ネルヴィ音楽バレエフェスティバルでストラヴィンスキー没後50年記念公演が行われた

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

今年7月には、YAGPのガラ公演が行われたイタリアのネルヴィ音楽バレエフェスティバル。7月8日にはストラヴィンスキーの没後50年を記念して「Stravinsky's Love(ストラヴィンスキーの愛)」と題したガラ公演が行われた。
注目は、ジョン・ノイマイヤーの『ピーター(ピヨトール)とイゴール』とセルヒオ・ベルナル振付の新作『兵士の物語』より。そして『プルチネッラ』フォーキン振付の復元版から、ウヴェ・ショルツ、マルコ・ゲッケ、Sasha RivaとSimone Repeleのコンビによる現代の作品までが上演された。
今回のプログラム構成は、ストラヴィンスキーによる様々な舞踊を、彼の著作を基に再構成した脚本により、ボリショイ・バレエの元プリンシパル、ウラジーミル・デレヴィヤンコがストラヴィンスキーに扮して案内するというもの。ストラヴィンスキーがダンスをいかに愛していたかを、改めて知ることができる仕組みである。

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『ピーターとイゴール』上:ヤコポ・ベルッシ、下:アレッサンドロ・フロラ© Graham Spicer 2021

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『兵士の物語』より「三つの舞曲」セルヒオ・ベルナル、アシュリー・ボーダー© Graham Spicer 2021

ノイマイヤー振付の『ピーターとイゴール』は、今年6月にハンブルク・バレエのニジンスキー・ガラで世界初演されて好評だった。「ピーター」はチャイコフスキー(ピョートルは英語のピーター)を指し、ストラヴィンスキーのチャイコフスキーの音楽に対して抱いていた崇拝の想いから、二人の青年の様々な感情が交錯するデュエットとして描かれる。イゴールを演じたのはハンブルク・バレエのプリンシパル、ヤコボ・ベルッシ。ピーター役のアレッサンドロ・フロラはイタリア出身でコール・ド・バレエから抜擢された。14歳の頃イタリアでミュージカル『ビリー・エリオット』で主役を演じたという。
「フラメンコ界のロベルト・ボッレ」とも言われるセルヒオ・ベルナルは、『兵士の物語』から「三つの舞曲」に、新たにスペイン舞踊風の振付を行い、タンゴのパートではニューヨーク・シティ・バレエのアシュリー・ボーダーをパートナーに踊った。

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ウヴェ・ショルツ振付『春の祭典』ダヴィデ・ダト © Graham Spicer 2021

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『ペトルーシュカ』左よりTommaso Beneventi, Susanna Elviretti, Mattia Tortor © Graham Spicer 2021

ウヴェ・ショルツ振付『春の祭典』は、初演に出演したジョヴァンニ・ディ・パルマが復元し、ウィーン国立バレエのダヴィデ・ダドが踊った。マルコ・ゲッケ振付の『火の鳥』は、「鳥を表現するのに適した、ゲッケの振付に特徴的な痙攣(けいれん)と羽ばたきがこの作品でも見られた。二人のダンサーはお互いをつつき、指をひらめかせ、時として鳥の爪のように鋭くなる」「この作品は内省的で、壮大な音楽の中にありながら奇妙なほど瞑想的である」と紹介されている(Gramiliano)。鳥を演じた二人、Sasha RivaとSimone Repele は共作、あるいは個別で作品を創作する振付家・ダンサーのコンビ。今回の公演では『プルチネッラ』にも出演している。
ピカソのオリジナル・デザインによる『プルチネッラ』の復元、アレクサンドル・ブノワによる『ペトルーシュカ』のデザインが忠実に復元された衣装も注目された。また『火の鳥』では、ストラヴィンスキー自身が監督した歴史的録音が使用された。
「パリでディアギレフが初演した『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典』の優れた舞台は、ストラヴィンパキーのバレエへの熱い情熱があってこそ生まれました。『Stravinsky's Love(ストラヴィンスキーの愛)』は、素晴しいアーティストの才能が結集して、ナレーションと音楽、小規模のアンサンブルのダンスで構成されています」と、ストラヴィンスキー財団の代表を務めるひ孫のマリー・ストラヴィンスキーはコメントしている。
ネルヴィ音楽バレエフェスティバルは、1955年にイタリア初のバレエフェスティバルとして開催されて以来、ヌレエフ、フォンテイン、バリシニコフ、ワシーリエフ、マクシモーワといった著名なバレエ・ダンサーたちが客演。エイリー、プティ、ベジャールなどの振付家もこのフェスティバルに招聘されたし、イタリアの名花カルラ・フラッチもこの祭典に出演して大きく羽ばたいた。今会の開催は、5月にこの世を去った彼女を追悼している。また東京バレエ団は、この祭典に1992年と2019年に客演している。

