ジャック・ダンボワーズ(元NYCBプリンシパル)の逝去に堀内元が惜別の言葉。ソフィア・コッポラ監督によるNYCBの映像配信情報

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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photo/NDI Photo Archive

ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)設立初期より長年に渡って活躍したスター・ダンサー、ジャック・ダンボワーズ Jacques d'Amboise(1934〜2021)が5月2日ニューヨークの自宅で亡くなった。享年86歳。
ダンボワーズの才能に惚れ込んだバランシンが彼のために創作した作品は、『スターズ・アンド・ストライプス』(1958)『ジュエルズ』(1967)『フー・ケアーズ?』(1970)など24にも及ぶ。『アポロ』の初演(1928/パリ)は、バレエ・リュスではセルジュ・リファール、ニューヨーク・シティ・バレエの初演(1951)はアンドレ・エグレフスキーだった。しかし、1984年50歳の誕生日を迎える数か月前にダンボワーズが演じたアポロは史上最高の舞台と評価されている(Roslin Sulcas; ニューヨーク・タイムズ)。そしてその年にダンボワーズは現役を引退している。

スクール・オブ・アメリカン留学時にバランシンに才能を見出され、1982年、ニューヨーク・シティ・バレエに入団した堀内元が、ダンボワーズの思い出についてDance Cubeにメッセージを寄せてくださった。
「ダンボワさんは、私が1982年にニューヨーク・シティ・バレエに入団した際には、まだ現役でプリンシパル・ダンサーとして活躍されていました。もう既に48歳でしたが、出演された作品の彼の踊りはとてもエネルギッシュでした。特にバランシンの " Who Cares ? " は、3人のバレリーナを相手にそれぞれパ・ド・ドゥを踊るのですが、年齢を感じさせない素晴らしい踊りを披露し、当時、ニューヨーク・シティ・バレエの歴史もあまり知らなかった自分は、彼に対しての観客の大声援に圧倒されました。
また、毎日のバレエクラスのバーレッスンでは、両足にアンクル・ウエートを巻き付けてレッスンをするなど、人一倍の努力をなさるダンサーでした。人間性も素晴らしく、私のような入団したばかりのダンサーにも笑顔で応対してくださいました。そして1983年に現役を退いた際も、派手な引退公演や新聞発表もなく静かに去って行かれました。その姿には、彼が周囲を常にお考えになるという人柄が感じられました。
2011年と2013年にはセントルイスを訪れられて、息子さんで、やはり元ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルのクリストファー・ダンボワさんが、セントルイス・バレエ団に振付けた作品をご覧戴きました。
心よりご冥福をお祈りいたします。」
堀内元(セントルイス・バレエ芸術監督、元ニューヨーク・シティ・バレエ プリンシパル)

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ジャック・ダンボワーズはアイルランド系で電信技手の父アンドリュー・アハーンとフランス系カナダ人の母ジョルジェット・ダンボワーズの第4子として、マサチューセッツ州デッドハムに生まれる。一家でニューヨークのマンハッタンの移民が多く集まるワシントン・ハイツに移住。7歳の頃、母が彼を姉が習っていたバレエ・クラスに入れる。そのバレエ学校の教師はすぐにジャックのダンスの才能を見出し、8歳の時にバランシンが設立したスクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)に入学。1946年、12歳の時、母の意向で名字を母の旧姓「ダンボワーズ d'Amboise」と改名。「ド "de"」がつくのはフランスの貴族のようでバレエにふさわしいからという理由だった(ダンボワーズ自伝『 I Was a Dancer』)。1949年、15歳でニューヨーク・シティ・バレエに入団。19歳でプリンシパルとなる。映画界にも進出し、『略奪された7人の花嫁』(1954)『回転木馬』(1956)などに出演した。ブロードウェイ・ミュージカル『シンボーン・アレイ Shinbone Alley』(1957)にも出演した。
「ダンボワーズは、フレッド・アステアのさりげない優雅さとクラシック・バレエにのダンスール・ノーブルの品格を合わせ持つアメリカン・スタイルの理想を体現した。スクール・オブ・アメリカン・バレエから生まれた最初の男性スター・ダンサーで、NYCB設立以来の数十年間にはそのアイデンティティーの中心的存在だった」とニューヨーク・タイムズは彼のスター性を総括している。
1976年にダンボワーズはNational Dance Institute(NDI:ナショナル・ダンス・インスティテュート)を設立した。ダンボワーズ自身が「家を一歩出れば、ギャングたちが通りを徘徊しているような環境で育った私が、バレエという芸術に出会ったことから人生が一変した。子どもたちにはとにかくアートに触れてほしい」と学校設立の想いを語っている(『I Was a Dancer』)。設立から42年間に開発されてきたNDIプログラムは世界中の200万人を越える子供たちが受講した。ダンボワーズのNDIの活動を記録したドキュメンタリー映画『He Makes Me Feel Like Dancin'』(1983)はアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー映画賞に輝いた。ダンボワーズはNYCBへ17の振付作品を残しており、また自身の学校NDIへも多くの作品を創作した。

