ニーナ・トノリ「この期間も観客層を広げるチャンスに。アムステルダムの今」

ワールドレポート/その他

インタビュー=矢沢ケイト

世界からバレエの舞台が消えた時<4>
ニーナ・トノリ(オランダ国立バレエ団 / ソリスト)=インタビュー

昨年よりオランダ国立バレエ団にソリストとして移籍したニーナ・トノリ。ウィーン国立バレエ団在籍時代には、『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』といった愛らしい役が印象的であったが、2017年「ルグリ・ガラ」での来日時に踊ったノイマイヤー振付『マニフィカト』では、その均整のとれたプロポーションが描き出す美しいラインで新たな一面を見せてくれた。残念ながら来日したことのないオランダ国立バレエ団の現状や、アムステルダムの街の様子を話してもらった。

----元はウィーンにいらして、昨年アムステルダムに移られたかと思います。ご自身のこれまでのキャリアを簡単にお話しいただけますか。

Nina 1.jpeg

『ジゼル』よりペザント

私はベルギーの出身です。ロイヤル・バレエ・スクールのアントワープ校で12歳から15歳まで過ごしました。その後ロンドンのロイヤル・バレエ・スクールからスカラシップを頂いて、コヴェント・ガーデンにあるアッパースクールに移りました。3年後に卒業を迎える時にオーディションを受け始め、1番最初に受けに行ったのが、入団したウィーン国立バレエ団でした。他のカンパニーからのオファーも頂いたのですが、マニュエル・ルグリがいたし、その年の契約がもらえた女性は私だけだったので、それも嬉しくて。行った時に肌に合う感じがしたし、ここでキャリアを始めたいなと思ってウィーンに決めました。コール・ドから始めてソリストまで昇格し、大役も任せてもらって、たくさん経験して成長できたと思います。怪我してしまって踊れなかった1年もあったけれど、充実していました。

----オランダ国立バレエ団に移られたのは、何かきっかけがありましたか。

気がついたらウィーンで7年間があっという間に過ぎていました。そろそろ環境を変えてみるのも良いなと思って、周りに目を向けるようになり、現在所属しているオランダ国立バレエ団が気になりました。歴史的な評判、古典を大切にしながらもレパートリーの幅広さの点で、バレエ団として魅力を感じました。ヨーロッパで古典重視のカンパニーを探すのが次第に難しくなっていると思うので。加えて言語の面でも、私はオランダ語が話せる(ベルギーでフラマン語を話すので)という利点もあったし、私の実家にも近かったので、良いことが多かったんです。実はオーディションを受けるのが遅くて、シーズンの最後の最後にプライベート・オーディションとしてクラスに参加しました。バレエ団を移籍する時に、前と同じくらいの階級で契約することは簡単ではないと思うので、セカンド・ソリストという契約を提案された時、即答で入団を決めました。

----オランダ国立バレエ団はいかがでしょうか。

1シーズン過ごして、心から楽しむことができました。オランダ国立バレエ団が持っている作品のレパートリーがウィーンと全く違うので、全て初めてでした。古典中心という点ではウィーンと似ていて、ダンサーも優秀です。モダン作品もたくさん上演します。デイヴィッド(David Dawson)など初めての振付家の作品も踊って、ようやくバレエ団の全貌が見えた感じですが、居心地が良いです。

----オランダ国立バレエ団に移籍してから挑戦した役で印象に残っているものはありますか。

Nina 3.jpeg

『ジゼル』よりミルタ

『ジゼル』のミルタ役をようやく踊ることができました。ウィーンではキャスティングされていたのですが、怪我をしてしまって踊ることができませんでした。スタミナの面でも思っていたよりキツかったですし、普段の私の印象と性格が反対の冷たい感じの役柄なので、表現の面でも新しいチャレンジでした。

