2019年度ローレンス・オリヴィエ賞授賞式が行われ、マシュー・ボーンに特別賞が贈られた

ワールドレポート/ロンドン

香月 圭 text by Kei Kazuki

英国の演劇・オペラ・舞踊界で、その年に際立った功績を残した人々や作品に対して授与されるローレンス・オリヴィエ賞の授賞式が、2019年4月7日開催された。会場はロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、動画でその模様が公開された。今年は日本人俳優の渡辺謙が『王様と私』の主演で、2015年のトニー賞ノミネートに続いてローレンス・オリヴィエ賞でもミュージカル部門最優秀男優賞にノミネートされたため、日本からの注目度も高かった。日本人でこれまで受賞したのは森下洋子(1985年新作ダンス作品における傑出した演技)、山海塾『遥か彼方からの―ひびき』(2002年最優秀新作ダンス作品賞)、川名康浩がプロデュースしたミュージカル『キンキー・ブーツ』(2016年最優秀新作ミュージカル賞)の3名。渡辺の受賞への期待も高まったが、惜しくも受賞とはならなかった。しかしながら、映画に続いてミュージカルにおいても渡辺の国際的評価は確固たるものになったといえる。この作品では衣装デザインを担当したキャサリン・ズーバーはオリヴィエ賞最優秀衣装デザイン賞を射止めた。

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「ダンスにおける最も傑出した功績」を受賞したアクラム・カーン代理マーヴィン・クーとプレゼンターのアシュリー・ショー ©Pamela Raith

ダンス関連の2部門のプレゼンターとしてマシュー・ボーンの『赤い靴』『シンデレラ』などに主演したアシュリー・ショーが登場した。「ダンスにおける最も傑出した功績」部門ではアクラム・カーンが現役ダンサーとして最後の主演と宣言した"Xenos"における演技と、ロイヤル・バレエのリアム・スカーレット版『白鳥の湖』の美術を担当したジョン・マクファーレン、鬼才ディミトリス・パパイオアヌー"The Great Tamer"の振付の3つがノミネートされ、アクラム・カーンが最優秀賞を受賞した。カーンが創作専念中のため、アクラム・カーン・カンパニーのリハーサル・ディレクターを務めるマーヴィン・クーがアシュリー・ショーよりトロフィーを受け取り、カーンから預かったメッセージを読み上げた。「行動することなくして希望は得られない。人類のために歩み続けよう。」と呼びかける力強いものだった。

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「最優秀新作ダンス賞」ボティス・セヴァ ©Pamela Raith

また「新作ダンス」部門では、ウィリアム・フォーサイスがイングリッシュ・ナショナル・バレエの12名の男性ダンサーのために振付けた"Playlist(Track1, 2)"やクリスタル・パイトがかつてダンサーとして在籍したカナダの先鋭的ダンス・カンパニー、バレエ・ブリティッシュ・コロンビアの女性振付家たちが創作したトリプル・ビル"16 + A Room/Solo Echo/Bill"("Solo Echo"はクリスタル・パイト振付)、英国ロイヤル・バレエのプリンシパル・キャラクター・アーティストとしても知られるアラステア・マリオットが第一次世界大戦をテーマにした"Unknown Soldier"、新鋭振付家ボティス・セヴァの"Blkdog"の4作品がノミネートされた。「最優秀新作ダンス賞」は、若干28歳のボディス・セヴァ振付"Blkdog"に授与された。セヴァはロンドン生まれのアフリカ系振付家で、ヒップホップをベースに若い世代の苦悩を実験的な手法で表現するアーティストだ。

また30年に渡って英国エンターテイメント界で精力的に作品を産み出し続けるマシュー・ボーンに特別賞が贈られた。名優ローレンス・オリヴィエの頭部を模したデザインのトロフィーを贈呈したのは英国王室のカミラ夫人とダーシー・バッセル、俳優のリチャード・E・グラントだった。マシュー・ボーンは「イースト・エンドで育ちましたが、両親は(ウェスト・エンドに多い)ロンドンでも指折りの劇場に連れていってくれたものでした。いつも天井桟敷席でしたが、そんなことはどうでもよかった。何かが起こっている場所の一員になれたのだから。」と少年時代の劇場との出会いを受賞スピーチで語った。授賞式の最後を飾ったパフォーマンスは、ボーンの代表作『白鳥の湖』の王子と白鳥とが出会うハイライト・シーンだった。王子役をドミニク・ノース、白鳥役をウィル・ボージアが務めた。

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「特別賞」を受賞しスピーチするマシュー・ボーンとプレゼンターのカミラ夫人とダーシー・バッセル、リチャード・E・グラント ©Jeff Spicer/Getty Images

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「特別賞」マシュー・ボーンとプレゼンターのダーシー・バッセル、リチャード・E・グラント ©Pamela Raith

今年度のローレンス・オリヴィエ賞ノミネートおよび受賞作品のなかで以下の3作品の日本公演が予定されている。
ディミトリス・パパイオアヌー『THE GREAT TAMER』
2019年6月28日〜30日彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
マシュー・ボーンの『白鳥の湖〜スワン・レイク〜』
2019年7月11日〜21日Bunkamuraオーチャードホール
ミュージカル『王様と私』
 2019年7月11日〜8月4日東急シアターオーブ

《2019年度ローレンス・オリヴィエ賞ノミネートおよび受賞者(舞踊関連部門)》

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"XENOS"

(●印が受賞者)

【ダンスにおける傑出した功績】
●アクラム・カーン
"Xenos(ゼノス)"における彼の演技に対して(サドラーズ・ウェルズ劇場)
・ジョン・マクファーレン
ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』におけるデザインに対して(ロイヤル・オペラハウス)
・ディミトリス・パパイオアヌー
 ロンドンのダンス・アンブレラ国際フェスティバルのために創作した"The Great Tamer"の振付に対して(サドラーズ・ウェルズ劇場)

【最優秀新作ダンス】
●"Blkdog" 
ボティス・セヴァ(Botis Seva)振付(サドラーズ・ウェルズ劇場)
・"16 + A Room/Solo Echo/Bill"
ダンス・コンソーシアムのためにバレエ・ブリティッシュ・コロンビアが創作したトリプル・ビル(サドラーズ・ウェルズ劇場)
・"Playlist(Track1,2)"
イングリッシュ・ナショナル・バレエのためにウィリアム・フォーサイスが創作した(サドラーズ・ウェルズ劇場)
・"Unknown Soldier"
ロイヤル・バレエのためにアラステア・マリオット(Alastair Mariott)が創作した(ロイヤル・オペラハウス)

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リアム・スカーレット版『白鳥の湖』

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"THE GREAT TAMER"

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"BLKDOG"

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"16 + A ROOM SOLO ECHO BILL"

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"PLAYLIST TRACK 1,2"

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"THE UNKNOWN SOLDIER"

▼2019年度ローレンス・オリヴィエ賞公式サイト
https://officiallondontheatre.com/olivier-awards/year/2019/

 

 

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