ローザンヌ国際バレエコンクール2022 参加概要、過去の入賞者の昇進ニュース

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

優れた資質をもつ若いバレエ・ダンサーたちのプロへの道程を支援する、ローザンヌ国際バレエコンクール2022のビデオ選考への登録受付が始まっている。今大会の概要・日程は以下のとおり。

・開催期間:2022年1月30日(日)〜2月6日(日)。参加者全員のクラシックとコンテンポラリーのヴァリエーションの舞台での審査は2月4日(金)、決選は2月5日(土)
・開催場所:オーディトリアム・ストラヴィンスキーおよびモントルー ミュージック&コンベンションセンター(スイス、モントルー)
・参加資格:生年月日が2003年2月6日〜2007年2月5日の、将来プロとして活動することを目指す者。国籍は問わない。
・医療関連資料の提出、ビデオ選考参加への登録、および登録料の納付期限:2021年9月30日
・ビデオ選考用デジタルビデオファイル送付締め切り:2021年10月17日
・ビデオ選考通過者(モントルーでのコンクール参加者)の発表、およびクラシックとコンテンポラリーのヴァリエーション・リストの発表:2021年10月28日までに公式サイト上で行う
・審査員の発表:2021年12月より公式サイトにて

各賞について:
・スカラシップ賞(コンクールの提携校へ授業料免除で1年間留学する権利が与えられる)
プロ研修費(17歳以上の受賞者を対象とし、受賞者が希望するカンパニーの活動に研修生として1年間参加できる権利が付与される)
・コンテンポラリー賞(ファイナリストの中から、コンテンポラリー・ダンスに優れた資質を持つと判断された1名に授与され、提携するスクールや団体の講習会に参加することができる)
・ベスト・ヤング・タレント賞(スカラシップを受賞していないファイナリストの中で、優れた芸術性を発揮した者にルドルフ・ヌレエフ財団より授与される)
・ベスト・スイス賞(スイスのスクールより参加のファイナリストの中から最優秀の成績を収めた者に授与される)
・観客賞(決選を当日会場で観覧した観客の投票によりファイナリスト1名に贈られる)
・WEB視聴者賞(コンクールのライブストリーミング視聴者の投票により、コンクール参加者の中から選ばれる。決選日にArte Concert のWebサイトに直接投票する)
ローザンヌ国際バレエコンクールの参加要項/概要:公式サイトより
https://www.prixdelausanne.org/competition/candidates-info/#tab2

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020の模様 © PDL2020_Gregory Batardon

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マッケンジー・ブラウン、ローザンヌ国際バレエコンクール2019にて © PDL2019_Rodrigo Buas

ローザンヌ国際バレエコンクールから羽ばたいていった入賞者たちの話題もいくつかお伝えしよう。シュツットガルト・バレエに入団したマッケンジー・ブラウン Mackenzie Brownとガブリエル・フィゲレド Gabriel Figueredoが2021年新シーズンよりドゥミ・ソリストに昇進する。2019年ローザンヌ国際バレエコンクールで1位となったマッケンジー・ブラウン はアメリカ南東部バージニア州スタッフォード出身。3歳よりバレエを始める。2016年、YAGPニューヨーク・ファイナルに進出し、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーのスカラシップを授与され、2020年に同校を卒業。2019年ローザンヌ国際バレエコンクール出場の際、第1位受賞のほか、コンテンポラリー賞と観客賞も受賞している。2020年シュツットガルト・バレエ入団後はウィリアム・フォーサイスの"Blake Works I"、イリ・キリアンの"Falling Angels"、ハンス・ファン・マーネンの"Große Fuge"などでソロ・パートに配役されている。彼女のために新たに創作された役としてはマウロ・ビゴンゼッティによる"Einssein"、マルコ・ゲッケによる"Nachtmerrie"などがある。

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ガブリエル・フィゲレド、ローザンヌ国際バレエコン クール2019にて © PDL2019_Gregory Batardon

2019年ローザンヌ国際バレエコンクール2位入賞のガブリエル・フィゲレドはブラジル南部のノヴォ・アンブルゴに生まれ、転居したタクアラでバレエを始める。2013年のYAGPでユース・グランプリを受賞し、ジョン・クランコ・スクール校長タデウス・マタチの招待により2014年より同校へ留学、2019年卒業後、シュツットガルト・バレエに入団。ジョン・クランコ・スクール在学中の2017年、デミス・ヴォルピが創作したシュツットガルト州立歌劇場のオペラ=バレエ共同作品『ベニスに死す』で美少年タッジオ役に抜擢された。

