英国ロイヤル・バレエの鮮やかで楽しく豪華なミックス・プロが間も無く上映される、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン

ワールドレポート/その他

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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「ライモンダ」© BILL COOPER ※写真は映画のキャストのものではありません(すべて)

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20では、ロイヤル・バレエのミックス・プログラムが1月17日から上映される。今回の上映は『コンチェルト』(ショスタコーヴィチ/マクミラン)、『エニグマ・ヴァリエーション』(エルガー/アシュトン)、『ライモンダ』第3幕、という1960年代に初演された3作品だった。

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サラ・ラム、平野亮一 Photo Johan Persson

『コンチェルト』は1966年、ショスターコヴィチのピアノ協奏曲第2番に、当時、芸術監督だったケネス・マクミランがベルリン・ドイツ・オペラ・バレエ団(現ベルリン国立バレエ)のために振付けたもの。マクミランは66年から69年までこのカンパニーの芸術監督を務めたのだが、その頃の彼の目には未だクラシック・バレエの基本がしっかりと確立されていないと思われた。(65年まではドイツと所縁の深いロシア人、タチアナ・グゾフスキーが芸術監督)マクミランはそうした想いも込めて監督就任の手始めにこの『コンチェルト』を振付けた、と言われている。
自身優れたピアニストでもあったドミトリー・ショスターコヴィチが1957年に作曲したこの曲は、速いテンポで展開する第一、第三楽章と、ゆったりとしたロマンチックな第二楽章が際立ったコントラストを描いている。ロシア革命に続く政治の渦の中で、激しい毀誉褒貶に見舞われたショスターコヴィチの、彼独特の激しい音の連続を正確に動きに還元した振付が鮮やかだ。
第二楽章のプリンシパルを踊ったヤスミン・ナグディと平野亮一が良かった。平野の安定感のあるサポートを得て、ヤスミンの肢体が美しく映えた。バランシンのような輻輳した動きのアンサンブルはみられないが、シンプルにショスターコヴィチの音楽の鮮烈な響きを細やかにアップテンポに表して、第2次大戦後のドイツが再生していくエネルギーの強さを表現しているかのようで、実に見応えがあった。他にアナ=ローズ・オサリバン、ジェームス・ヘイ、マヤラ・マグリが出演している。

Yuhui Choe and Steven McRae in Concerto (c) Johan Persson ROH 2010.jpeg

「コンチェルト」崔由姫、スティーヴン・マックレー Photo Johan Persson

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「コンチェルト」サラ・ラム、平野亮一 Photo Johan Persson

Artists of The Royal Ballet in Concerto (c) Johan Persson ROH 2010.jpeg

「コンチェルト」Photo Johan Persson

Enigma Variations. Lara Turk and Nehemiah Kish. (c) ROH, Bill Cooper, 2011.jpeg

「エニグマ・ヴァリエーション」ララ・ターク、ニーマイア・キッシュ Photo BILL COOPER

『エニグマ・ヴァリエーション』は、エドワード・エルガーが1899年に発表した変奏曲。作曲家を取り巻く人たちをヴァリエーション豊かに活き活きと音楽でスケッチしたもの。その音楽をフレデリック・アシュトンが、彼流のステップを駆使し、ちょっとユーモラスに楽しく振付け、心温まるのみならず存在感のある小品に仕上げている。この映画ではマシュー・ボールが踊っている激しい動きで知られるトロイトのヴァリエーション(YouTubeでダーウェルの同じ踊りがみられる)、フランチェスカ・ヘイワードが扮している少女ドラベラの吃音を曲に合わせた表現、そしてアクリ瑠嘉が犬になったシンクレアのソロなど、アシュトンらしい凝った動きが興味深く見られた。特にアクリ瑠嘉は、独特の犬の動きをたちまち覚えてしまった、とコーチしたウェイン・スリープがインタビューで驚きを込めて語っている。その他にクリストファー・サウンダース、ラウラ・モレーラ、ベネット・ガートサイドが出演している。

Enigma Variations. Thomas Whitehead. (c) ROH, 2011. Ph. Bill Cooper.jpeg

「エニグマヴァリエーション」トーマス・ホワイト・ヘッド Photo BILL COOPER

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「エニグマ・ヴァリエーション」イメージ フランチェスカ・ヘイワード Photo Andrej Uspenski

最後の曲は、プティパの原振付に基づいてルドルフ・ヌレエフが振付けた『ライモンダ』第三幕。
ライモンダはナタリア・オシポワ、ジャン・ド・ブリエンヌはワディム・ムンタギロフ、ともにロシア出身のプリンシパルが踊った。
オシポワは少しふっくらとしたものの、安定した演舞で自尊心の高さを表し、ボリショイ・バレエ時代からこのバレエを踊り込んできた自信が垣間見える舞台だった。ムンタギロフも細身ながらオシポワの演舞に応える踊り。金子扶生のソロも見事だった。
そして絢爛たるハンガリーのチャールダッシュなどの舞踊が様々に展開して圧巻。アレクサンダー・グラズノフの豪華を極めた音楽にのせて、ゴールドとシルヴァーの一大ページェントが繰り広げられた。

Christina Arestis and Ryoichi Hirano in Raymonda Act III. Photo Tristram Kenton, courtesy ROH.jpeg

「ライモンダ」クリスティーナ・アレスティス、平野亮一  Photo Tristram Kenton
 ※写真は映画のキャストのものではありません(すべて)

1月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか、全国公開

■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
■配給:東宝東和

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