第26回ブノワ賞はボリショイ・バレエの『ヌレエフ』が主要4部門を独占!!

ワールドレポート/ロシア

香月 圭 text by Kei Kazuki

バレエ界のアカデミー賞とも称される第26回ブノワ賞の結果が発表された。世界中の13のバレエ・カンパニーから選ばれた26名の候補者のなかから2017年12月にボリショイ劇場で世界初演された話題作『ヌレエフ』が振付・作曲・舞台美術・男性ダンサーの主要4部門を独占するという、ブノワ賞始まって以来初めての結果となった。
2017年7月に世界初演が予定されていた『ヌレエフ』は突然上演延期が発表された。同性愛の描写を過激すぎると文化相が懸念したからだともいわれる。さらにこの作品の舞台美術監督キリル・セレブニンコフが芸術関連国家予算を横領した容疑で2017年8月に逮捕され、『ヌレエフ』のリハーサルに参加することは叶わなくなった。彼は現在も自宅軟禁中だ。主役のヌレエフを演じて見事ブノワ賞の栄冠に輝いたボリショイ・バレエのウラディスラフ・ラントラートフは「私を信じてヌレエフ役を任せてくれたキリル・セレブニンコフに感謝したい。彼が昨年7月の通し稽古を観てくれてよかった。ぜひご自分の作品の上演が観られる日が来るのを心待ちにしています。」(ラントラートフのインスタグラムより)と喜びの声をSNSに投稿した。
今回、ブノワ賞の創設者であり審査委員長のグリゴローヴィチが不在となったため、ボリス・エイフマンが選考の責任者となった(2018.6.6エレーナ・ヴォロシロワ"ロシア-K" )。「それぞれの審査員が推薦するので、一致した結論へ至るのは非常に難しい。...(中略)...審査員一人一人のために議論を活発に戦わせる必要がある」とエイフマンは語っている(2018.6.4"ロシア-K")。
女性ダンサーはパリ・オペラ座プルミエール・ダンスーズのパク・セウンがバランシンの「ダイヤモンド」の演技で最優秀賞を射止めた。韓国人では4人目の受賞となる(中央日報2018年6月6日)。
男性ダンサーでは、ラントラートフのほかにイングリッシュ・ナショナル・バレエのイサック・エルナンデスがローラン・イレールとバリシニコフによる新演出版『ドン・キホーテ』、ブルノンヴィルの『ラ・シルフィード』の踊りが高く評価され、メキシコ人として初のブノワ賞最優秀男性ダンサーに選ばれた(2018.6.4メキシコ・ニュース・デイリー)。
ユーリ・ポソホフと並んで振付家部門で受賞したデボラ・コルカーは、ブラジル出身の振付家・ダンサーで作家、演出家でもある。2001年にローレンス・オリヴィエ賞受賞、2016年リオ五輪開会式で6000人のボランティアを統括したダンスを担当した。受賞対象となった作品『The Dog without Feathers』はブラジルのジョアン・カブラル・デ・メロ・ネトの詩をテーマにしたもの。
ボリショイ劇場では授賞式と本年度受賞者と候補者のガラ・コンサートが6月5日に行われた。授賞式の司会はラジオ・パーソナリティーのエレーナ・イスチェーエワと俳優のパーヴェル・ヴァシュチーリン。ナタリア・マカロワは芸術における生涯功労賞を受賞したが、賞の規則によってこのブノワ賞の授与は来年(2019年)行われる」予定とのこと。「アートにおける人生はずっと続いていくのですから」とイスチェーエワが結んだ(2018年6月5日タス)。
また過去の受賞者・候補者たちによるガラ・コンサートが6月6日に行われ、両日とも19世紀末~20世紀初頭のプティパが活躍した時代の伝統的なクラシック・バレエからコンテンポラリー・ダンスの最前線を切り拓いていくコレオグラファーたちによる最新の作品が今をときめくダンサーたちによって踊られた。
6月5日のガラではウィールドンの『不思議の国のアリス』の演技で男女ペア同時にノミネートされたオーストラリア・バレエの近藤亜香とケヴィン・ジャクソンがラトマンスキー版『シンデレラ』のデュエットをボリショイ劇場の舞台で披露した。また同じ5日のガラにクレムリン・バレエの小池沙織も『エスメラルダ』パ・ド・シスに出演した。
司会のイスチェーエワは今回のノミネート作品の特徴として「男性デュエットの時代」(イスチェーエワFacebook)と述べた。『ヌレエフ』からの抜粋でタイトル・ロールを演じたラントラートフとエリック・ブルーン役のデニス・サーヴィンのデュエット、また男性ダンサー部門でノミネートされていたマライン・ラドマーカーの『Two and Only』も男性二人の踊りで、伝統的な男女のパ・ド・ドゥを見慣れている観客には目新しく感じられたことだろう。
6月6日のガラ・コンサートではプティパ生誕200周年を記念して新進気鋭のコレオグラファーたちがプティパ作品を再解釈したラディカルな作品も上演された。