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ルカ・アブデル=ヌール、ローザンヌ国際バレエコンクール2021にて © PDL2021

続いて2021年のローザンヌ国際バレエコンクールで第2位となり、観客賞とベスト・スイス賞を受賞したルカ・アブデル=ヌール Luca Abdel-Nourについての話題を。エジプト出身のダンサーがローザンヌ国際バレエコンクールに出場したのは第一回大会に次いで実に49年ぶりとなった。アブデル=ヌールがエジプト初の入賞者となったことで、エジプトや彼が入団したオランダ国立バレエ・ジュニア・カンパニーの地元メディア("Egyptian Streets", オランダ・メディア"NRC")でも彼の躍進ぶりは「エジプトのビリー・エリオット」と称され、話題になっている。彼は2003年にエジプトの首都カイロでエジプト人の父とフランス人の母の間に生まれた。エジプトではダンスや演劇などの芸術教育が学校の正規教科として普及しておらず、バレエは女の子が趣味でやるものとされ、保守層からは不道徳でみだらなものという見方さえされているという。母のすすめで、12歳のときにフランスのダンス夏期講習に参加したところ、インストラクターからもバレエを続けるように熱心に説得されたという。続いて、彼はエジプトの高名なバレエ・ダンサー、アーメド・ヤヒア Ahmed Yehiaのクラスに初めて参加した。「僕は少しストレッチをして、いくつかの基本的なバレエの動きを彼に見せました。するとヤヒア先生は母の元へやって来て、『彼をどこに隠していたんですか?』と言ったのです」とアブデル=ヌールは当時の様子を語る「それ以来、彼の厳しいレッスンが始まったのです。僕は一生懸命練習しました」。彼の父親もバレエで生計を立てることができるとは夢にも思っておらず、最初のうちは息子がプロのバレエ・ダンサーになることを反対していたが、母と恩師の熱心な説得のおかげで彼がバレエへの道を進むことを許したという。
ルカ・アブデル=ヌールは14歳で言葉も文化も異なるスイスのチューリヒ・ダンス・アカデミーに留学した。長い手足に高い柔軟性といったバレエ・ダンサーとしての恵まれた素質の上にさらにテクニック、表現力などを磨くため、アカデミー在学中にオランダ国立バレエ・ジュニア・カンパニーの講習を受け、ローザンヌ国際バレエコンクールに入賞したら、ここに入団したいと思っていたという。ロックダウンの間も、彼の新しい師となるオランダ国立バレエ・ジュニア・カンパニーのアーティスティック・コーディネーター、エルンスト・マイスナーのオンライン・クラスを受講した。
エジプトのバレエは旧ソ連からもたらされ、元ボリショイ・バレエ芸術監督レオニード・ラヴロフスキーが中心となって1958年に設立したエジプト唯一のカイロ国立オペラ・バレエ団では、設立当時の1950〜1960年代の教育方法やクラシック・レパートリーがそのまま残っているという。エジプトでは政権が変わるごとに文化政策も目まぐるしく変わってきた。2011年のエジプト革命後のモルシ大統領の下ではバレエが厳しく制限されていたが、現在のアッ=シーシー政権下の芸術文化大臣はバレエの発展を支持しているという。「エジプト・バレエ界のコミュニティーは小さいながらも確実に存在しています。新世代の人間はバレエに対する偏見を変えていこうとしているし、ヒップホップにはまっている子たちのおかげもあってバレエ・スタジオは僕の子どもの頃より増えていて状況は少しずつ好転しつつあります。エジプトには未発見の才能と機会がたくさん埋もれていると思われるので、将来はエジプトでダンス・スクールやダンス・カンパニーのディレクターになりたいです」と母国のバレエ界の発展に貢献したいと語るルカ・アブデル=ヌール。「ルカ」はラテン語で「光」を意味し、「アブデル=ヌール」はアラビア語で「光のしもべ」を表すという。かつてローザンヌの檜舞台に彗星のごとく現れた熊川哲也に憧れてバレエ・ダンサーを目指す少年たちが我が国でも一気に増えていったように、彼の登場はエジプトのバレエ界にとって、まさに一条の希望の光となりそうな予感がする。

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