アンドレア・サーリ「パリに戻る日まで、クリエイティヴであり続けたい」
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ワールドレポート/その他
インタビュー=矢沢ケイト
世界からバレエの舞台が消えた時<8>
アンドレア・サーリ(パリ・オペラ座バレエ団 / コリフェ)=インタビュー
話しているだけでも声に自然と手の動きが加わり、アーティストでいることへの喜びが溢れてくるアンドレア・サーリ。ブレイクダンスから始まったダンス人生は、彼をパリ・オペラ座バレエ団のコリフェにまで導いた。大好きな舞台に立てないこの期間でも、常にクリエイティヴィティを絶やさずに楽しむという彼の日々の過ごし方には、公演再開を前向きに待つためのヒントが詰まっていた。
----ご無事でお過ごしでしょうか。
とても元気です! 外出制限期間中はベルギーに移動していました。パリとは違って庭もあって快適です。周りには建物が密集していないので、2時間くらい散歩に行くこともできます。僕の家族もイタリアで元気に暮らしています。
----先日は、Les Italiens de l'Opera de Parisのグループでも動画(※)を公開されていましたね。
© Julien Benhamou
とても楽しんで参加しました。振付も全員が自分で考えたもので、ミュージシャンや歌手も加わって音楽を付けてくれて、とても素敵なものになりました。
※YouTubeで公開中
https://www.youtube.com/watch?v=uCFf1MgzZvs
----ご自宅ではエクササイズをされていますか。
はい。毎朝バレエ団が配信してくれるオンラインのクラスに参加しています。筋トレも自主的にしています。バレエをしない日はヨガとピラティスもするようにして、コンディションを保てるように気をつけています。僕はバーが家にないので、やはり普段どおりにクラスをするのは難しいですね。そして回ったり跳んだりもできないのでバーだけです。バレエ団が、レッスンの前や後にストレッチや筋トレのクラスをしてくれる時もあるので、参加することもあります。
----子供の頃は別のダンスもされていたと伺いました。ご自宅では何を踊られていますか。
最初に始めたのはブレイクダンスでした。それからジャンルを問わずいろいろなダンスに挑戦して、その中でバレエが好きになったんです。今では、コンテンポラリーやジャズも好きです。
----コンテンポラリーの面で、ご自身のコンディションを保つためには何かされていますか。
特に特別なことをしているわけではないのですが、バレエのクラスはもちろん役立つと思います。自分でインプロヴィゼーション(即興で振付を作ること)をすることもあります。クラシックよりも、自然とモダン系なテイストになっていますね。Les Italiens de l'Opera de Parisのビデオがまさにその例です。そのほかにも音楽を聴いて、インスピレーションを与えてくれる曲を探すこともあります。
僕自身はやらないのですが、ガガのクラスを取るダンサーも多いですね。
----そのほかにされていることはありますか。
たくさん料理をします。ピザも焼きますし、ティラミスなど、今一緒に住んでいる皆に毎日イタリア料理を振る舞っています。1日を楽しんで過ごす秘訣ですね。
そのほかに、絵を描くこともあります。とにかくクリエイティヴでいることが大切だと思っているからです。僕たちはダンサーだけれども、その前に1人の人間ですから、ダンスに限らずいろいろなことをやってみることが大事だと思います。ダンサーの通常の日々は、規則正しすぎて、自分自身の興味を追いかける時間の隙間が少なすぎるので、この在宅期間は良いチャンスです。
----パリ・オペラ座は、ダンサーをどのように助けていますか。
バレエ団はダンサーや先生を気にかけて連絡をくれます。皆が元気に過ごしていることを確認してくれますね。
パリにいるダンサーにはバレエ床を送っていましたが、僕のように国外に出ているダンサーはもらえなかったんです。でも! 僕は自分でバーを作ったんです。ホームセンターでいろいろ探して、部品を買って組み立てました。床素材も探して、何でできているか詳しくは分かりませんが、感触がリノリウムに似ているコーティングのされた木材のようなシートを見つけたので、敷いて使っています。これもクリエイティヴィティの1つですね。
----昨年からイレク・ムハメドフがバレエ団の指導に加わったとお聞きしましたが、指導を受ける機会はありましたか。
彼は主にパートナリングを教えています。彼のクラスも好きですし、エネルギーがみなぎっていて1人の人としても好きです。
僕自身は、コンクールの指導を受けた点で言えば、昨年はエリック・カミヨに習うことが多かったです。彼が作品に向き合っていく姿勢が好きだったことが指導をお願いしたいと思った理由の1つ。その他にも、僕自身の個性や、僕が補いたい "必要なこと" を理解してくれる人に習いたくて、彼にたどり着きました。僕はエネルギーがありあまりすぎているので、理解してくれる人が必要なんです。パリ・オペラ座バレエ学校時代にも教えてもらったことがあるので、良い関係を築けていると思います。以前は生徒と教師、今は1人の大人として向き合ってくれて、以前よりも多くのことを話せるようになりました。
もちろん作品によってコーチングを受ける先生は代わりますし、ガラの時にはアレッシオ・カルボーネにも教わっています。