【第26回ブノワ賞ノミネートおよび受賞結果】(★が受賞者)

◇振付家
・マルコ・ゲッケ『Wir sagen uns Dunkles』 ネザーランド・ダンス・シアター2
・ローラン・イレール/ミハイル・バリシニコフ『ドン・キホーテ』 ローマ歌劇場バレエ
★デボラ・コルカー『The dog without Feathers』カンパニー・デボラ・コルカー
・ティエリー・マランダン『ノア』 バレエ・マランダン・ビアリッツ
・ジョン・ノイマイヤー『アンナ・カレーニナ』ハンブルク・バレエ
★ユーリー・ポソホフ『ヌレエフ』ボリショイ・バレエ
・アレクサンダー・エクマン『Play』パリ・オペラ座バレエ

◇女性ダンサー
・アマンダ・ゴメス『エスメラルダ』のタイトル・ロール カザン歌劇場バレエ
・ドリュー・ジャコビ『カフェ・ミュラー』ロイヤル・フランダース・バレエ
・ユルギータ・ドロニナ『ラ・シルフィード』のタイトル・ロール、『ロミオとジュリエット』のジュリエット イングリッシュ・ナショナル・バレエ
・スヴェトラーナ・ザハーロワ『イワン雷帝』アナスタシア ボリショイ・バレエ
・近藤 亜香『不思議の国のアリス』のタイトル・ロール オーストラリア・バレエ
★パク・セウン「ダイヤモンド」パリ・オペラ座バレエ

◇男性ダンサー
・ケヴィン・ジャクソン『不思議の国のアリス』ハートのジャック オーストラリア・バレエ
・ダニエル・カマルゴ『室内交響曲』オランダ国立バレエ、『ラ・バヤデール』のソロル 東京バレエ団
★ウラディスラフ・・ラントラートフ『ヌレエフ』のタイトル・ロール ボリショイ・バレエ
・パブロ・レガサ『ヘルマン・シュメルマン』 パリ・オペラ座バレエ
・マライン・ラドマーカー『Two and Only』オランダ国立バレエ
・ミケーレ・サトリアーノ『カルメン』のドン・ホセ ローマ歌劇場バレエ
★イサック・エルナンデス『ドン・キホーテ』のバジル ローマ歌劇場バレエ、『ラ・シルフィード』のジェイムズ イングリッシュ・ナショナル・バレエ

◇作曲家
★イリヤ・デムツキー『ヌレエフ』ボリショイ・バレエ
・ジョルジ・デュ・ペイシュ、ベルナ・セッパス(Jorge Du Peixe, Berna Seppas)『The Dog Without Feathers』デボラ・コルカー・カンパニーDeborah Kolker troupe

◇舞台美術家
・グリンゴ・カルディア『The Dog Without Feathers』デボラ・コルカー・カンパニー
★キリル・セレブニンコフ『ヌレエフ』ボリショイ・バレエ

◇審査員
・ユーリー・グリゴロヴィチ(審査委員長)
・エレオノーラ・アバニャート(パリ・オペラ座バレエ エトワール、ローマ歌劇場バレエ芸術監督)
・ボリス・エイフマン(エイフマン・バレエ芸術監督)
・ノナ・エステベス(リオ・デ・ジャネイロ市民劇場バレエ団元プリマ・バレリーナ、振付家およびコーチ)
・ニコラ・ル=リッシュ(スウェーデン王立バレエ芸術監督)
・デヴィッド・マカリスター(オーストラリア・バレエ芸術監督)
・タマラ・ロホ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ プリマ・バレリーナおよび芸術監督)
・サミュエル・ウエルステン(オランダ・ダンス・フェスティバル・ディレクター)
 
