「ワールド・バレエスクール・デー2021」世界各地のバレエ学校の「現在」が見える

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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「ワールド・バレエスクール・デー2021」メインビジュアル

イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール芸術監督ヴィヴィアナ・デュランテの提唱で昨年より始まった「ワールド・バレエスクール・デー」。2回目のオンライン配信が2021年11月13日よりスタートし、12月13日まで公開される。イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール、エイリー・スクール、カナダ国立バレエスクール、ニュージーランド・スクール・オブ・ダンス、パルッカ舞踊大学、ボストン・バレエスクールのバレエ学校6校およびローザンヌ国際バレエコンクールの生徒委員会メンバーによってブレゼンテーションが行われた。
今年のテーマは、Adaptability(順応性)、Identity(独自性)、Pathway(進路)の三つ。Adaptability(順応性)の章では、コロナ時代に突入して以来、バレエスクールがどのように対処し適応を図ってきたのか、その軌跡を辿る。まず、オンラインのオーディションやレッスンの仕組みが瞬く間に構築され、自宅にいながらにしてプロフェッショナルと直接繋がることが可能となった。疑問点もメールなどで問い合わせでき、従来の対面形式に比べて作業効率が格段にアップしたという。また、ロックダウン期間中も振付家と踊り手の生徒たちはオンラインにて繋がり、作品を創り上げて行った。ダンサーたちの舞台上のフォーメーションについては、演者間の距離を十分に取るなど感染リスクが高じないような衛生的配慮もなされた。学習成果の披露については、観客を会場に迎える代わりにオンラインで配信したり、正式な舞台ではない屋外での上演も行われた。

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イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール

Identity(独自性)のセクションでは、アーティストとして自らの芸術を追求する点について論じている。バレエ学校では学年が進むにつれて、テクニックに加えて芸術としての表現に磨きをかけることに比重が移る。創作に興味を持つ者は、振付にもチャレンジする。実際に各校でダンサー兼振付家として活躍する先達のインタビューも見られる。また、ヨーロッパで生まれ、ロシアで発達したバレエの世界は伝統的に白人の割合が多いが、人種・文化的多様性も受け入れようという近年の社会認識の高まりがダンスの世界でも広がっていることを示す事例(カリビアン系振付家兼ダンサー Yusha-Marie Sorzano、アフリカ系振付家のJa' Malikやカナダ国立バレエスクールのアフリカ系生徒Siphe Novemberなど)も取り上げている。

Pathway(進路)の章はプロになるまでの様々な道を紹介する。コロナ禍下、バレエ団は劇場での上演が長期間に渡って中止となり、経営面でも厳しい局面を迎えた。このような現状では、バレエ・カンパニーは新人ダンサーを新たに雇用する余裕はほぼなくなった。しかし、バレエ学校の卒業生は近年、バレエ・カンパニーに入団する前に研修生として研鑽を積むケースが増えた。例えば、イングリッシュ・ナショナル・バレエスクールのプロ研修プログラムでは、ゼナイダ・ヤノウスキーのような一流のプロフェッショナル・ダンサーから直接、指導や様々なアドバイスを受けることができる。ヤノウスキーは「私の役目は、夢や情熱を持つ若者を支えることです。そして彼らが入団できるよう導き、プロになる旅路において手を差し伸べることです」と話している。

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「ワールド・バレエスクール・デー2021」生徒委員会メンバー

