ローザンヌ国際バレエコンクール2020でトップ受賞し、英国ロイヤル・バレエに入団したマルコ・マシャーリに聞く

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020『眠れる森の美女』PDL2020 © Gregory Batardon

――第48回ローザンヌ国際バレエコンクール2020に参加された経緯を教えてください。

マシャーリ 学校(プリンセス・グレース・アカデミー)の校長先生(ルカ・マサラ)によって選ばれました。校長先生からはバレエ界の荒波に飛び込んでそこから多くのことを学び、自分が持っていた恐れや不安を克服してほしいと言われました。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020授賞式にて PDL2020©Rodrigo_Buas

――『眠れる森の美女』のデジレ王子のヴァリエーションを選んだ経緯を教えてください。またコンクールではニコラ・ル・リッシュ先生のコーチを受けられましたがいかがでしたか。

マシャーリ 校長先生とクラシックの先生が協議してヴァリエーションが決まりました。純粋なクラシック・スタイルとは何か、またこの王子はどのような気持ちなのかといったことを追求していきました。ずっと憧れてきたル・リッシュ先生のように豊富な経験と知識をもった素晴らしいダンサーの方に指導していただいたことはかけがえのない経験で、このような素晴らしい機会をいただいてとても光栄に思っています。

――コンテンポラリーではウェイン・マクレガーの『クローマ』を選択されました。この作品についてどのように準備を進めてきましたか。またコンクール会期中に受けたアントワーヌ・ヴェルレッケン先生によるコーチングの感想についても教えてください。

マシャーリ コンテンポラリーの先生と校長先生の協議によりこのヴァリエーションが僕のために選ばれました。「とても美しく激しい身体の散文」といえます。学校ではコーチとこの独特のスタイルに合わせようと努めましたが、最終的には何とか自分のものにすることができたのではないかと思います。このヴァリエーションを舞台で踊るのはとても楽しかったです。音楽も大好きでした。この作品が大好きだったので、すべてがスムーズにでき、より楽しむ余裕がありました。ヴェルレッケン先生のご指導も素晴らしかったです。先生と僕とで常に何かを与え合い、何かを受け取るといった関係ができていたと感じています。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020にてニコラ・ル・リッシュと PDL2020©Rodrigo_Buas

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020クラシック・クラス PDL2020©Gregory _Batardon

――パトリック・アルマン先生のクラシック・クラスとアーマンド・ブラズウェル先生のコンテンポラリー・クラスを受けた感想はいかがですか。

マシャーリ アルマン先生は偉大な教師で、コンクールの期間中、彼のクラスを受けられてとても良かったです。彼は非常に気配りが行き届いてコンビネーションはすべてよく考えられたものでした。僕たちには本当に優しく接してくださって、特に撮影カメラや審査員がいるときに僕たちの緊張を解きほぐしてくださいました。先生のクラスはとても楽しくて先生のおかげでたくさんのことを学びました。ブラズウェル先生のワークショップはとても面白かったです。先生のコンビネーションを踊るのがとても楽しかったです。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020『クローマ』PDL2020©Gregory _Batardon

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020コンテンポラリー・クラス PDL2020©Gregory _Batardon

――プリンセス・グレース・アカデミーの同級生 山田ことみさんはマルコさんと一緒にローザンヌ国際バレエコンクール2020に出場されましたが、途中で足を負傷して残念ながら棄権となりました。そんな彼女に対してあなたは授賞式で「ことみ、このメダルは僕たちのものだよ」と呼びかけ、会場は感動に包まれました。彼女との思い出を教えてください。

マシャーリ 彼女は間違いなく素晴らしいダンサーで僕たちは親友同士です。同じ過程を一緒に過ごして、いつも互いに支え合い、励まし合ってきたので、彼女が爪先を怪我してコンクールを棄権せざるを得ない状況になってしまったときには僕もとてもショックでした。彼女は懸命に練習を重ね、決選に進んで入賞してしかるべき人でした。入賞は逃したものの、努力が実って彼女はアメリカン・バレエ・シアター・スタジオ・カンパニーと契約しました。彼女のことを誇りに思います。

――将来ローザンヌ国際バレエコンクールを目指す皆さんにアドバイスをお願いします。

マシャーリ ただひとつ言えることはローザンヌにいる間、特にクラスでもベストを尽くしてほしいと思います。そしてできるだけ楽しんですべての先生方やコーチからもなるべく多くのことを吸収してください。コンクールに参加することはとてもストレスが溜まりがちですが、自分が一番好きなことをやっているのだと思って、その思いを見せてください!

