user/AccademiaScala

La-bayadre---Nicoletta-Manni-e-Timofej-Andrijashenko-e-il-corpo-di-ballo-ph-Brescia-e-Amisano-C-Teatro-alla-Scala-(2).jpg

『ラ・バヤデール』ニコレッタ・マンニ、ティモフェイ・アンドリヤシャンコとコール・ド・バレエ
Nicoletta Manni e Timofej Andrijashenko e il corpo di ballo_Photo Brescia e Amisano©Teatro alla Scala

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る