マリインスキー・バレエの新星、11月の日本公演でも踊る、永久メイにインタビュー

ワールドレポート/ペテルブルク

[インタビュー]梶 彩子

----永久メイさん、ソリストへの昇格おめでとうございます。どのようにして昇格について知ったのですか?

永久 ありがとうございます。正確に言うと、18歳まではワーキング・ビザが貰えないので、研修生という形でしか在籍ができず、18歳の誕生日を迎えてから正式入団したのです。セカンド・ソリストということは初めて知り、とてもびっくりしました。

----2013年のユース・アメリカ・グランプリ(以下YAGP)でグランプリを受賞され、モナコ王立グレースバレエ学校に留学されましたが、その後はどのような経緯でマリインスキーに入団されましたか。

永久 2015年のYAGP関連のガラ公演がカリフォルニアで行われ、その時の2週間のワークショップで、ユーリー・ファテーエフ監督に声をかけていただきました。夢の夢のようなお話でしたが、チャンスがあるなら、と思い、「卒業後はマリインスキーに行くんだ」という気持ちでいました。その後、2016年にマリインスキーで行われたインターナショナル・ウィークという、各国からのダンサーが踊るフェスティバルに招かれ、初めてマリインスキーの舞台で踊りました。出発前は(モナコの)アカデミーでも練習を重ね、ペテルブルクに来てからは、リハーサルやレッスンなどあらゆることに感動しっぱなしでした。終わってからも、自分がマリインスキーで踊ったなんて信じられない気持ちでした。

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リハーサル後、マリインスキー劇場のビュッフェで

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May Nagahisa in La Bayadère by Natasha Razina
© State Academic Mariinsky Theatre

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----言葉も文化も違うロシアに行く不安はや、ご家族の反対はありませんでしたか。

永久 父や祖母にはロシアに本当に行けるのか、生きていけるのかなど心配されました。私自身は、バレエ団のことだけを考えていたので、不安はありませんでした。

----日本人としてマリインスキーで踊ることについて、お聞かせください。

永久 入団する前は、マリインスキーはロシア人しかいないイメージがありました。日本人で最初に入団した石井久美子さんがよくサポートしてくれ、お姉ちゃんのような存在でとても心強かったです。初めの方は、「日本人が踊っていて、えっと思われたりしないかな」と不安だったし、ロシア人との見た目の違いも気になりましたが、自分は踊るしかないと、深く気にしないようになりました。

----カンパニーでの一日はどんな風ですか。

永久 様々ですが、毎朝11時から12時にレッスンがあって、そのあとは個人レッスンやリハーサルがあります。リハーサルはとても限られた時間しかありませんが、先生に一対一で教えてもらえる貴重な時間なのでとても集中しています。アカデミー時代と比べてもリハーサル時間はとても短いです。

----モナコのアカデミーのメソッドと、マリインスキーのスタイルの違いなどはありますか。

永久 アカデミーは、フランスやドイツなど、いろいろな国で踊っていた先生方がいるので、統一されたメソッドはありませんでした。マリインスキーはワガノワ・メソッドで、顔のつけ方なども違います。入団してワガノワ・メソッドを覚えているところです。

----メソッドが違うにもかかわらず、メイさんをマリインスキーに迎えようというのは、やはり才能を見込まれてのことだと思います。ところで、バレエは何歳から始められましたか。

永久 バレエは3歳から、バレリーナが夢だった母に連れられて始めました。気が付いたらバレエをやっていて、やめたいと思ったことはありませんでした。やめたいというよりは、家族や日本食が恋しくて、日本に帰りたいと思うことはあります。

----プロを目指すようになったのはいつからですか。

永久 コンクールに出るようになってから、火が付いたというか、プロを考えるようになりました。YAGPでグランプリをいただいてから、プロへの道が開けました。

----バレエを続ける中で大事にしていること、ポリシーなどはありますか。

永久 あきらめず、ただ努力するのみ、やり続けることが大事だと思います。

----最初のシーズンを終えて、カンパニーの印象はいかがですか。

永久 とにかくリハーサルの短さに驚きました。ほとんど毎日違う演目が上演され、私はまだ一年目なので毎日ではありませんが、見ていて、公演数に対してリハーサルが短すぎると思いました。アカデミーでは6月に行われるガラ公演に向けて何か月も練習を積み重ねますが、こちらでは2日でソロを踊ったこともあります。練習したくても場所がなかったり...。一つの演目に向けて、ずっと練習することはないのが驚きでした。あとロシア人は冷たいイメージがありましたが、全然そんなことはありませんでした。団員のみんなが日本公演を楽しみにしているのも、びっくりしました。