【2018年ブノワ賞候補者によるチャリティー・ガラ・コンサート/2018年6月5日】
◆第一部
『アンナ・カレーニナ』より抜粋
振付:J.ノイマイヤー(ブノワ賞二度受賞、今回三度目ノミネート)
音楽:P.チャイコフスキー
出演:アンナ・ラウデール(ハンブルク・バレエ)エドウィン・レヴァツォフ(ハンブルク・バレエ)ダリア・ホフロワ(ボリショイ・バレエ)
『真夜中のラーガ Midnight Raga』モスクワ初演
音楽:R.シャンカー、E.ジェイムズ
振付:マルコ・ゲッケ
出演:ミゲル・デ・カルヴァルホ(ネザーランド・ダンスシアター2)グイド・デュティル(ネザーランド・ダンスシアター2)
『シンデレラ』よりデュエット
音楽:S.プロコフィエフ
振付:A.ラトマンスキー(ブノワ賞二度受賞)
出演:近藤亜香(2018年度ノミネート、オーストラリア・バレエ)ケヴィン・ジャクソン(2018年度ノミネート、オーストラリア・バレエ)
『カルメン』よりカルメンとドン・ホセのデュエット
音楽:G.ビゼー
振付:R.プティ(過去ブノワ賞受賞)
出演:ナタリア・クシュチュ(ローマ歌劇場バレエ)ミケーレ・サトリアーノ(2018年度ノミネート、ローマ歌劇場バレエ)
「エメラルド」よりヴァリエーション
音楽:G.フォーレ
振付:G.バランシン
出演:パク・セウン(2018年度ノミネート、パリ・オペラ座バレエ)
『Two and Only』モスクワ初演
音楽:M.ベンジャミン
振付:W.カウンダースマ
出演:マライン・ラドマーカー(2018年度ノミネート、オランダ国立バレエ)ティモシー・ファン・プッケ(オランダ国立バレエ)
『エスメラルダ』よりパ・ド・シス
音楽:R.ドリーゴ
振付:M.プティパ
出演:アマンダ・ゴメス(2018年度ノミネート、タタール国立歌劇場バレエ)ミハイル・ティマーエフ(タタール国立歌劇場バレエ)アリーナ・カイチェワ(クレムリン・バレエ)小池 沙織(クレムリン・バレエ)ヴァレリア・ポベジンスカヤ(クレムリン・バレエ)エカテリーナ・チェクリゲワ(クレムリン・バレエ)
◆第二部
『ロミオとジュリエット』よりデュエット
音楽:S.プロコフィエフ
振付:N.デュアト(過去ブノワ賞受賞)
出演:ポリーナ・セミョーノワ(ベルリン国立バレエ)イワン・ザイツェフ(ミハイロフスキー劇場バレエ) 
『Tué』モスクワ初演
音楽:バルバラ
振付:マルコ・ゲッケ(2018年度ノミネート)
出演: ドリュー・ジャコビ(2018年度ノミネート、ロイヤル・フランダース・バレエ)
『一日の終わりに At the End of the Day』世界初演
音楽:S.ブリョーシュカ
振付:D.ドーソン(過去ブノワ賞受賞)
衣装:クロエ
出演:マリア・コチェトコワ(ブノワ賞ノミネート&ブノワ=マシーン賞2018受賞、サンフランシスコ・バレエ)セバスティアン・クロボー(デンマーク王立バレエ)
※この作品の音楽、振付、衣装は第26回ブノワ賞受賞。
『ヘルマン・シュメルマン』から抜粋
音楽:T.ウィレムス
振付:W.フォーサイス(過去ブノワ賞受賞)
出演:パブロ・レガサ(パリ・オペラ座バレエ)
『エスメラルダ』「ディアナとアクティオン」パ・ド・ドゥ
音楽:C.プーニ
振付:A.ワガノワ
出演:マイア・マハテリ、ダニエル・カマルゴ(2018年度ノミネート、オランダ国立バレエ)
『ヌレエフ』よりルドルフとエリックのデュエット
音楽:I.デムツキー(2018年度受賞)
振付:ユーリー・ポソホフ(2018年受賞)
出演:ウラディスラフ・ラントラートフ(2018年度受賞、ボリショイ・バレエ)デニス・サーヴィン(ボリショイ・バレエ)
『3つのグノシエンヌ』
音楽:E.サティ
振付:H.ファン・マーネン(ブノワ賞2回受賞)
出演:リュドミラ・パリエロ(パリ・オペラ座バレエ)マライン・ラドマーカー(オランダ国立バレエ)、ピアノ演奏:ヴァレリア・カシュロフスカヤ
『ドン・キホーテ』よりパ・ド・ドゥ
音楽:L.ミンクス
振付:A.ゴルスキー
出演:ユルギータ・ドロニナ(2018年度ノミネート、イングリッシュ・ナショナル・バレエ)イサック・エルナンデス(2018年度ノミネート、イングリッシュ・ナショナル・バレエ)

