ニネット・ド・ヴァロワ初期の幻の振付を英国ロイヤル・バレエスクールが復元上演、ライブ配信する
- ワールドレポート
- ワールドレポート(その他)
掲載
ワールドレポート/その他
香月 圭 text by Kei Kazuki
英国ロイヤル・バレエスクールは、学校創始者であるニネット・ド・ヴァロワの1925年作の幻のバレエ『Arts of the Theatre(演劇の芸術)』を復元上演してライブ配信する。出演するのは、アッパースクールの生徒たち。
『Arts of Theatre』は音楽、絵画、舞踊、そして喜劇と悲劇という5種類の舞台芸術が擬人化されて登場する実験的小品(12分)である。音楽はモーリス・ラヴェルが19世紀ウィーンの宮廷舞踏会でのワルツ・シーンを想起して創作した管弦楽のための舞踏詩『ラ・ヴァルス』のピアノ・ヴァージョンを使用。この音楽はもともとディアギレフ自身がラヴェルに音楽を委嘱し、1919年〜1920年頃書き上げられた作品とされるが、ディアギレフはこれを却下し、それ以来、両者の間には深い亀裂が生じたと伝えられる。
ニネット・ド・ヴァロワ "Ninette de Valois" by Rob C. Croes / National Archives of the Netherlands /Anefo
『Arts of the Theatre』が創作されたとする1925年当時、ニネット・ド・ヴァロワはセルゲイ・ディアギレフ率いるバレエ・リュスの団員として数々の舞台に出演していた。その時代のバレエ・リュスは、ディアギレフによって解雇されたレオニード・マシーンが一時的に復帰し、首席振付家的存在だったブロニスラヴァ・ニジンスカは退団、ジョージ・バランシンが入団するなど、団員構成が目まぐるしく変化していた。ド・ヴァロワはニジンスカの『牝鹿』『青汽車』などに出演する一方で、まだ年少だったアリシア・マルコワの先輩として彼女の相談役でもあった。
ロイヤル・バレエスクール特別所蔵品管理を担当するアンナ・ミードモアはこう語る「ド・ヴァロワの若き日の創作を分析すると、芸術的理想と創造的なビジョンが表れている。彼女の作品の復元によって、ディアギレフのバレエ・リュスから離脱し、そのわずか7ヶ月後の1926年3月に、英国ロイヤル・バレエスクールの前身となる学校を設立するまでの重要な時期における興味深い新たな考察が得られることでしょう」。ド・ヴァロワはバレエ・リュス在籍中、祖国イギリスのバレエ団・学校運営を視野に入れながら、ニジンスカやバランシンなどの作品から振付を学び、ディアギレフからは経営のノウハウを貪欲に吸収していったと思われる。
『Arts of the Theatre』には、ニネット・ド・ヴァロワとウルスラ・モレトン Ursula Moreton(1903〜1973)は共にオリジナル・キャストとして出演している。モレトンは英国出身のダンサーでエンリコ・チェケッティに師事し、1920年、17歳のとき、バレエ・リュスの花形プリマ・バレリーナだったタマラ・カルサーヴィナを描いた演劇『The Truth about the Russian Dancers(ロシアのダンサーについての真実)』(『ピーター・パン』の作者ジェームズ・M・バリーによる戯曲)に出演し、デビューした。モレトンはド・ヴァロワのアシスタントを長期間務めている。また講演やデモンストレーションなどにも熱心で、1940年代、RAD(ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス)のプロダクション・クラブなどでも講演を行っている。
この作品復元プロジェクトは、英国ロイヤル・バレエスクールの所蔵品のなかからニネット・ド・ヴァロワ『Arts of the Theatre』のリハーサル・ノートが発見されたことに端を発する。このノートは当時のド・ヴァロワのアシスタントだったモレトン の記したもの。アンナ・ミードモアの指導により、アッパースクールの生徒たちもこの歴史的事業に参加することとなった。この作品復元の経過は英国ロイヤル・バレエスクール最終学年の学士論文にも著される予定だ。英国ロイヤル・バレエスクールでは2017年より学士取得コースも始動した。様々な過去の歴史的事柄について生徒たちが調査・探求し、その結果を論文・レポートなどの記録として残していく生産的なシステムが確立しており、生徒たちも調査・研究の成果を論文で著すことによってクラシック・バレエの学位を取得し、将来のキャリアに生かしていくことができる。
『Arts of Theatre』ライブ配信公演の冒頭では、英国ロイヤル・バレエスクール芸術監督クリストファー・パウニーが冒頭に挨拶を行い、作品上演後はアンナ・ミードモアが本品の歴史と復元について解説する。出演ダンサーたちを交えた質疑応答も行われる。
◆英国ロイヤル・バレエスクール『Arts of Theatre(演劇の芸術)』ライブ配信
2021年5月12日 日本時間深夜2時〜3時半
Zoomにてライブ配信
視聴料:大人10ポンド(約1,500円)、学生5ポンド(約750円)
申込締切:日本時間 2021年5月5日午後7時
https://royalballetschool.org.uk/discover/arts-of-the-theatre-1925/
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。