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photo/NDI Photo Archive

ソフィア・コッポラ監督の NYCB「2021スプリング・ガラ」映像
2021年5月21日(金)日本時間午前8:59まで公開/32分
https://www.nycballet.com/season-and-tickets/digital-season/
ニューヨーク・シティ・バレエは2021年9月21日に劇場公演を再開すると発表しているが、2021年6月までは「デジタル・シーズン」として過去の収録映像を中心にオンライン上演している。そのなかで「2021スプリング・ガラ」をソフィア・コッポラが監督した映像が5月6日から2週間、NYCBの公式サイトおよびYouTubeチャンネルにて無料公開されている。
「スプリング・ガラ 」は、ジャスティン・ペック世界初演作品『Solo ソロ』のほか、バランシンの三作品(『デュオ・コンチェルト』『Liebeslieder Walzer (ワルツ集「愛の歌」)』『ディヴェルティメント No.15』)の抜粋とジェローム・ロビンズ『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』の抜粋というプログラム。デヴィッド・H・コーク劇場のレッスン室やロビー、舞台など様々なロケーションで撮影されている。1年以上も舞台公演がなかったNYCBのダンサーたちの高揚感に溢れた表情も映し出されている。

「2021 スプリング・ガラ Spring Gala」プログラム
『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』(抜粋)
音楽:ショパン/振付:ジェローム・ロビンズ/出演:ゴンザロ・ガルシア/この作品は舞台照明デザインの先駆者的存在でロビンズの作品に貢献し、初演直前に逝去した ジーン・ローゼンソールに捧げられている。
『デュオ・コンチェルタント』
音楽:ストラヴィンスキー/振付:ジョージ・バランシン/出演:アシュリー・ボーダー、ラッセル・ジャンセン
『Liebeslieder Walzer (ワルツ集「愛の歌」)』(抜粋)
音楽:ブラームスOp.52/振付:ジョージ・バランシン/出演:マリア・コウロスキー、アスク・ラ・クール
『SOLO (ソロ)』世界初演
音楽:サミュエル・バーバー『弦楽のためのアダージョ』/振付:ジャスティン・ペック/出演:アンソニー・ハクスリー
『ディヴェルティメント No.15』(フィナーレ)
音楽:モーツァルト/振付:ジョージ・バランシン/出演:エミリー・ゲリティ、ローレン・キング、アシュリー・ララシー、タイラー・ペック、ユニティ・フェラン、ダニエル・アップルバウム、アンドリュー・スコーダート、アンドリュー・ヴェイエット
監督:ソフィア・コッポラ
撮影監督:フィリップ・ル・スール
映像コンセプト:ジャスティン・ペック、ソフィア・コッポラ
後援:シャネル

NYCB 2021デジタル・シーズン
ジョージ・バランシン『ウィンナー・ワルツ』オンライン配信
2021年6月3日〜6月17日(日本時間6月18日午前8:59まで)
2013年収録/45分
https://www.nycballet.com/season-and-tickets/digital-season-info/vienna-waltzes/

バランシンがヨハン・シュトラウス二世、レハール、リヒャルト・シュトラウスのワルツをもとに1977年に創作。ウィーンの奥深い森の中の宮廷の舞踏会、ミラーボールが煌めく1930年代のカフェへと舞台は移り変わっていく。総勢50名ものダンサーたちが出演する。1977年の初演では、ジョルジュ・ドン、スザンヌ・ファレル、ピーター・マーティンス、パトリシア・マクブライド、ヘルギ・トマソン、ケイ・マッツォなどが出演した。
音楽:『ウィーンの森の物語』作品325、『春の声』作品410、『爆発ポルカ』作品43 ヨハン・シュトラウス2世、『ワルツ《金と銀》』フランツ・レハール、『薔薇の騎士』よりワルツ第1番 リヒャルト・シュトラウス
主要キャスト:レベッカ・クローン、タイラー・アングル、メーガン・フェアチャイルド、アンソニー・ハクスリー、ショーン・スオッツィ、テレサ・ライシュレン、アスク・ラ・クール、マリア・コウロスキー、ジャレッド・アングル

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