----アムステルダムの現在の様子について、教えてください。

5週間前くらい(3月16日頃)から外出制限状態です。新作のリハーサルの真っ最中で、"Four Seasons" というプログラムを準備していて、デイヴィッド・ドーソン、ウェイン・マクレガー、ファンホ・アルケスの作品に取り組んでいました。その頃からすでに注意喚起はされていて、人と人との距離を保つようにと言われていたり、周辺の国々で劇場が閉鎖されたりしていたので、だんだん怖くなっていました。ある日、朝のクラスの後にミーティングが開かれて、今シーズンの残り全公演がキャンセルになると言われました。その日を最後に、ステイ・ホーム期間になっています。突然なにもなくなってしまったのは、変な感じがしますが、リハーサル中だった作品は、今後いつか上演されると思うので、無駄ではなかったと信じています。

Nina 2.jpeg

----外出はできますか。

オランダは、そこまで厳しく制限されていません。もちろん人との距離は保たないといけませんが、外を歩けるし、公園に行ってもいいし、少しなら座っていても大丈夫です。自転車も乗れるし、スーパーマーケットにも行けます。できるだけ家の中にいるようにしていますが、外出は可能です。私のホームであるベルギーの方が厳しくて、外出はできますが、公園でくつろいだりはできないので、必要な用事が終わったらまっすぐ帰って来なければなりません。1.5メートル離れて歩くことが義務付けられたり、スーパーマーケットには家族から1人しか行けなかったりと、オランダでは言われていないルールがあります。

----バレエ団はどのようにダンサーをサポートしてくれていますか。

ダッチの対応はとても早かったです。Zoomでクラスレッスンが配信されています。みんなが自宅のキッチンに掴まってバーをしている光景は、やっぱり笑ってしまいますね。アンシェヌマンを組んでくれる先生と生演奏のピアノ付きで、毎日配信してくれます。私のアパートは床の下に暖房機能があるので、あまりジャンプはしないようにしているのですが、他のダンサーは、スモールジャンプをしたりポアントを履いたりしていますね。
バレエの他には、ピラティスのクラスもあります。バレエ団自体が、日頃からテクノロジーに強い印象があったのですが、やっぱりスマートな対応で、今できるベストを提供してくれていると思います。小さなバーとバレエ用フロアも送ってくれました。それに、ときどき先生たちが電話もかけてきてくれて、私たちが元気にしているかどうか気にかけてくれています。

----バレエ以外に何か別のことをしていますか。

フロアバーをやっています。床さえあれば簡単に始められるので。動き自体も難しくはないのですが、効果を感じます。あとは、YouTubeに出ていたシルク・ド・ソレイユの筋トレ(※)に挑戦しています。腹筋、スクワット、腕立て伏せや少し走るような動きなど、スタミナをつけるようなエクササイズです。彼らのルーティンよりは簡単にしてくれていると思いますが、結構辛いです! 普段のバレエとは違うことがしたかったら、オススメです。今はオンラインで参考になるエクササイズが溢れているので、いろいろとお試しできるチャンスだと思います。

※エクササイズ動画はシルク・ド・ソレイユのYouTubeアカウントで公開中
https://www.youtube.com/watch?v=hbjq9_NER_k&list=PL9RDgPtBc9akGr609Hu1sNF2Qj3MskJuq

