金子扶生(英国ロイヤル・バレエ ファースト・ソリスト)インタビュー「カルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』を踊って」

ワールドレポート/ロンドン

インタビュー構成・関口紘一

----金子さんは2013年にカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』でキトリを踊られました。アコスタ版はとても素晴らしいヴァージョンでしたが、最初に踊るときには、アコスタから主役を踊るためにどのような要望がありましたか。

金子 今回もカルロスに少し指導に来ていただいて、いろんな指導をいっぱいいただきました。カルロスの『ドン・キホーテ』、"これがこうしたい"という目標がはっきりしていて、明るい性格のすごいやんちゃで素敵な村の中で一番輝いている女の子というのが、カルロスの望むキトリでした。ですから踊っているときに、「もう自分が一番素敵なんだから魅せなくていいんだよ」とカルロスは言います。普通でいいんだと。
カルロスの『ドン・キホーテ』は少しコンテンポラリーというか、あまりクラシック・バレエという感じではなくて、普通に女の子と男の子のラブラブなカップル「普通のカップルを見ているということがしたい」と言われました。現代的な舞台にしたいという感じでした。

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The Royal Ballet © 2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

----アコスタ版は舞台全体に一体感があってとても盛り上がります。キトリもほとんど出ずっぱりですし、全幕を踊りきるのは、体力的にも大変だと思います。今年、また、6年ぶりにロイヤル・オペラハウスでキトリを踊られましたが、いかがでしたでしょうか。

金子 6年前に出演させていただいたときに、舞台上で怪我をしてしまいました。それ以来でしたので、キトリに帰ってくることが、トラウマというかすごい不安だったんです。なので、今回はちゃんと準備しようと思っていたんですけど、まさかのパートナー変更が何回もあったりとか、そういうドラマもあって、あまりちゃんと準備する間もなく舞台に出たので、どうなることかと思っていたんです。それでもすごく楽しく踊れました。パートナーもいい方に恵まれて、とても楽しかったです。6年前よりも、もっともっと楽しめたと思います。

----金子さんは、ヴァルナ国際バレエコンクールでゴールド・メダル、モスクワ国際バレエコンクールでもシルバー・メダルを受賞されています。この時もキトリのヴァリエーションを踊られた、とお聞きしました。やはり、キトリ役には特別の思い入れがありますか。

金子 英国ロイヤル・バレエ団に来る直前に、最後に日本で踊ったのも『ドン・キホーテ』全幕で、私の恩師、地主薫先生のもとで踊らせていただいたんです! なので、やはり『ドン・キホーテ』は、私にとってすごい特別な物語ですね。

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The Royal Ballet © 2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

----クリストファー・ウィールドン振付の『冬物語』のハーマイオニー役も踊られました。踊りだけでなく、演技的にも難しかったのではないかと思います。妊娠している状態で踊るシーンなどもありました。いかがでしたか。

金子 『冬物語』は『ドン・キホーテ』とは全く正反対のような物語で、すごく感情が入る踊りです。自分の旦那が異常になって、お腹にいる子供が旦那の子供ではないと言われます。たぶん妊娠してるだけでも本当に大変なのにそういう環境の中に入れられて、ハーマイオニーは、かなりつらい思いをしたと思います。だからそういうことを表すのはほんとうに大変です。でもなんだか物語の中に入ったら、どうやって表そうというよりも自分がハーマイオニーになっているので、演じているという感覚ではなくて、本当につらい世界に生きているっていう感覚ですね。クリストファー・ウィールドンの素晴らしい振付とジョビー・タルボットのとっても素敵な美しい音楽なので、三幕は生き返るというか、銅像になっているところから生き返るんですけども、私は本当に涙が出そうで前が見えないままに踊っていました。

----金子さんは、『くるみ割り人形』や『ラ・バヤデール』『ジゼル』などのクラシック・バレエと同じくらいの割合で、シディ・ラルビ・シェルカウイやマクレガーなどのコンテンポラリー・バレエにもキャスティングされています。異なった動きの作品を踊ることは身体的に負担ではないですか。

金子 特にウェイン・マクレガーの作品などは、1回リハーサルしたらもう背中が壊れそうなくらい痛いんですけど...(笑)、全然違う動きでエナジーも違うので、体に負担はすごいくるんですが、やはり舞台の上で違う自分の動きをするというのはすごい面白いことですから、すごく楽しめます。

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The Royal Ballet. c ROH, Johan Persson

----クラシック・バレエとコンテンポラリーはどちらが好きなどはありますか。

金子 私は断然クラシックが好きですね。3歳からずっとクラシック・バレエを習ってきて、クラシック・バレエを中心にしているので、自分が楽しむのは、やはりクラシック・バレエの方が楽しいと思います。でも体の動かし方とか音楽も異なるので、コンテンポラリーもまた違う楽しさがあります。

----英国ロイヤル・バレエの日本公演も近づいてきておりますが、日本のバレエ・ファンにメッセージをお願いいたします。

金子 この来日公演にもっていく『ドン・キホーテ』は、カルロスが作った客席からもほんとうに楽しめるバレエなので、ぜひ観に来ていただきたいと思います! 英国ロイヤル・バレエらしい素晴らしい『ドン・キホーテ』をお見せできると思います。

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The Royal Ballet. c ROH, Johan Persson

金子扶生がドリアードの女王を踊った『ドン・キホーテ』が5月17日からTOHOシネマズ 日比谷ほか、全国公開される。

公式サイト http://tohotowa.co.jp/roh/
配給:東宝東和

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