ローレンス・オリヴィエ賞2020年の授賞式はオンライン開催となった

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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左よりカミラ妃、ドン・ブラック、アンドリュー・ロイド・ウェバー:Olivier Awards 2020 with Mastercard (Photo- Aemelia Taylor, SOLT)

英国の演劇・ミュージカル・ダンスの過去1年間の功績をふりかえるローレンス・オリヴィエ賞。2020年度の授賞式が10月26日(日本時間)、英国ITV(Independent Television)にて英国内にて放映、また授賞式の一部はYouTubeにて全世界に配信された。
2019年2月20日〜2020年2月18日の期間に上演された作品を対象とした今年度のノミネートは3月3日に発表され、授賞式は当初ロイヤル・アルバート・ホールにで4月5日に開催が予定されていたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け延期されていた。結局、今年の授賞式は半年後、ロンドン・パレイディアムで事前に無観客で収録して放映するという形式となった。司会は昨年に続いてコメディアンのジェイムズ・マンフォードが務め、ごく少数の受賞ゲストが登壇、受賞パフォーマンスを行ったが、多くの受賞者たちは自宅などからオンラインで受賞コメントを寄せるという形式でセレモニーは進行された。

 

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サラ・バラス © Sofia Wittert

最優秀演劇振付家部門では、マシュー・ボーンとスティーヴン・ミアがミュージカル『メリー・ポピンズ』の振付により受賞した。マシュー・ボーンにとっては9回目の受賞となり、個人では過去最多受賞記録となった。この作品は最優秀舞台デザイン賞も受賞している。
最優秀新作ダンスはバレエ・ブラック在籍のムテュテュゼリ・ノヴェンバー振付『Ingoma(インゴマ)』が受賞した。この作品タイトルは南アフリカの言語であり公用語のひとつであるコサ語で「歌」という意味。画家そしてミュージシャンでもあった南アメリカ生まれのジェラルド・セコトによる『Song of the Pick(採掘の歌)』という絵画、そして南アフリカで起きた黒人炭鉱夫たちによる1946年のストライキ(6万人規模)と2012年のストライキに想を得たもの。南ア出身のノヴェンバーは同郷の作曲家ピーター・ジョンソンと緊密に連携し、人々が様々な環境で苦悩しながらも人間を前進させていくものを表現しているという。バレエ・ブラックは黒人ダンサーが大多数を占めるが、日本人のシニア・アーティスト、イチカワ・サヤカが在籍し、この作品にも出演している。振付けたノヴェンバーはイチカワについて「黒人になりきろうとするのではなく、日本人としての自己表現を期待する」と述べている。
「ダンスにおける傑出した功績」部門では映画『J:ビヨンド・フラメンコ』などで知られる世界的に活躍するフラメンコ・ダンサー、サラ・バラスがバレエ・フラメンコ作品『Sombras(ソンブラス)』の振付および演技の卓越性によって受賞となった。

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オリヴィエ賞特別賞を授与されたイアン・マッケラン:Olivier Awards 2020 with Mastercard (Photo-Aemelia Taylor, SOLT)

映画・演劇で長年活躍してきた名優イアン・マッケランは、英国中の80か所以上にも及ぶ劇場で観客を80人に限定した「80歳バースデー・ツアー」を行い、その功績に対して特別賞が贈られた。オリヴィエ賞では7回目の受賞となる。「80歳で祝うものなど何もないよ。代わりにロンドンを抜け出して私が見つからないようなところに出かけたら...と考えたんだ」とマッケランはこのツアーのきっかけについて語った。上演後ロビーで英国演劇界を救うための寄付を募ったところ合計160万ポンド(日本円で約2億1800万円)もの募金が集まったという。
またスパイ映画「007」シリーズの主題歌などで知られる作詞家ドン・ブラックには英国王室のカミラ妃、作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーから演劇界への長年の功績に対して特別賞が授与された。ミュージカル『アスペクツ・オブ・ラブ』で共作したロイド・ウェバーは「心に響く歌詞を書ける作詞家はそれほどいない。彼はその数少ない一人だ」と評した。カミラ妃は「演劇の力を信じている私たちは、このコロナ禍を乗り切ることができるとも信じています」と演劇界へエールを送った。
新型コロナウィルス感染拡大を忌避すべく実施されたロックダウンの期間中は、英国国内のすべての劇場が閉鎖されたため、今年3月以降の公演数が激減した。そのため2020年2月〜2021年2月の上演作品が対象となる来年度のオリヴィエ賞については、授賞式の代わりに何らかの形で総括されることとなり、次回の授賞式は2022年に行われるとロンドン演劇協会は発表している。