----日本公演では何を踊られますか。また意気込みを教えてください。

永久 ヴィクトル・カイシェタと『海賊』第2幕のパ・ド・ドゥと、『ドン・キホーテ』のキューピッドを踊ります。マリインスキーの団員として日本公演に参加するのは初めてです。もちろん、他の海外公演と比べても、日本での公演は自分にとって特別なものです。今から楽しみです。

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Le Corsaire by Natasha Razina © State Academic Mariinsky Theatre

----日本でも踊られる『ドン・キホーテ』のキューピッドや、『ジゼル』のペザント、『バヤデルカ』の影のトリオ、『くるみ割り人形』のマーシャなど、1年目でいろいろな踊りに挑戦されてきましたが、レパートリーの中ではどの踊りが好きですか。


永久 やはり主役を踊らせていただいた『くるみ割り人形』のマーシャは特別な思いがあります。

----『くるみ割り人形』のマーシャを踊ったときのお気持ちをお聞かせください。

永久 役をいただいてからは、毎日音楽を聞いて、イメージトレーニングもして、練習も重ねました。普段、舞台で踊るときは緊張するのですが、全幕踊ると舞台にいる時間が長く、ストーリーに入り込み、表現する場面もたくさんあるので、舞台に慣れていったのか、不思議と緊張はありませんでした。今、振り返ってみると、集中しすぎて、どう踊ったのか覚えていないんです。踊っているとき楽しいのは記憶にあるのですが... 公演後は感極まり、家に帰って泣きました。

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The Nutcracker by Valentin Baranovsky © State Academic Mariinsky Theatre
『くるみ割り人形』のマーシャをヴィクトル・カイシェタと

----今後踊ってみたい作品はありますか。

永久 『ジゼル』です! アカデミーの時にヴァリエーションを踊ったのと、マリインスキー劇場ではじめて見たバレエが『ジゼル』でした。2016年にロシアに来たときに見たのですが、「この劇場でジゼルを踊れたらいいな」と強く思うようになりました。

----レパートリーはクラシック作品が多いですが、現代作品にも挑戦してみたい気持ちはありますか。

永久 アカデミー時代、日本で習ったことのないコンテンポラリー作品が最初は嫌いでしたが、4年目は面白いワークショップなどもあり好きになりました。マリインスキーのレパートリーはクラシック作品以外はネオ・クラシックがあるくらいで、コンテンポラリーを踊る機会は今のところあまりないです。

----尊敬するダンサーやは目標にしているダンサーはいますか。

永久 それが、決められないのです。作品を踊る前はいろいろなダンサーの踊りを見て、表現の仕方を勉強しますが、ダンサーそれぞれ表現が違うし、長所があって、だれか一人を選ぶのは難しいです。マリインスキーのダンサーも、みんなそれぞれとても個性的で、それぞれ素晴らしいです。

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May Nagahisa in Le Carnaval by Natasha Razina © State Academic Mariinsky Theatr

----カンパニーで仲の良いダンサーはいますか。


永久 同じように研修生から入団したビクトル・カイシェタとは一緒に組むことが多く、いつも一緒にいます。一番仲のいい友だちです。

----ロシアで一年目を終えての感想、うれしかったこと、大変だったことをお聞かせ下さい。

永久 私は兵庫で育ったので、雪と寒さにびっくりしました。逆に夏の白夜は大好きです。公演が終わっても空が明るくてうれしいです。一番うれしかったのはマーシャを踊ったことで、大変だったのは、テレビ番組「ボリショイ・バレエ」(筆者注:パートナーのカイシェタが怪我をし、今年の参加は見送り)に向けて7つのパ・ド・ドゥを準備し、その練習がハードだったことです。でもすごい過酷だと感じることはありません。私は一年目で公演数も少ないですし、毎日踊る団員の前で、疲れたとは言ってはいけないと、自分に言い聞かせています。

----ロシアで新たに学んだこと、マリインスキーで働くことについて。

永久 すべてです。新しいメソッドもそうですし、アカデミーの時は一生徒でしたが、劇場で団員として働くのは責任があるし、もう踊ることしかないのです。バレエ・ダンサーは決して楽な仕事ではないし、辛くて過酷でハードです。でも、好きなことを仕事にできるのはうれしいです。

----では最後に、日本の、将来バレエ・ダンサーを目指す人たちに一言お願いします。

永久 とにかく練習して、夢に向かって一生懸命やることが大事だと思います。私も、練習を積み重ねていたらマリインスキーで働くという夢のような奇跡が起きました。諦めずに練習したら、どこかで何かの結果が付いてくると思っています。頑張ってください。私も頑張ります。

----本日はお忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。益々のご活躍を心よりお祈りしております。

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The Nutcracker by Valentin Baranovsky © State Academic Mariinsky Theatre

マリインスキー・バレエ 来日公演2018 特設サイト

https://www.japanarts.co.jp/mariinsky2018

 

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