訃報 新国立劇場バレエ団が上演したピーター・ライト版『白鳥の湖』を共同演出したガリーナ・サムソワが逝った

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

過日、新国立劇場で上演された『白鳥の湖』をピーター・ライト卿と共同で演出を行ったガリーナ・サムソワが12月11日ロンドンで亡くなった。84歳だった。
バーミンガム・ロイヤル・バレエの元プリンシパル、現アシスタント・ディレクターのマリオン・テイト他が追悼文を寄せている。
「サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ(バーミンガム・ロイヤル・バレエの前身)で長年ご一緒しましたが、彼女は完璧なロール・モデルであり、触発される存在でした。......
ピーター・ライト卿と彼女の共同制作版『白鳥の湖』を最初に踊ったときの素晴らしいコーチングをよく覚えています。寛大かつ愛情を込めて、とても貴重な指導をしていただきました。
「テイティー(マリオン・テイトの愛称)、肩にドラマが感じられないわ」という強いロシアなまりの彼女の言葉は未だに私の耳に響き渡っています。私は彼女の素朴で大胆かつ美しいポール・ド・ブラの崇高さを真似ようとしました。......
劇場から戻るとすぐに彼女はカフタン(トルコの民族衣装でゆったりとした上着)に着替え、「モア」のタバコに火をつけ、白ワインをグラスに注ぎ、食事の準備や洗い物、その他やるべきことをすべてこなし、非常に家庭的な一面も見せてくれました。」

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ピーター・ライト版『白鳥の湖』1981年初演。ガリーナ・サムソワ(オデット)、デイヴィッド・アシュモール(ジークフリート王子)Photo: Leslie E. Spatt

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ピーター・ライト版『白鳥の湖』1981年初演。ガリーナ・サムソワ(オディール)、デズモンド・ケリー(ロットバルト男爵)Photo: Leslie E. Spatt

ガリーナ・サムソワは1937年、ロシア南西部のスターリングラード(現ヴォルゴグラード)に生まれた。キエフ国立バレエ学校でアグリッピーナ・ワガノワの生徒だったナタリア・ヴェレクンドワ に師事し、1956年卒業後、キエフ・バレエに入団する。1960年、教師のアレクサンダー・ウルスリアクと結婚しカナダへ移住。1961年、カナダ国立バレエにソリストとして入団し、まもなくプリンシパルに昇進。『白鳥の湖』『ジゼル』、バランシン、テューダー、クランコなどの作品に出演。1963年パリ国際ダンスフェスティバルでヴァツラフ・オルリコフスキー振付『シンデレラ』のタイトル・ロールでを踊りヨーロッパ・デビュー。この演技で金メダルを受賞する(ちなみにこの年の男性金メダル受賞者はルドルフ・ヌレエフだった)。1964年ロンドン・フェスティバル・バレエのゲスト・アーティストとして出演した後、正式に入団。1973年、このバレエ団でパートナーを組んでいたアンドレ・プロコフスキーと共にニュー・ロンドン・バレエを旗揚げし、5大陸を巡業した。1978年、サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエにゲストとして登場し、1980年プリンシパル兼教師として正式入団。その年に、彼女はサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエのために『パキータ』から「グラン・パ」をプロデュースし、主役を演じる。1981年、ピーター・ライト卿版『白鳥の湖』ではリサーチを担当するなどライト卿と共同で制作にあたった。この作品の初演時では、主役のオデット/オディールを踊っている。サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ在団中の主なレパートリーは『ラ・フィーユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)』『ジゼル』『ライモンダ』第3幕『パピヨン』『ラス エルマナス』『コンチェルト』『レ・シルフィード』など。1990〜1997年にはピーター・ダレルの後任としてスコティッシュ・バレエの二代目となる芸術監督を務めた。

スコティッシュ・バレエ芸術監督クリストファー・ハンプソンも追悼メッセージを寄せている。「ガリーナはインスピレーションあふれる芸術監督であり、素晴らしい才能の世代を先導し。、スコティッシュバレエを高次元へ引き上げました。彼女は高い目標を掲げ、常に彼女のトレードマークであるいたずら好きなユーモアでリーダーシップを発揮しました。」

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ピーター・ライト版『白鳥の湖』1981年初演。ガリーナ・サムソワ(オデット)、デイヴィッド・アシュモール(ジークフリート王子)Photo: Leslie E. Spatt

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ピーター・ライト版『白鳥の湖』1981年初演。ガリーナ・サムソワ(オディール)、デイヴィッド・アシュモール(ジークフリート王子)Photo: Leslie E. Spatt

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