――2019年ローザンヌ国際バレエコンクールで振付プロジェクトに参加されていましたね。ディディ・ヴェルドマンの作品を踊られましたが、創作プロセスに加わったご感想はいかですか。

マシャーリ とてもいい経験でした。ローザンヌ国際バレエコンクールに参加したのはそのときが初めてだったのですが、コンクールに参加しているという緊張感は全くありませんでした。コンクール本選出場者や審査員の方たちと同じ会場にいられて幸せでした。様々なバレエ学校から来た人たちに出会い、素晴らしい先生方のクラスを受け、たった5日間でひとつの作品を振付けていき、それをそのまま舞台で演じました。非常に難しかったですがやりがいを感じ、今でも素晴らしい思い出のひとつとして覚えています。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2019振付プロジェクト PDL2019© Rodrigo Buas

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ローザンヌ国際バレエコンクール2019振付プロジェクト『Is to Be』PDL2019© Gregory Batardon

――バレエを始めたきっかけについて教えてください。

マシャーリ はじめはバレエがどういうものかもわかりませんでしたが、この職業を選んだというよりバレエという芸術が僕を選んでくれたといったほうがいいくらい、僕にとっては自然なことでした。生まれながらにして一生バレエをやっていきたいということはわかっていました。僕はいつも踊っていました。幼い頃の思い出も踊っていないときのことは覚えていないくらいです。そこで7歳のとき、母が自宅近くのダンス・スタジオに連れていってくれたのです。そのとき以来、バレエを止めることは決してありませんでした。

――プリンセス・グレース・アカデミーへ留学した理由をお教えください。

マシャーリ イタリア国内のコンクールでスカラシップをいただいたときに、この機会にプロのダンサーになるためにもっと真剣に学ぼうと決意したのです。

――2020年ローザンヌ国際バレエコンクールの動画を見ると、あなたはとても体が柔らかくてコンテンポラリーの動きに慣れているような印象を受けました。プリンセス・グレース・アカデミーではコンテンポラリーのクラスがたくさんあるのでしょうか。

マシャーリ 学校ではクラシックと同じくらいコンテンポラリーに重きを置いています。今、世界のバレエ・カンパニーでは何でもこなせるダンサーが求められているからです。

――モナコのモンテカルロ・バレエの舞台に立つ機会は多いのでしょうか。

マシャーリ 毎年6月の学年最後の学校公演に出演しています。

――学生のときジャン=クリストフ・マイヨ―の作品を練習したり舞台で踊ったりしたことはありますか。マイヨ―自身が学校で生徒たちに指導することもありますか。

マシャーリ 彼の作品のいくつかは学校のコンテンポラリーのレパートリーに入っているので、彼の名作の数々をいつも勉強していますし、舞台で踊ることもあります。学校の最終学年のとき、いくつかのガラ公演にて『ロミオとジュリエット』でデビューする機会があったのですが、僕のパートナーは美しいマッケンジー・ブラウン(2019年ローザンヌ国際バレエコンクール第一位)でした。マイヨーとベルニス・コピエテルスから指導を受ける機会があり、とても幸せでした。

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J-C.マイヨー版『ロミオとジュリエット』マッケンジー・ブラウンと Photo by Courtesy of Marco Masciari

――マッケンジーさんとの思い出を教えてください。

マシャーリ 僕たちは学校でほぼ4年間一緒だったのでたくさんの思い出があり、お互いから多くのことを学びました。彼女と舞台で踊る機会はたくさんありましたが、その中でも最高の思い出は先ほどお話しした天才ジャン=クリストフ・マイヨ―による『ロミオとジュリエット』のグラン・パ・ド・ドゥを彼女と踊ったことです。彼女とはとても仲がよくて、僕にとっては特別な人です。

