セルゲイ・ポルーニン出演の『シンプルな情熱』がまもなく全国ロードショー

ワールドレポート/その他

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

セルゲイ・ポルーニンが主演して話題となっている映画『シンプルな情熱』の試写を見ることができた。ポルーニンは、周知のように英国ロイヤル・バレエ団史上最年少のプリンシパルに昇進を果たしたが、そのわずか二年後の人気沸騰時に突然退団し、BBCなどが世界中にニュースを流した。またタトゥーを入れたダンサーとしても話題を集めた。その後はYouTubeにアップしたダンスの動画が2000万回を超える再生回数を記録し、全身のタトゥーやドラッグを使うシーンもある自身のドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン世界一優雅な野獣』が公開されて大いに評判となった。

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『シンプルな情熱』は、ノーベル文学賞の候補にも挙げられたフランスの作家アニー・エルノーが1992年に刊行してベストセラーとなった、同名の小説を映画化したもの。監督はこの小説をいつも「ポケットに入れていた」というベイルート出身のダニエル・アービット。初の長編劇映画『戦場の中で』や'07年の『ファインダーの中の欲望』では、カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、今回の『シンプルな情熱』は公式作品となった。
主演はレティシア・ドッシュとセルゲイ・ポルーニンで、ドッシュはパリ生まれでリュミエール賞有望女優賞を受賞している実力派。
ドッシュ扮するエレーヌは、離婚して息子を育てながらパリの大学で文学を教えている。あるパーティでロシア大使館に勤める既婚者で年下の、ポルーニン扮するアレクサンドルと出逢いたちまち恋に陥る。以来、彼の電話に呼び出され、逢瀬を重ねるうちにさらに深くのめり込んでいく。しかし、頼りにしているのは気まぐれに鳴る携帯電話の呼び出し音のみ。自ら口を開くことの少ないアレクサンドルは、大使館の警備関係の仕事のこと、全身のタトゥーのこと、モスクワの住まいのこと、少年時代のことなどを愛を重ねながら断片的に語るだけだ。そして高速道路を車を飛ばしてやってきて「こんなに感じるのは君だけだ」と呟く。趣味も考え方もエレーヌとはクロスするところはないのだが、彼女はそんな男の「中毒」になっていく。しかし、やがてアレクサンドルの電話も途絶えがちとなり、約束のホテルにも来なかったりする・・・。

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「昨年の九月以降、私は、ある男性を待つこと以外、何ひとつしなくなった」と回想するエレーヌの<シンプルな情熱>が、美しいパリのリアルな情景の中、ジルベール・べコー、ヘレン・メリル、リンダ・フォーゲル、イングリット・カーヘンなどの歌とともに、満ち溢れる恋する情感としてスクリーンに浮かび上がってくる。確かに、愛の存在を確かめることが愛なのだ、というメッセージが込められているかのような映画だった。
ミステリアスな雰囲気に包まれたしなやかな身体のアレクサンドルを、ポルーニンは彼ならではの不思議な吸引力を生かして、実に印象的に演じている。「冷たい湖水のような瞳」と評されているが、私は彼の瞳の奥には、いつも少年ポルーニンが棲んでいて、こちらをじっと見つめているような気がしてならない。
残念ながらポルーニンがダンスを披露するシーンはないが、二つの肉体と魂が溶け合うような濃密なラブシーンはたっぷりとある。

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『シンプルな情熱』7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

2020 年カンヌ国際映画祭 公式選出作品/2020 年サン・セバスティアン国際映画祭 コンペティション部門出品
原作:アニー・エルノー『シンプルな情熱』(ハヤカワ文庫/訳:堀茂樹)
監督:ダニエル・アービッド
©2019L.FP.LesFilmsPelléas-Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction
原題:Passion simple/フランス・ベルギー/フランス語/英語/2020/99 分/R18+/ヴィスタ/5・1ch/日本語字幕:古田由紀子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:テレザ

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