エレオノラ・アバニャートにも習うこともありますが、彼女は忙しすぎるので(笑)。パリで踊っては、時間ができたらローマに飛んで芸術監督という生活に加えて、子供もたくさんいるという生活をして、もう5年くらい経つと思います。出身地が同じパラモということもあって、困ったときに電話できる、そんな存在です。彼女は5月にアデューのはずでしたが、今のところは9月に延期になりました。
----公演の再開については、何か聞いていますか。
まだ何も聞いていませんし、劇場は1番最後に復活すると聞いていますが、秋か冬には再開してほしいですね。判断するにはまだ時間がかかると思います。今シーズンは、ストライキもあって本当に大変なシーズンでした。
----来シーズンに楽しみにしていることはありますか。
バレエ団では、『ラ・バヤデール』が楽しみです。ブロンズ・アイドルが踊れたら良いなと思っています。キリアンの作品を踊ったことがないので、来シーズン公演があるならばキャスティングされたいなと思います。ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』もあるので、楽しみにしています。いつかロミオを踊ってみたいです。
アレッシオのグループで踊れることも楽しみにしています。とても個性豊かなメンバーが1つになった大好きなチームです。参加するダンサーにとっても、ヴァリエーションや、アダジオで挑戦したいことができたりと、挑戦できる機会になっていると思います。
とにかく、場所や作品を問わず、ダンスが大好きという僕の気持ちが伝われば良いなと思います。
© Nate Sun
----ダンサーとして大切にされていることはありますか。
バレエと自分の関係を良いものに保つことです。僕自身は、バレエに100パーセント集中しすぎてしまうのは、よくないと思っています。絵を書いたり本を読んだりと、別のことをする時間も大切にしたいと思っています。なので、この外出自粛期間は、シーズン中にバレエばかりになりがちだったバランスを整えるのには良い時間だったんです。
バランスという点では、踊るだけに偏らないように、とも考えていて、自分自身で振付を生み出すことも大切にしています。動きを練習するだけでなくて、振付をすることも、この時間に取り組むことができました。将来作品を発表できたら良いなと考えています。
----バレエ団では、ご自身の作品を発表する機会はありましたか。
今はありません。バンジャマン・ミルピエが芸術監督を務めていた頃は、アカデミー(※)を通じて新作の振付を披露する機会がありました。新たな作品を生み出すチャンスを後押しする場所があることに、大きな意義があったと思います。アレッシオのグループで自作の作品を上演しているシモーネ・バラストロも、ミルピエの頃に作品を発表したうちの1人でした。レティツィア・ガローニと僕に作ってくれたものと、僕自身には"Prodigal Son" (放蕩息子)も振付けてくれました。とても興味深い作品になりました。彼の作品には、強い感情表現があるので好きなんです。
※ https://www.operadeparis.fr/en/academy
----古典とコンテンポラリーのバランスはどのように感じていますか。
© Julien Benhamou
僕自身は可能な限り全てのジャンルのダンスを踊りたいというタイプなので、今のパリ・オペラ座のラインナップのバランスは合っていると思います。一方で、ダンサーによってキャスティングされる作品が古典かコンテンポラリーに偏りがあるようにも見えるので、バランスが取れているかどうかは、個々のダンサーによって感じ方が違うと思います。歴史の中で考えれば、古典作品はとても減っているので、もう少し古典が増えても良いなと思いますが、いろいろなテイストの作品を踊れる機会があるのは嬉しいです。昇格のためのコンクールでも1作品は自分の良さを表現できる作品が踊れるようになっているのは、個性をはかるためだと思います。僕はベジャールの『アレポ』を踊りました。
----以前のダンス・キューブのインタビューで、ファッションにこだわりをお持ちだとおっしゃっていましたが、ステイ・ホーム期間にもこだわりはありますか。
外出しなくなってしまったので、そこまでオシャレはしていませんが、パジャマからは必ず着替えますよ!(笑)スーパーに買い物に出かける時は、ジーンズに合わせて、その日の気分によってTシャツや襟付きシャツを選んでいます。少し香水をつける楽しみも変わりません。自分を良く見せてくれるものを身に付けるのは、良いことだと信じています。このように家にいる時間が長い場合も、同じではないでしょうか。
最近は、ヒゲのスタイルを変えたんです。マスタッシュにしてみました! 舞台に立つ時は剃らなければいけないので、この期間限定の特別なスタイルです。
----最後に日本のダンサーとバレエファンの皆さんへメッセージをお願いいたします。
世界中のダンサーが舞台に上がれる日が早く訪れることを、一緒に願いましょう。
そして、皆さんとそのご家族が健康でいられることを、心から願っています!
<リンク>
アンドレア・サーリ インスタグラム
https://www.instagram.com/andrea_sarri/
パリ・オペラ座バレエ団 公式HP
https://www.operadeparis.fr/en
インスタグラム (ダンサーによるクラスの配信や、過去配信分を視聴可)
https://www.instagram.com/balletoperadeparis/
YouTubeより / 医療従事者への感謝を込めた映像も配信された。
https://www.youtube.com/watch?v=OIiG14Ggmu0
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