"Ballet Unleashed"という国際クリエーション・フォーマットでは、プロジェクト・ベースで世界中からクリエイターや演者などアーティストを募り、数ヶ月程度の短期間で創作を行っている。提携校はパリ・オペラ座バレエスクール、ロイヤル・バレエスクール、パルッカ舞踊大学、ボストン・バレエスクールなど世界各国の11校。出演ダンサーたちは世界中からオーディションで選ばれる。"Ballet Unleashed"で初めてオンライン・リリースされた作品がキャシー・マーストン振付&ローレン・ファイナーマン Lauren Finerman監督による映像『Switchback(スイッチバック)』。出演するダンサーたちが夢を追求する旅に出るというコンセプトで創作された。「ワールド・バレエスクール・デー2021」では、サンフランシスコ・バレエスクールのMarusha Madubukoが森林の中で踊る場面の抜粋が収録されている。キャシー・マーストンは「クリエイター・チームや演者は世界各地に散らばっており、私自身、誰とも会ったことはない中で、創作作業はすべてオンラインで行い、ダンサーの居住地で撮影しました。これまで経験したことのない方法で、とまどいもありましたが、作品は無事出来上がりました。実に驚くべき成果です。」と語る。

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キャシー・マーストン振付"SWITCHBACK" Marushya Madubuko

ローザンヌ国際バレエコンクール2021第2位、Web観客賞、ベスト・スイス賞という三冠に輝き、その後オランダ国立バレエ・ジュニア・カンパニーに入団したエジプトのルカ=アブデル・ヌールは、2021年度ローザンヌ国際バレエコンクールについて語った。新型コロナウィルス感染拡大の影響で、コンクールは当初予定されていた対面式から、急遽オンライン開催への変更が余儀なくされ、ヴァリエーションについては、プロのコーチによる指導をコンクール会場で受けることは叶わなくなった。そのため参加者は各自、在籍する学校でヴァリエーションを練習し、それを録画することになり、その映像が審査対象となった。ルカ・アブデル=ヌールはコンテンポラリー作品『ディエゴのためのソロ』を研究するにあたって、過去の入賞者の踊りを参考にしたという。

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オランダ国立バレエアカデミー

ローザンヌ国際バレエコンクール2021新人振付賞を受賞したマヤ・スモールウッド(カナダ国立バレエスクール在籍時に入賞。現在はオランダ国立バレエアカデミー在籍)による作品"Unravel"が、ローザンヌ2022年のコンテンポラリー課題ヴァリエーションのひとつに選ばれたが、その模範演技をしているのがユアン・ハートマン 、16歳。「ワールド・バレエスクール・デー2021」カナダ国立バレエスクールの映像では、ハートマンが『白鳥の湖』ジークフリート王子のヴァリエーションについて教師から熱心な指導を受けている様が映し出され、教師陣から大いに期待されている様子が伺える。

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カナダ国立バレエスクール ユアン・ハートマン

「ワールド・バレエスクール・デー2021」では、幹事校以外にも英国ロイヤル・バレエスクール、アメリカン・バレエ・シアターの付属校 ABTジャクリーン・オナシス・スタジオ・カンパニーやニューヨーク・シティ・バレエの付属校 スクール・オブ・アメリカン・バレエ、オランダ国立バレエアカデミー、スウェーデン王立バレエスクール、アントワープ王立バレエスクールといった世界各地の名門校の普段あまり目にする機会のない、レッスンやリハーサル、公演の様子を捉えた貴重な映像を垣間見ることができる。

ワールド・バレエスクール・デー公式サイト
https://www.worldballetschoolday.com/
(2021年版は12月13日まで無料視聴可能)

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ドレスデン・パルッカ舞踊大学"THE LOSS OF NONSENSE"

「ワールド・バレエスクール・デー2021」生徒委員会
ニュージーランド・スクール・オブ・ダンス :シャーロット・コグラン Charlotte Coghlan
ボストン・バレエスクール:クリスティーナ・コール Christina Cole
イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール:ジョン・フィスク Josh Fisk
ドレスデン・パルッカ舞踊大学:ジョシュア・ハント Joshua Hunt
エイリー・スクール:カイラ・トマス Kayla Thomas
ローザンヌ国際バレエコンクール:ルカ・アブデル=ヌール Luca Abdel-Nour
カナダ国立バレエスクール:サイモン・アダムソン・デ・ルカ Simon Adamson De Luca

