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ワガノワ・バレエ・アカデミーの卒業コンサートのゲネプロを観劇 未来のスターたちが煌めく舞台をレポート

ワールドレポート/その他

梶 彩子 text by Ayako Kaji

6月9日、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場にて、ワガノワ・バレエ・アカデミーの卒業コンサートのゲネプロが行われた。衣装もメイクも本番さながらで、入場も全席指定のチケット制。アカデミー関係者や父母で客席はいっぱいだった。本番と違うのは、時折、校長であるニコライ・ツィスカリーゼがマイクでダメ出しをする点くらいである。お辞儀のタイミング、立ち位置、またオーケストラの演奏の速さなど、最終調整が行われていた。

『フローラの目覚め』(音楽:ドリーゴ、振付:プティパ、イワノフ)のパ・ド・カトルで幕があがる。春の女神フローラ、暁の女神オーロラ、月の女神ダイアナ、青春の女神ヘーベの踊りで構成されており、霧に包まれた幻想的なフローラの目覚めのシーンから始まり、それぞれがヴァリエーションを踊り、コーダで締めくくられる。花飾りを手にしたままアラベスクのパンシェといった振付の難しさ、完成度の高さに最初から感動しきりである。4人それぞれが、上品でしっとりとした踊りで観客を魅了した。

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©Andrew Lush Vaganova Ballet Academy 『フローラの目覚め』

『ナイアドと漁師』(音楽:プーニ、振付:プティパ)よりパ・ダクシオンでは、ナポリを舞台としたキャラクター舞踊の細かいステップが特徴的。明るいアップテンポの音楽に合わせ、男女が次々と舞踊を展開してゆく。素速い足さばきや、上体の動きも非常に丁寧で好印象であった。唯一の民族舞踊風の作品として、プログラム全体の良いアクセントになっていた。

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©Andrew Lush Vaganova Ballet Academy 『ナイアドと漁師』

オペラ『ラ・ジョコンダ』より『時計の踊り』(音楽:ポンキエッリ、振付:プティパ、改訂:ツィスカリーゼ)は群舞がメインのナンバー。次々と変わるフォーメーションを美しく揃えながら、難解なステップを優雅に展開していった。群舞は8人ずつのダンサーで構成された3つのパートに分かれており、人数が多く、ダンサーたちが舞台にひしめき合っていた。そんな中見事に息の合った踊りが披露され、アカデミーのレベルの高さがうかがえた。ソリストを務めたマリア・ホレワは際立って素晴らしかった。緻密で丁寧な体の使い方、自然な笑顔、鍛え抜かれた体のライン、どれをとっても、ずば抜けて美しい期待の逸材である。衣装はサンクト・ペテルブルク国立演劇音楽博物館に保管されているフセヴォロジスキーの衣装画を元に再現されたという。ふんわりと空気を孕む羽衣のような袖や遠目からでもキラキラと光る衣装は観客の目を引いた。

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©Andrew Lush Vaganova Ballet Academy オペラ『ラ・ジョコンダ』より『時計の踊り』

『白の組曲』(音楽:ラロ、振付:リファール)では、モノトーンでそろえられた衣装が美しい。ソリストの見せ場も多く、中でもメインのパ・ド・ドゥを踊ったダリア・イオノワは抒情的な踊りで魅了した。『白の組曲』が始まる前、かなり長い間幕が上がらなかったが、どうやら譜面の調整をオーケストラとしていたらしい。『白の組曲』は2017年にロシアでの初演を迎えた作品で、マリインスキーのレパートリーには入っていないため、話し合いが長引いたようである。主にプティパが手がけた作品がプログラムを占める中、『白の組曲』はオフ・バランスや独特なアームスなど現代的な舞踊要素も随所に見られ、面白かった。

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©Andrew Lush Vaganova Ballet Academy 『白の組曲』

『パキータ』(音楽:デルデヴェス、ミンクス、ドリーゴ、振付:プティパ、改訂:ブルラーカ、ツィスカリーゼ)の3幕はプログラムの最後を締めくくるにふさわしい華やかさである。低・中学年の生徒も出演し、最も大規模な作品であった。280周年の卒業コンサートということで、マリインスキー劇場のソリストである、ヴィクトリア・テリョーシキナとコンスタンチン・ズヴェレフが特別出演を果たした。10代の生徒たちと並ぶと、マリインスキーのダンサーたちの中でもほっそりした2人でも、体格がしっかりしているのがはっきりわかる。プロとしての経験と自信に下支えされたぶれない踊りも、際立っていた。そんな2人も、かつてはこのアカデミーで学び、巣立っていったのである。ロシアで、そして世界で確固たる名声を築いたプロの2人と、未来へこれからはばたくアカデミーの若く初々しいダンサーたちの競演は、感慨深いものがあった。

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©Andrew Lush Vaganova Ballet Academy 『パキータ』3幕

280年に及び、バレエ教育の伝統を担ってきたワガノワ・バレエ・アカデミーならではの、非常にレベルが高く、見ごたえのあるゲネプロであった。付け加えておきたいのが、『時計の踊り』と『白の組曲』に出演した日本人の安齋織音の存在である。恵まれたプロポーションに繊細な踊りが美しく、将来の活躍が楽しみである。卒業後はマリインスキー・バレエ団に進路が決まっているとのこと。
プログラムのどの作品を取っても完成度が高く、基本に忠実で丁寧な踊りには、伝統への誇りと敬意が感じられた。舞台装置や衣装にも工夫が凝らされ、日頃の厳しい練習の集大成である卒業コンサートを華やかに彩っていた。この後、卒業公演は、6月12、14、16日に渡ってサンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場で、19日にはモスクワのボリショイ劇場、20日には国立クレムリン宮殿で披露された。

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