【Vivaプティパ! 現代の振付家の目を通したクラシック
ブノワ賞歴代受賞者たちによるガラ・コンサート/2018年6月6日】
◆第一部
『眠れる森の美女』よりカラボスのヴァリエーション モスクワ初演
音楽:P.チャイコフスキー
振付:M.ハイデ(過去ブノワ賞受賞)
出演:イ・ジェウ(過去ブノワ賞ノミネート、韓国国立バレエ)
『眠れる森の美女』より「6人の妖精のヴァリエーション」 世界初演
音楽:P.チャイコフスキー
振付・出演:ドリュー・ジャコビ(2018年度ノミネート、ロイヤル・フランダース・バレエ)
『眠れる森の美女』よりパ・ド・ドゥ
音楽:P.チャイコフスキー
振付:M.プティパ
出演:マリア・コチェトコワ(過去ブノワ賞ノミネート、ブノワ=マシーン賞受賞、サンフランシスコ・バレエ)ルスラン・スクヴォルウォフ(ボリショイ・バレエ) 
『ファウスト』より抜粋 世界初演
音楽:Ch.グノー
振付:イワン・ワシーリエフ
出演:マリア・ヴィノグラードワ(ボリショイ・バレエ)イワン・ワシーリエフ(ミハイロフスキー劇場バレエ)デニス・サーヴィン(ボリショイ・バレエ)
『Dear One』世界初演
音楽:A.グラズノフ
振付:R.ヴォートマイヤー
音楽:イホーネ・デ・ヨンホ (過去ブノワ賞ノミネート、オランダ国立バレエ)
出演:ダニエル・カマルゴ(2018年度ノミネート、オランダ国立バレエ)
『プティパのパ Pas de Petipa』世界初演
音楽:チャイコフスキー
振付:K.ズヴェレワ
出演: オクサーナ・スコーリク(マリインスキー・バレエ)ザンダー・パリッシュ(マリインスキー・バレエ)
『ドン・キホーテ』よりパ・ド・ドゥ
音楽:L.ミンクス
振付:A.ゴルスキー、V.ウラーテ版
出演:ポリーナ・セミョーノワ(過去ブノワ賞受賞、ベルリン国立バレエ、ミハイロフスキー劇場バレエ)、イワン・ザイツェフ(ミハイロフスキー劇場バレエ)
第二部
『ジゼル』よりパ・ド・ドゥ
音楽:A.アダン
振付:M.プティパ
出演:エフゲーニャ・オブラスツォーワ(過去ブノワ賞ノミネート、ボリショイ・バレエ)デヴィッド・モッタ・ソアレス(ボリショイ・バレエ)
『白鳥の湖』よりデュエット モスクワ初演
音楽:P.チャイコフスキー
振付:D.ドーソン(過去ブノワ賞受賞)
出演:ソフィアーヌ・シルヴェ(過去ブノワ賞ノミネート、サンフランシスコ・バレエ)カルロ・ディ・ランノ(サンフランシスコ・バレエ)
『タリスマン』よりパ・ド・ドゥ
音楽:R.ドリーゴ
振付:M.プティパ
出演:タチアナ・メルニク(ハンガリー歌劇場バレエ)ブルックリン・マック(過去ブノワ賞ノミネート、ワシントン・バレエ)
『カルメン』よりデュエット モスクワ初演
音楽:G.ビゼー
振付:V.ウラーテ
出演:ルシア・ラカッラ(過去ブノワ賞ノミネート、ヴィクトール・ウラーテ・バレエ)ホスエ・ウラーテ(ヴィクトール・ウラーテ・バレエ)
『くるみ割り人形』よりデュエット モスクワ初演
音楽:P.チャイコフスキー
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ(過去ブノワ賞受賞)
出演:ナターリア・オシポワ(過去ブノワ賞受賞、英国ロイヤル・バレエ)ジェイソン・キッテルバーガー(イーストマン・カンパニー)
『ラ・バヤデール』よりグラン・パ
音楽:L.ミンクス
振付:M.プティパ
出演:アンジェリーナ・ヴォロンツォワ(ミハイロフスキー劇場バレエ)デニス・ロヂキン(過去ブノワ賞受賞、ボリショイ・バレエ)アナスタシア・デニソワ(ボリショイ・バレエ)オリガ・キシヨワ(ボリショイ・バレエ)アナ・トラザシヴィリ(ボリショイ・バレエ)ヴィクトリア・ヤクーシェワ(ボリショイ・バレエ)カリム・アブドゥーリン(ボリショイ・バレエ)ドミトリー・エフレーモフ(ボリショイ・バレエ)

ブノワ賞公式サイトPrix Benois de la Danse
http://benois.theatre.ru/en/

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