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マルコ・ゲッケ振付『火の鳥』左よりSasha Riva, Simone Repele© Graham Spicer 2021

ネルヴィ音楽バレエフェスティバル2021
イゴール・ストラヴィンスキー没後50年記念公演
「ストラヴィンスキーの愛」
Nervi Music Ballet Festival 2021
In omaggio al 50° anniversario della morte di Igor Stravinsky
STRAVINSKY'S LOVE

《プログラム》イゴール・ストラヴィンスキー 音楽による
ストラヴィンスキー役:ウラジーミル・デレヴィヤンコ
●『プルチネッラ』より「イタリア組曲」
ストラヴィンスキーおよびサミュエル・ドゥシュキンによるピアノとヴァイオリンのための編曲(1933年)
振付:Sasha Riva, Simone Repele
出演: Sasha Riva, Simone Repele, ウラジーミル・デレヴィヤンコ
衣装:Anna Biagiotti(パブロ・ピカソのオリジナル・デザインを復元)
出演: Simone Lamsma, violino/ピアノ演奏:Massimo Spada
●新作『兵士の物語』より「三つの舞曲」(1918年)
タンゴ/ワルツ/ラグタイム
振付:セルヒオ・ベルナル Sergio Bernal
出演:セルヒオ・ベルナル, アシュリー・ボーダー
ヴァイオリン・ソロ演奏:Simone Lamsma
●新作『ピーターとイゴール Peter and Igor』
音楽:『妖精の口づけ』より組曲『ディヴェルティメント』
ヴァイオリンとピアノのための編曲(1934年)
「シンフォニア」
パ・ド・ドゥ(「アダージオ」「ヴァリエーション」「コーダ」)
振付:ジョン・ノイマイヤー
出演:ヤコポ・ベルッシ, アレッサンドロ・フローラ
ヴァイオリン演奏:Simone Lamsma/ピアノ演奏:Beatrice Rana
●『火の鳥』(1910年)より
「子守唄」/「フィナーレ」
振付:マルコ・ゲッケ
出演:Sasha Riva, Simone Repele
イゴール・ストラヴィンスキーとコロンビア交響楽団による録音(1967年)
●『ペトルーシュカ』 よりピアノ・ソロ・オリジナルバージョン(1911年)
「ロシアの踊り:バレリーナ、ペトルーシュカ、ムーア人、そして魔術師」
振付:ミハイル・フォーキン(リッカルド・ディ・コスモによる復元)
出演:Susanna Elviretti(バレリーナ), Mattia Tortora(ペトルーシュカ), Tommaso Beneventi(ムーア人), ウラジーミル・デレヴィヤンコ(魔術師)
衣装:Anna Biagiotti(アレクサンドル・ブノワのオリジナルスケッチから復元)
●『春の祭典』イタリア初演
4手ピアノのためのオリジナル版(1913年)
振付:ウヴェ・ショルツ(ジョヴァンニ・ディ・パルマによる復元)
出演:ダヴィデ・ダト
ピアノ演奏:Beatrice Rana, Massimo Spada

ネルヴィ音楽バレエフェスティバル公式サイト
https://nervimusicballetfestival.it

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