――あなたの先輩にあたるシェイル・ワグマン(2018年ローザンヌ国際バレエコンクール第一位)との思い出はありますか。

マシャーリ プリンセス・グレース・アカデミーでの1年目は、彼は僕にとって最大の憧れの存在でした。彼とは非常に強い絆で結ばれていて、彼のところをよく訪れていい刺激を受けていました。彼はいつもたくさんのアドバイスを僕にくれてお互いに尊敬し合っていました。

――永久メイもあなたの先輩にあたりますが、学校で彼女と踊ったことはありますか。

マシャーリ 彼女とは学校で2年間一緒でしたが、僕が下級生のクラスにいるときには彼女はもう上級生のクラスでした。でも彼女とは仲良しで素敵な思い出があります。メイさんはとても優しい人で非常に親切でした。いつも困っている人に手を差し伸べていました。彼女を見ると僕も頑張ろうという気持ちになります。彼女がたどっているキャリアは本当にすごいと思います。

――ローザンヌ国際バレエコンクールでは2018年〜2020年プリンセス・グレース・アカデミー出身の参加者が3年連続トップ受賞していますが、その強さの秘訣は何でしょうか。

マシャーリ ローザンヌ国際バレエコンクールに出場した僕たち3人はそれぞれ全く異なる個性をもっています。プリンセス・グレース・アカデミー出身の参加者が3年連続トップ受賞した唯一の理由は、校長先生が才能ある生徒たち一人ひとりがもつ特別な個性を見抜く力があるからだと思います。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020ルカ・マサラと Photo by Courtesy of Marco Masciari

――ルカ・マサラ校長先生もあなたと同じイタリア南部のご出身なので、お二人には共通点が多いように思えます。校長先生との思い出をお聞かせください。

マシャーリ おっしゃるとおり、確かに僕たちは二人とも南イタリア生まれなので共通点はたくさんあります。でも最大の共通点は、先生も僕もバレエというこの美しい芸術に対して大いなる情熱を抱いているということです。だからこれからもずっとこのつながりは一生続いていくでしょう。先生との美しい思い出はたくさんあります......素晴らしい校長先生で、偉大なメンターでもあり、影響力のある人です。先生からは多くのことを学びました。先生が僕に教えていただいたことに対して、それから在学中、先生が僕に注いでくれたすべての愛情について、一生感謝を忘れることはないでしょう。

――プリンセス・グレース・アカデミーのクラスは新型コロナウィルス感染拡大期間中オンラインで行われたのでしょうか。

マシャーリ はい、僕たちはいつも学校で行っているとおりに勉強したりクラスを受けたりしました。プリンセス・グレース・アカデミーは僕たち生徒ひとりひとりと毎日連絡を取り、いつも宿題をくださったり、僕たちの創造性を追求し続けていくように、技術をもっと磨くようにとさえ励ましてくれました。この期間は本当の意味でのチャレンジでしたが、以前より強くなれたと思います。

――新型コロナウィルスの影響で学校の卒業公演が中止になって残念に思っているのではないでしょうか。

マシャーリ もちろん、学校で学年末を終えることができなかったこと、さらに僕たちの人生において重要な一章を締めくくる卒業式すらできなかったのは本当に悲しかったのですが、今回は特別だったのでしかたないですね。

――ロックダウンの期間はどのように過ごされていましたか。故郷に戻られてご家族とご一緒でしたか。

マシャーリ はい! 学校から毎日サポートしていただけたのは本当によかったです。でも故郷で家族と過ごすことができたのも嬉しかったです。留学中ずっと長いこと家族とは離れ離れでしたから、今回のように家族と一緒に過ごせたのは格別です。

――あなたの故郷はイタリアのどの地方でしょうか。

マシャーリ イタリア南部のカラブリア州のカタンザーロという小さくて簡素な街です。特別なものは何もないけれどイタリアのごく普通の街です。食べ物が美味しくてきれいな海岸があります(カラブリア州の州都であり、カタンザーロ県の県都でもあるカタンザーロは長靴の形をしたイタリアの地図でいうと、ブーツ本底の部分に位置する)。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2020アントワーヌ・ヴェルレッケンと PDL2020 © Gregory Batardon

――英国ロイヤル・バレエへの入団を選んだ理由をお教えください。

マシャーリ 英国ロイヤル・バレエはそのレパートリーの数の多さ、幅広さと大いなる歴史、それから美しい劇場をもちあわせた世界でも最も偉大で重要なバレエ・カンパニーのひとつだからです。

