偉大な映画監督ベルイマンと踊る、マッツ・エック他によるダンス公演を各地で開催

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

2018年はスウェーデンの偉大な映画監督イングマール・ベルイマン生誕100年にあたる。日本でも記念映画祭が企画され、ゴダール、フェリーニ、ウディ・アレン、スピルバーグら現代の映画界の数多の名匠たちに、少なからぬ影響を与えたベルイマンの名作の数々がデジタル・リマスター版としてスクリーンに蘇る。初期に発表された『夏の遊び』(1951)では、結婚を申し込まれたバレリーナがこれからの人生を思う際に、改めて思い出した若き日の恋が描かれていた。日本では映画監督としてよく知られるベルイマンだが、舞台の出身でその分野の功績も多い。
最近、ベルイマンの舞踊との関わりを振り返る "Dancing with Bergman(ベルイマンと踊る)"と銘打ったプログラムが、パリのシャンゼリゼ劇場やサンフランシスコ・バレエ、ノルウェー国立歌劇場バレエ、モンテカルロ・バレエなどで巡回上演され、評判を呼んでいる。このプログラムは、マッツ・エック、ヨハン・インゲール、アレクサンダー・エクマンの3名のスウェーデンの振付家が、各々ベルイマンをテーマに創り上げた3作品で構成されている。

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photo/Erik Berg

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photo/Erik Berg

マッツ・エックの父アンデシュはベルイマンの演劇グループの一員で、マックス・フォン・シドーなどベルイマンの映画に登場する俳優はこのメンバー出身が多い。またエック自身も劇場でベルイマンの演出アシスタントを務めていたことがあり、劇場内のオフィスも隣だった。当時は、ベルイマンに「俺を見張っているのか」と呆れられるくらい、この偉大な監督の一挙手一堂足を憧憬の眼差しで見守っていたという。
ベルイマンは「映画は情婦のようだが、劇場は忠実な妻のようだ」という言葉を残した。とりわけ舞台のリハーサルの準備は入念に行い、スタッフが能動的に創造性を発揮できる環境を作った。そのために、舞台演出に思いがけない奇跡の瞬間が生まれることもあったという。(ノルウェー国立歌劇場"Dancing with Bergman"プログラム)。
ベルイマンは生涯に渡って五回結婚しているが、最初と2回目の配偶者は職場の同僚の振付家だった。さらにドーニャ・フォイアー(1934-2011)という振付家との出会いが、ベルイマンとダンスの関係を知るうえで鍵となる。二人の仕事は、映画『魔笛』の振付(1975)やシェイクスピアの『リア王』(1984)、三島由紀夫の『サド侯爵』(1989)など後期の演劇作品などが知られる。フォイアーが俳優の動きを決め、ベルイマンはそれに従って全体の演出をしたという。

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©Lesley Leslie Spinka

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photo/Erik Berg

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フォイアーはニューヨークのジュリアード学院でアンソニー・テューダーなどに師事。マーサ・グラハム・カンパニーの研修生となる。その後ニューヨークでポール・サナサルドと「スタジオ・フォー・ダンス」を設立した。この二人と多くの活動を共にしたのがジュリアード学院に留学中だった若き日のピナ・バウシュである。
1963年フォイアーはスウェーデンに渡り、革新的なアメリカのモダンダンスを北欧に伝えるのに大きな役割を果たした。奇しくもマッツ・エックと兄のニクラスも彼女のクラスを受講し、彼女が振付けた初演作品に出演している。1965年フォイアーがストックホルムの王立ドラマ劇場で振付を担当したペーター・ヴァイスの『マラー/サド』が評判になり、翌年ストックホルムの同劇場専属振付家、翌1967年には同劇場芸術監督に就任する。芸術監督を退いてからも自作の創作のためこの劇場に顔を出していたベルイマンはほどなくしてフォイアーと知り合い、彼女のダンス・カンパニーの創作を援助したりドラマ劇場での彼女のダンス公演の上演の実現に向けて尽力した(OpEdgy Arts & Performance by Mark Franko November 8th, 2011)。
またNHK BSプレミアムシアターでもベルイマン特集番組がオンエアされる。フィンランド歌劇場によるオペラ『秋のソナタ』と2016年スウェーデン北部のベルイマンの自宅があるフォーロー島にアレクサンダー・エックマンら4名の振付家が来島し、イングマール・ベルイマン・Jr.らの協力を経て各々ベルイマンへのオマージュを捧げんと創作に励む彼らの姿を追ったドキュメンタリーである。

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©Lesley Leslie Spinka

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photo/Erik Berg

 

モナコ・ダンスフォーラム

「Dancing with Bergman(ベルイマンと踊る):エック、エックマン、
 イングマール・ベルイマン生誕100年(1918-2018)」
2018年7月12、13、14日モナコ歌劇場サル・ガルニエ
『4 KARIN 』
振付:ヨハン・インゲール JOHAN INGER
出演:アンナ・ヘルマンAnna Herrmann、ニーナ・ボトカイNina Botkay、オリヴィア・アンコーナOlivia Ancona、アルヴァ・インテール・アルメンタAlva Inger Armenta
『THOUGHTS ON BERGMAN(ベルイマンについての考察) 』
振付&出演:アレクサンダー・エックマンALEXANDER EKMAN
『メモリー MEMORY 』
振付:マッツ・エックMATS EK
出演:アナ・ラグーナ&マッツ・エック
モナコ・ダンスフォーラム http://www.balletsdemontecarlo.com/en/season-2017-2018/dancing-bergman

BSプレミアムシアター NHKテレビ ベルイマン特集

7月9日(月)【7月8日深夜(日)深夜】午前0時00分〜
◇フィンランド国立歌劇場公演 歌劇『秋のソナタ』
◇イングマール・ベルイマン 振付家の目を通して
フィンランド国立歌劇場公演
歌劇『秋のソナタ』
<演 目>
歌劇『秋のソナタ』(全2幕)
原作:イングマール・ベルイマン
台本:グニラ・ヘミング
音楽:セバスチャン・ファーゲルルンド
<出 演>
シャルロッテ:アンネ・ゾフィ・フォン・オッター
エヴァ:エリカ・ズンネガルド
ヴィクトル:トミ・ハカラ
ヘレナ:ヘレナ・ユントゥネン ほか
<合唱>フィンランド国立歌劇場合唱団
<管弦楽>フィンランド国立歌劇場管弦楽団
<指 揮>ジョン・ストゥールゴールズ
<演 出>ステファン・ブラウンシュヴァイク
収録:2017年9月23日 フィンランド国立歌劇場(ヘルシンキ)
「イングマール・ベルイマン 振付家の目を通して」
<演 目>
「ベルイマンとダンスへの思い」
振付・踊り:アレクサンダー・エクマン
音楽:クターン 第2番 変ホ長調 作品9第2 ショパン 作曲
『A Pre-study』
振付・踊り:ポントゥス・リドベルイ
音楽:ステファン・レヴィン
「Samband - Band - Saraband」
振付:ペル・イスベルイ
踊り:ナージャ・セルラップ、オスカー・サロモンソン
音楽:チェロ組曲 バッハ 作曲
『Onapers』
振付:ヨアキム・シュテフェンソン
踊り:ナターリエ・ノルドクィスト、ジェニー・ニルソン
音楽:ステファン・レヴィン
収録:2016年7月1日 フォーロー島(スウェーデン)

「イングマール・ベルイマン生誕100年映画祭」

2018年7月21日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次開催
公式サイト http://www.zaziefilms.com/bergman100/

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