----ご自身では何か配信されていますか。

インスタグラムで、Q & Aセッションをやってみましたが、いろいろ配信するには私はシャイみたいです(笑)。本当にたくさんのダンサーがクラスを配信していますよね。

Nina 4.jpeg

『ジゼル』よりペザント、ソリストの山田翔と

----今後の再開については、何か聞いていますか。

当面は5月20日まではお休み(※インタビュー時点では)で、その後はまたアナウンスされると聞いています。もしかしたら5月中に、グループに分けながら、クラスだけ再開できるかもしれないけれど、もちろん公演はキャンセルです。秋から始められるかもしれないし、難しいかもしれないけれど、バレエ団はプランA〜Zまであらゆる想定をしていると思います。このまま夏休みに突入すると5ヶ月くらい踊らないことになってしまうので、1ヶ月でもクラスだけでも再開したいと考えてくれているようです。それか夏休みの終わりを早めるとか。近所の人たちが怒り出す前に、思いっきり動けるようにスタジオに戻りたいですね(笑)。
来シーズンは9月から予定されていますが、どうなるかわかりません。街が元に戻っても、人々が劇場に行きたくなるまでには時間がかかるかもしれないですしね。国同士での往来が制限されていることを考えると、外国の振付家の作品よりも、ハンス・ファン・マーネンのようなオランダのアーティストの作品が多くなるのかもしれないです。
来シーズンは『ラ・バヤデール』の全幕を踊るのを楽しみにしていたのですが、どうなるのでしょう。ガラで部分的に踊ったことはあるのですが、全幕は初めてなんです。マカロワがサンフランシスコから来て教えてくれることや、衣装はロイヤル・バレエから借りることになっていたので、どうなるのでしょうか。(パリのツアーも予定されていた)クリストファー・ウィールドン振付の『シンデレラ』も楽しみにしていました。いずれにしても、どんな作品も私にとっては初めてなので、何でも楽しみです!

----オーディションやプロモーションは、ありそうですか。

カンパニー内のプロモーションは数人すでに発表されていますが、他はまだ聞いていません。オーディションについては、学校を卒業したばかりのダンサー向けのものは開かれたと思います。そのほかは常に、ダイレクトに連絡をしてプライベート・オーディションをするのが中心なのですが、最近では機会は無さそうですね。

----バレエ団のお話に戻りますが、オランダ国立バレエ団のオペラハウスのサイトでは、パズルなどの楽しいアクティビティを含むいろいろなコンテンツが配信されていますね。

そうなんです。このバレエ団はマーケティングがとっても上手です。幼い子や新しいお客様を獲得するために、考えたのだと思います。オランダでは、バレエを観に行くことは、"誰でもすること"ではないんです。ウィーンのように習慣や文化としてあまり根付いていないように感じます。なので、楽しく見せたり、少し視点の違う宣伝をしたりと、多くの人に"バレエを観に行こう"と思ってもらうための工夫が必要です。スナップチャットなどの新しいプラットフォームでも何かやっていましたし、小さい子供に向けたパフォーマンスもして、幅広い世代の人にアピールできるようにしています。バレエは高齢の方が楽しむもの、と思っている若い人もいるので、その考えを払拭することも、モダンな作品を上演ラインナップに入れる理由だと思います。普段からちょっとしたエクササイズクラスを紹介したり、バレエ作品の物語解説をしたりして、バレエが現代のものであるというイメージ作りに取り組んでいます。今もYouTubeで私たちが受けているレッスンが配信されているのは、このマーケティングの延長でもあると思います。バーレッスンと少しだけセンターもつけて、できるだけ多くの人が追いて来られるようにシンプルにしています。

----最後に、日本のダンサーやバレエファンの皆さんにメッセージをお願いします。

私がダンサーとして大切にしていることは、周りと自分を比べないで、自分にしかできない特別なことを見つけることです。特に新しいレパートリーに挑戦する時には、関連する本を読んだり作品の映像を見たりしながら、インスピレーションを得ていくようにしています。
皆さんにとっても、この休止時間が新しい興味や挑戦したいことを見つける機会になると良いですね。そして何よりも元気に過ごしましょう!

<リンク>
ニーナ・トノリ インスタグラム
https://www.instagram.com/ninatonoli/

オランダ国立バレエ団 公式HP内 特設ページ
(公演映像配信のほか、パズルゲームも楽しめる)
https://operaballet.nl/en/online

オランダ国立バレエ団 YouTube
(生ピアノによるレッスンを配信中)
https://www.youtube.com/user/DutchNatOperaBallet

DANCE CUBEのFacebookページにチャレンジ企画に参加した動画があります
https://www.facebook.com/pg/Chacott.DanceCube/videos/

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る