――英国ロイヤル・バレエのクラス・レッスンを受け始めたのはいつ頃からでしょうか。

マシャーリ 8月初旬にロンドンへ移動して新型コロナウィルス感染拡大防止のための対策を講じたのち英国ロイヤル・バレエのクラスに参加するようになりました。

――英国ロイヤル・バレエのクラスはいかがですか。マリアネラ・ヌニェスやワディム・ムンタギロフと同じクラスを受けていらっしゃるのでしょうか。

マシャーリ カンパニーのスターやダンサーの方々と一緒にクラスを受けることもあります。先輩たちから刺激を受けたくさんのことを学んでいます。ここでは皆がとても親切で困っている人には手を差し伸べることができる人たちが集まっています。素晴らしい雰囲気に満ちたこのカンパニーが大好きです。

――英国ロイヤル・バレエの2020/21シーズンへの出演は決まっているのでしょうか。そのリハーサルはもう始まっていますか。

マシャーリ 英国ロイヤル・オペラ・ハウスはカンパニーのメンバーやこの巨大な組織に関わる人すべてのために、また最終的には日常が戻り、舞台が再開して観客の方々に私たちの芸術を共有していただけるように全力を注いでいます。2020年3月16日の劇場閉鎖から7ヶ月後の10月10日、オープニング・ガラをオンラインでお披露目することができるようです。
※英国ロイヤル・オペラ・ハウス公式サイト、ロイヤル・バレエ Back on Stage
オンライン配信2020年10月10日〜11月9日
https://www.roh.org.uk/tickets-and-events/the-royal-ballet-back-on-stage-details

――ロンドンでの新しい生活はこれまでのモナコと比べていかがですか。

マシャーリ そうですね、モナコはコンパクトでとても豪華、それから非常に安全な街です。僕はその頂上のバレエ学校の中で暮らしていたので、いわば泡のなかにいたようなものです。ところがロンドンでは自己責任で決めなくてはいけないことが多い「本当の生活」に直面しています。現在は、かつて学校でやっていたようなモーニング・バレエ・クラスをいつも受けています。学校でのレッスンはプロになるという局面に備えてのトレーニングだったということができます。今はプロのダンサーになり、学生時代よりリハーサルや舞台が増えてくるという違いだけなのです。

――お休みの日には何をしていますか。あなたのインスタグラムでは美術館や公園の写真が投稿されているのを見かけます。

マシャーリ おっしゃるとおり、新しい場所を訪れて新しいことを発見するのが大好きです。自然が好きなので新鮮な空気に触れるべく公園に出かけて動物たちを観察します。こうしてリラックスしたり瞑想したりといった人間本来の感覚を取り戻すのです。美術にも興味があるので、美術館やギャラリーを訪れてインスピレーションを得たり、新たな発見をすることもあります。

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ロンドンにて Photo by Courtesy of Marco Masciari

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故郷カタンザーロにて Photo by Courtesy of Marco Masciari

――あなたのお気に入りのダンサー、もっとも崇拝するダンサーについて教えてください。

マシャーリ ルドルフ・ヌレエフやミハイル・バリシニコフ、ウラジーミル・ワシーリエフといった伝説のダンサーたち、過去の偉大なアーティストたちを見てインスピレーションを得ています。

――英国ロイヤル・バレエで将来どんな役を踊ってみたいですか。コンテンポラリー作品についてはいかがでしょうか。

マシャーリ サー・ケネス・マクミランが振付けた『マノン』のデ・グリューをいつか舞台で演じてみたいです。僕の生まれもった能力を考えるとコンテンポラリーのほうが踊りやすいということは言えるかもしれませんが、クラシックもコンテンポラリーもどちらも好きなので、いろんな役と出会い、できるだけ多くの経験をすることでつねに何か新しいことを学びたいと思っています。

――ご多忙のところ、たくさんの質問にお答えいただき、ありがとうございました。英国ロイヤル・バレエでの今後のご活躍を楽しみにしております。
(2020年9月メールによるインタビュー)

◆英国ロイヤル・オペラ・ハウス 公式サイト
https://www.roh.org.uk/

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