「ワールド・バレエスクール・デー2021」主な内容
第1章 イントロダクション 生徒委員会自己紹介、今回のテーマの提示
第2章 Adaptability(順応性)
 ドレスデン・パルッカ舞踊大学
 THE LOSS OF NONSENSE
 振付・演出:Rita Aosane Bilibio
 出演・振付:Joshua Hunt, Léonard Blondel, Victor Duval
 音楽:Fabian Schulz
 ローザンヌ国際バレエコンクール2021  
『パキータ』『ディエゴのためのソロ』 ルカ・アブデル=ヌール
 ボストン・バレエスクール
 LIGHT MIGRATIONS
 振付:Ja' Marikz(インタビューあり)
 音楽:Szymon Broska
 イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール
 オンラインのクラスやオーディションについて、2年生女子の作品
 エイリ―・スクール
 2021 BFAシニア・コンサート プログラムB
 RUSH HOUR
 振付:Robert Battle
 オリジナル・スコア:John Mackey
第3章 Identity(独自性)
 カナダ国立バレエスクール
 『白鳥の湖』第一幕 ジークフリート王子のヴァリエーション
 振付:エリック・ブルーン
 音楽:チャイコフスキー
 出演:ユアン・ハートマン Ewan Hartman(11年クラス)
 コーチ:レイモンド・スミス Raymond Smith(バレエ教師、カナダ国立バレエ元プリンシパル・ダンサー、カナダ国立バレエスクールOB)
 『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』よりリゼット(リーズ)のヴァリエーション
 振付:フレデリック・アシュトン
 音楽:フェルディナンド・エロール/編曲:ジョン・ランチベリー
 出演:イザベラ・キンチ Isabella Kinch(12年クラス)
 コーチ:ジェイムズ・クデルカ James Kudelka(ゲスト教師、カナダ国立バレエスクールOB、カナダ国立バレエ元芸術監督)、シャオ・ナン・ユー Xiao Nan Yu(ゲスト教師、カナダ国立バレエスクールOB、カナダ国立バレエ元プリンシパル・ダンサー)
エイリ―・スクール
 TESTAMENTより "Chaos Calm Chaos"
 コンセプト・振付:Yusha-Marie Sorzano(インタビューあり)
 オリジナル音楽:Damien L.Sneed
 出演:Samantha Figgins
 ボストン・バレエスクール
 CATACLYSMIC HOPE
 振付:Johanna Sigurdardottir(インタビューあり)
 音楽:垣本拓海 Takumi Kakimoto(ピアニスト、作編曲家、ボストン・バレエ伴奏ピアニスト)
 ニュージーランド・スクール・オブ・ダンス
 First
 振付:Tabitha Dombroski
 音楽(作曲・編曲):Kit Reilly
 出演:Danier Laganzo
第4章 Pathway(進路)
 イングリッシュ・ナショナル・バレエスクール・プロフェッショナル研修プログラム
 エイリ― II(エイリ―・スクールとアルヴィン・エイリ―・アメリカン・ダンス・シアターの間を繋ぐプロを目指す卒業生のためのユース・カンパニー)
 Breaking Point
 振付:Renee I.McDonald
 ニュージーランド・スクール・オブ・ダンス
 LAST TIME WE SPOKE
 振付:Sarah Knox for Ballet Collective Aotearoa(芸術監督Turid Revfeimインタビューあり)
 音楽:"Lost Letters" by Rhian Sheehan
 出演:Tsuyumi Wilson-Travis, Zachary Healy
 Ballet Unleashed
 SWITCHBACK 
 振付:キャシー・マーストン(インタビューあり)
 監督:Lauren Finerman
 出演:Marusha Madubuko
 別の出演者Tristan Toy(ボストン・バレエ・スクール卒業生、現在Ballet Met 2在籍)のインタビューあり
第5章 結論
 各生徒からのコメント、世界各地のダンススクール紹介映像

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