「マシュー・ボーンinシネマ『赤い靴』」をめぐるM.ボーンと友谷真実の会話から

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

マシュー・ボーン振付『赤い靴』の映画の全国公開に先駆けて、マシュー・ボーンのトークイベントがオンラインで行われた。モデレーターは、Dance Cubeで「私の踊りある記」を連載中の友谷真実。マシュー・ボーンはロンドンから参加した。
友谷は英国のマシュー・ボーンのカンパニーに日本人として初めて入団し、『くるみ割り人形』のクララをはじめ『エドワード・シザーハンズ』『白鳥の湖』ほか多くの作品を踊り、『ドリアン・グレイ』日本公演ではリハーサルアシスタントも務めた。その後、ダンサー、振付家としてニューヨークなどで活動しながらたびたび、マシュー・ボーン作品のワークショップでも指導にあたっている。
今回はオンラインだが、二人が顔を合わせるのは昨年2月のニューヨーク、シティセンターで行われたニュー・アドヴェンチャーズのワークショップ以来だと言う。

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©Hugo Glendinning

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"Sir. Mr. Matthew Boume" との呼びかけから、このオンライン・トークは始まり、マシュー・ボーンは長年の友人のMamiを労い、旧交を温めた。
そしてまずは、マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー監督による1948年公開のモイラ・シアラー主演の映画『赤い靴』についてのトークから始まった。
マシュー・ボーンは「ティーンエイジャーの時に『赤い靴』を見ましたが、この映画は長い間、私の心に残っていました。それは私のバレエとの最初の出会いだったのです」「この映画『赤い靴』を題材に選んだのは、ストーリーがドラマティックであり、カンパニーの主宰者のレルモントフ、プリマバレリーナのヴィッキー、新進作曲家のジュリアンの関係とその展開が大変おもしろかったこと。そして情熱と自分の求めるもの、それに対しては犠牲が必要であるということ、そう言った物語性が強かったのでこの題材を選びました」と語った。

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提供:ミモザフィルムズ

次に20年ぶりにニュー・アドヴェンチャーズに戻ってきたアダム・クーパーについては、「アダム・クーパーは素晴らしいアーティストです。彼は『赤い靴』のプレミアを観に来てくれました。そして『レルモントフの役がいいな、僕も演じたいな』とさりげなく言ってました。彼はカンパニーにとってもヒーローですし、名優ですので、早速、出演してもらうことにしました」と出演の経緯を明かした。
また、今回の『赤い靴』の音楽にバーナード・ハーマンの映画音楽を使ったことは「ヒッチコックの映画音楽を担当したハーマンの音楽はドラマティックでエキサイティング、そしてデンジャラスな雰囲気を持った音楽。様々なヴァラエティに富んだ場面の曲があります。私の『赤い靴』では、劇中のバレエだけでなく、いろいろなストーリーテリングのシーンや感情表現もすべてダンスで表現しています。また、レッスンのシーンもありますし、水着を着たビーチバレエのようなシーンもありますので、あらゆるシーンに対応できる音楽が必要でした」と語り、さらにマシュー・ボーンの『赤い靴』のためにハーマンの楽曲を編成し、追加作曲、オーケストレーションを担当したテリー・デイヴィスの仕事などについても言及している。

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Photo by Johan Persson

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Photo by Johan Persson

友谷は音楽について質問し語ることが多かった。特にハーマンの音楽の使い方では、劇中のバレエ『赤い靴』を創っていくところで、レルモントフに扮したアダム・クーパーが赤い靴を持って立っているシーンの音楽は、実に素晴らしく「鳥肌がたった!」とジェスチャーを示しつつ日本語で語った。すると、そのボディランゲージを観ただけでマシュー・ボーンはすべてを理解して大いに喜んでいた。すかさず友谷は「こういう身体表現はマシュー・ボーンのカンパニーで身につけました」と言う。さすがに多くのボーン作品の舞台を創ってきた同士の会話は違うもだ、と実感させられた。
そのほかにもニュー・アドヴェンチャーズのツアーこと、素敵なデュエットが踊られていたこと、マシュー・ボーンは『赤い靴』のレルモントフと同じような立場に立つこともあるのではないか? などなど興味深い会話がなされているので、見逃された方は https://youtu.be/Vp6Xg6Ky8AU を。

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Photo by Johan Persson

そしてオンラインのトークイベントから一夜明けて、カンパニーのダンサーとしてとはまた異なった立場からマシュー・ボーンと会話を交わした友谷真実に、その感想を聞いてみた。
まず、第1声は「オンラインでのトークは初めてだったので、とにかく緊張しました」と。しかし、会話を続けていると、マシュー・ボーンの「リラックスした時こそ、その人の一番いいものが出せる」という考えが、カンパニー全体に浸透していたことを思い出した。だからニュー・アドヴェンチャーズのオーディションを受けるダンサーたちは、しばしば「こんな楽しい雰囲気のカンパニーなら、ぜひ入団したい」、と言っていた。また、ニュー・アドヴェンチャーズのリハーサルには、いつも<ノート>と言う時間があったが、その時、マシュー・ボーンがダンサーたち語りかける言葉は、決して難しい芸術的な語彙を使うわけではなく、常に分かりやすく、具体的に様々なことを語っていた。さらにマシュー・ボーンはいつもオープン・マインドだったし、スタッフたちのアイディアをよく聞いていた。実際に彼らの提案を元に、ツアーによる公演を行う地域のワークショップに参加した子供たちを舞台に立たせ、<ビリー・エリオット>を見つけようとする試みも行なうなど、彼らのアイディアを実現させたこともあった、と言う。
そして最後に、今は世界中に新型コロナの感染が拡大して、非常に厳しい状況にあり、ダンサーとしてまさに花開いている人たちが踊ることができないし、現役ダンサーとして最後の舞台で観客に別れを告げたい人たちさえも舞台に立つことができない。そういう時期に、映画となって映像として舞台に立つ姿を残すことができる、ということは本当に素晴らしいことだと思った、と語っていた。

『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』

2021年2月11日(木・祝)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー!
公式サイト https://mb-redshoes.com/
提供:MORE2SCREEN 配給:ミモザフィルムズ 配給・宣伝協力:dbi inc.

予告編

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