[ ロンドン ] オーシポワ、ワトソン、マトヴィエンコ、ゴメス、フォーゲル、デ・ルースがコロシアム劇場に集結した

ワールドレポート/その他

アンジェラ・加瀬
text by Angela Kase

ARDANI 25 GALA アルダーニ創設25周年記念ガラ

"ZEITGEIST" Choreography: Alastair Marriott, "TRISTESSE" Choreography: Marcelo Gomes, "FACADA " Director and Choreographer: Arthur Pita
『ツアイトゲイスト』アリステア・マリオット:振付、
『トリステッセ』マルセロ・ゴメス:振付、『ファサーダ』アーサー・ピタ:振付・監修

毎年ロイヤル・バレエがシーズンを終え、夏を迎えるとロンドンには世界各国の有名バレエ団やアーティストの来英に沸く。
今年はボリショイ・バレエやマリインスキー・バレエのロンドン・シーズンこそなかったが、サンクトペテルブルグ・バレエ・シアターがプリマ、イリーナ・コレスニコヴァをフューチャーしてボリショイ・バレエのデニス・ロヂキン、ロイヤル・バレエのワディム・ムンタギロフ、マリインスキー・バレエのキミン・キム、キエフ・バレエのナタリヤ・マッツァークをゲストに迎え『白鳥の湖』『ラ・バヤデール』を披露したし、シルヴィ・ギエムのさよなら公演、カルロス・アコスタの座長公演、マシュー・ボーン振付『ザ・カー・マン』の男性主役主演のため、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパル、マルセロ・ゴメスが客演するなど、例年通りロシアのバレエ団の引越し公演や世界的ビッグ・アーティストの主演公演が相次いだ。
そんな中でユニークな輝きを放ったのが7月17日(金)と18日(土)に行われた「アルダーニ25ガラ」と銘打ったガラ公演。これはアメリカに本拠地を構え、ディアナ・ヴィシニョーワ、ポリーナ・セミオノワやナターリア・オーシポワ、イヴァン・ワシリエフなどロシア人ダンサーによるダンス公演を手がけたり、世界のトップ男性ダンサー4人をフューチャーする「キングス・オヴ・ダンス」の英米ロシアでの公演企画を行う、アルダーニ社創設25年を祝うガラであった。

公演は3部構成で現代作品3作をロイヤル・バレエのナターリア・オーシポワとエドワード・ワトソン、デニス・マトヴィエンコ、ABTのマルセロ・ゴメス、シュツットガルト・バレエのフリーデマン・フォーゲル、ニューヨーク・シティー・バレエ(NYCB)のホアキン・デ・ルースらプリンシパル・ダンサーとロイヤル・バレエのヴェテランや精鋭が踊るというもの。
第1部で紹介されたのはロイヤル・バレエのキャラクター・ダンサーで振付家のアリステア・マリオットの世界初演作品『ツアイトゲイスト(時代精神)』。白いタンクトップとショーツを身につけ、男女の双性児さながらのオーシポワとワトソンがデュエットを踊る。ロイヤル・バレエの若手精鋭ドナルド・ソム、マルセリーノ・サンベ、トマス・モックが時にアンサンブルとなって、オーシポワとワトソン2人を彩った。振付家としてロイヤル・バレエの本拠地ロイヤル・オペラ・ハウスでこれまでたくさんの作品を発表しているマリオット。だがその多くにはウィールドンなど同時代の振付家作品の多大な影響がうかがわれ、既視感のある物が多い。この作品もオーシポワ、ワトソンなどユニークでスター性の強い踊り手を起用しながらさほど強い印象を残すことができなかったのが残念であった。

「トリステッセ」Photo/Stas Levshin

「トリステッセ」フォーゲル、デ・ルース、マトヴィエンコ、ゴメス Photo/Stas Levshin

第2部はABTのプリンシパルで近年振付も手がけるマルセロ・ゴメスが、フランスの詩人、ポール・エリュアールに触発されて作ったという作品『トリステッセ(悲しみ)』。このイギリス初演作品を踊ったのはゴメス自身とデニス・マトヴィエンコ、フリーデマン・フォーゲル、ホアキン・デ・ルースの4人。男友だちが集まり、楽しく歓談したり共に踊ったり、友情あふれる雰囲気の中、それぞれの登場人物の性格や個性がうかがわれるソロが披露される。この作品はスピード感あふれ時にコミカルな動きも交えて観客を笑わせたゴメスの振付技量に、容姿に優れた旬のダンサー4人による演舞の掛け合いが見事で非常に強い印象を残した。特にフォーゲルは速い動きの連なりを見せる場面でも始終エレガントで、芸術性あふれ踊り手としての充実を伺わせた。音楽はショパンなどバレエやクラシック音楽ファンなら一度は耳にしたことのある名曲を使い、それも作品の魅力を高めていた。ゴメス振付作品はこれまでイギリスではあまり紹介される機会がなかったが、この作品を観て振付家としてのマルセロ・ゴメスに興味を持った英バレエ関係者やファンも多かったことであろう。

第3部はアーサー・ピタ振付・監修作品の『ファサーダ』。先だってアルダーニ社によるオーシポワとワシリエフの共演企画で世界初演された作品で、ワシリエフ扮する男性と結婚する予定の花嫁(オーシポワ)が結婚式の最中に男性に逃げられる、という設定。出演はオーシポワ、ワシリエフとロイヤル・バレエのエリザベス・マクゴリアンの3人。今回紹介された作品中唯一ストーリーがあるとはいえ、結婚相手に逃げられたオーシポワが大声をあげて号泣し続ける場面など、観客の視聴覚にたいへんインパクトが強く、バレエ・ファンの間で好き嫌いが分かれた。
バレエ関係者にとっては豪華な配役でユニークな作品を観る事が出来、たいへん興味深かったが、一般客には『ツアイトゲイスト』と『ファサーダ』のような現代作品は難解だったのではないか。

「ファサーダ」オーシポワ、ワシリエフ Photo/Doug Gifford

「ファサーダ」オーシポワ、ワシリエフ 
Photo/Doug Gifford

劇場はアルダーニ社による企画公演が毎回行われるコロシアム劇場。現代作品でロイヤル・オペラ・ハウスとほぼ同じ集客数を誇るコロシアムを満席にするのは至難の業で、ヴィシニョーワによる座長公演やオーシポワとワシリエフによるコラボ公演など、最近のアルダーニ社企画公演の多くが集客に苦戦した。このガラ公演も2日とも満席にはならずアルダーニ社に今後の課題を投げかけた結果となったようだ。
(2015年7月17日 ロンドン、コロシアム劇場)

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