パリ・オペラ座バレエ団のバランシンによる『夏の夜の夢』の映像が急遽公開される!

ワールドレポート/その他

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新型コロナウイルス感染症対応の非常事態宣言の解除により、バレエの映像上映第1弾として、パリ・オペラ座バレエ団のバランシンによる『夏の夜の夢』の映像が、急遽公開されることになった。
ジョージ・バランシン振付、フェリクス・メンデルスゾーン音楽の『夏の夜の夢』は、1962年1月、ニューヨーク・シティ・バレエ団がニューヨークのシティ・センターで初演した。メンデルスゾーンの音楽は有名な「結婚行進曲」を含む劇伴音楽として作曲されたが、17歳の時に作曲したと言われる序曲を加えても全体をカバーすることはできななかった。バランシンは同じ作曲家の交響曲第9番ほかを加えて構成し振付けている。オベロンはエドワード・ヴィレラ、タイターニアはメリッサ・ハイデン、パックはアーサー・ミッチェルというキャストだった。

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© Paris Opera Ballet(全て)

今回、上映されるヴァージョンは前芸術監督バンジャンマン・ミルピエがパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーに推奨し、2017年にバスティーユ・オペラで上演された。クリスチャン・ラクロワが衣装と装置を担当し、衣装は初演のバーバラ・カリンスカのデザインを尊重して新たに制作している。今回公開される映像は2017年の舞台を収録したもの。
パリ・オペラ座バレエ団のキャストは、タイターニアはエレオノラ・アバニャート、オベロンはユーゴ・マルシャン、パックはエマニュエル・ティボー、ハーミアはレティシア・プジョル、ライサンダーはアレッシオ・カルボーネ、ヘレナはファニー・ゴルス、ディミトリウスはオドリック・べザール、ヒッポリタはアリス・ルナヴァン、テーセスはフロリアン・マニュネ、タイターニアの騎士にステファン・ビュリヨン、パピヨンにミュリエル・ズスペルギー、ディヴェルティスマンはセウン・パク、カール・パケット。

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ファニー・ゴルス © Paris Opera Ballet

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セウン・パク、カール・パケット © Paris Opera Ballet

冒頭はメンデルスゾーンの曲に乗せて可愛い妖精たち(パリ・オペラ座バレエ学校の生徒たち)が登場し、オベロンとタイターニアがインドの少年を巡って対立するシーンから始まる。人間の恋人たちや気ままに飛び回るパック、そしてタイターニアとその騎士の踊りなどが深い森の背景の中で繰り広げられる。人間には見ることができない妖精から見た、滑稽な人間たちの有様がおもしろい。
そしてオベロンがパックに魔法の恋の花を用意させる。そこへ幸せそうなハーミアとライサンダーが登場。ヘレナに追いすがられてもハーミアしか眼中にないディミトリウスが続く。ところがライサンダーはパックに魔法の恋の花の香りを与えられてしまったので、そこに現れたヘレナに夢中になってしまう。そのライサンダーをハーミアが追う・・・恋の追っかけこが目まぐるしい。
大きなさくら色の貝殻を象った玉座にのったタイターニアとお付きの妖精たちが、アリアとともに典雅に踊る。タイターニアはいつしか玉座で眠ってしまう。すると結婚式で披露する芝居の猛練習中の町人たちがやってくる。パックはその一人ボトムをロバに変えてしまった! すかさずオベロンが恋の芳しい香りをタイターニアの顔に寄せる。すると目覚めたタイターニアは傍にいたロバのボトムに一目惚れ! ロバと妖精の女王の滑稽な愛のパ・ド・ドゥは微笑ましいやら可愛そうやら。
ヘレナを求めるライサンダーとディミトリウスは、ついに剣を抜いて戦い始める。オベロンはこんがらがってしまった恋の糸をしかっり解せ、とパックに命令。同時にタイターニアの目覚めに寄り添う。二人は仲良くインドの少年の手を引いて、この1件は無事落着したのであった。
第2幕は、結婚行進曲が高らかに奏でられ、ヒッポリタとテーセス、ハーミアとライサンダー、ヘレナとディミトリウスの結婚式が行われた。ここでセウン・パクとカール・パケットの伸びやかなディヴェルティスマンがコール・ド・バレエとともに踊られる。

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© Paris Opera Ballet

バランシンはシェイクスピアの戯曲よりも、メンデルスゾーンの音楽にインスパイアされて振付けた、と語っている。その言葉通り、音楽の美しさと共鳴するシンフォニックな振付をいくつも重ねて舞台を輝かせている。まるで妖精たちが巧みに織り上げた絹織物に、恋をめぐる様々な軌跡を刺繍したような、瀟洒を極めたバレエである。
アバニャートは威厳を保ちながらも色香を漂わす大きな動きを見せ、それに応えるマルシャンの柔らかな雰囲気のある持ち味が舞台を際立たせた。ティボーのパックも品良くイタズラを企み神出鬼没。コール・ド・バレエもオペラ座らしい優雅さを示していた。さらにタイターニアの玉座がさくら色の貝殻という素敵なアイディア。この世とも思えない深い森を妖精たちの宮殿に見た立てて、自然の造型物の貝殻をオブジェのように舞台にのせたセンスには恐れいった。
そして何よりも、8歳の時にサンクトペテルブルクのミハイロフスキー劇場で、初めてこの芝居を観て心を動かされた、というバランシンの優しさを漂わせたノスタルジーに全体が染められていて忘れがたい印象を残している。

詳細は下記へ。
パリ・オペラ座バレエ・シネマ 2020
https://www.culture-ville.jp/parisoperaballetcinema

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