《2020年ローレンス・オリヴィエ賞結果(舞踊部門)》

(◎印が受賞、その他はノミネート)
【最優秀新作ダンス】
・『La Fiesta(ラ・フィエスタ)』イスラエル・ガルヴァン(サドラーズ・ウェルズ)
◎『Ingoma(インゴマ)』ムテュテュゼリ・ノヴェンバー、バレエ・ブラックのための制作(バービカン・シアター、ロイヤル・オペラ・ハウス、リンベリー・シアター)
・『MÁM(マム)』マイケル・キーガン=ドラン、Teaċ Daṁsaのための制作(サドラーズ・ウェルズ)
・『Vessel(ヴェッセル)』ダミアン・ジャレ&名和晃平(サドラーズ・ウェルズ)』

【ダンスにおける傑出した功績】
◎サラ・バラス:バレエ・フラメンコ作品『Sombras(ソンブラス)』における振付および演技に対して(サドラーズ・ウェルズ)
・アンヌ・テレサ・ド・ケースマイケル:『我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲』における振付および演技に対して(サドラーズ・ウェルズ)
・ジゼル・ヴィエンヌ:サドラーズ・ウェルズでの『Crowd(クラウド)』の振付に対して(ダンス・アンブレラ提供、サドラーズ・ウェルズ)

【最優秀演劇振付家】
・ファビアン・アロイーズ『エビータ』(リージェント・パーク野外劇場)
◎マシュー・ボーンおよびスティーヴン・ミア『メリー・ポピンズ』(プリンス・エドワード・シアター)
・ジェローム・ロビンズおよびマット・コール『屋根の上のヴァイオリン弾き』(プレイハウス・シアター)
・ジェニファー・ウェバー『&Juliet(アンド・ジュリエット)』(シャフツベリー・シアター)

◆ローレンス・オリヴィエ賞公式サイト
https://officiallondontheatre.com/olivier-awards/year/olivier-awards-2020/

今年のローレンス・オリヴィエ賞受賞記念としてノエル・カワードの傑作コメディ『プレゼント・ラフター』とエドモン・ロスタンの名作『シラノ・ド・ベルジュラック』がNT Liveにて特別上映される。シェイクスピアを生んだ演劇王国、イギリスのナショナル・シアターが厳選した傑作舞台を臨場感溢れるカメラワークで収録した映像は、異次元の感動へと観客を誘ってくれるだろう。

◇2020年11月8日(日)12:30開映 TOHOシネマズ 日本橋
『プレゼント・ラフター』
ノエル・カワード作
主演男優賞:アンドリュー・スコット
助演女優賞:インディラ・ヴァルマ
◇2020年11月26日(木)19:00開映 TOHOシネマズ 日本橋
『シラノ・ド・ベルジュラック』
エドモン・ロスタン作
最優秀リバイバル賞
(主演のジェイムズ・マカヴォイは最優秀男優部門で、最優秀監督部門でジェイミー・ロイドがノミネートされている)
◇NTLive日本公式HP:https://www.ntlive.jp/

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『プレゼント・ラフター』左よりアンドリュー・スコット、インディラ・ヴァルマ:NTL 2019 Present Laughter - Photograph by Manuel Harlan

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『シラノ・ド・ベルジュラック』ジェイムズ・マカヴォイ:NTL 2020 Cyrano de Bergerac - James McAvoy. Photography by Marc Brenner

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