[ロンドン]ロイヤル・バレエの新シーズンは『リーズの結婚』をモレーラ/ムンタギロフなどの6組のキャストが踊って開幕
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- アンジェラ・加瀬
- text by Angela Kase
The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
"La Fille Mal Gardee" Choreographed By Frederick Ashton
『リーズの結婚』フレデリック・アシュトン:振付
ロシアや欧米ではバレエやオペラのシーズンは秋に始まり初夏に終わりを告げる。開幕の時期はその年によるが9月下旬であることが多く、各国の著名バレエ団は、新作世界初演や名作のリバイバルでシーズン初めを華々しく彩る。また初日に主役を務めるのは通常各バレエ団芸術監督や作品の振付家が最も高く評価するダンサーたちだ。
今年は夏に3週間5演目にも及ぶボリショイ・バレエの3年ぶりの引っ越し公演があった関係で、真夏にクライマックスを迎えた感のあったイギリス・バレエ界だが、その後の夏休みを経て9月27日にロイヤル・バレエの『リーズの結婚』で2016・17年新バレエ・シーズンが開幕した。
今回バレエ団はこの『リーズの結婚』を、ラウラ・モレーラとヴァディム・ムンタギロフ、ナターリア・オーシポワとスティーヴン・マックレー、フランチェスカ・ヘイワードとマルセリーノ・サンベ、崔由姫とヴァレンティーノ・ズケッティ、マリアネラ・ヌニェズとヴァディム・ムンタギロフ、ロベルタ・マルケスとアレクサンダー・キャンベルの6配役で11公演を行っているが、初日を務めたのはモレーラとムンタギロフ組であった。
通常ロイヤル・バレエ団は、各演目の初日数日前に初日の配役のドレス・リハーサルを契約書を交わしている舞台写真家約10名ほどに撮影させ、初日当日は英五大新聞やダンス雑誌の舞台評論家を招待して舞台評を書かせて、作品や公演を新聞・雑誌で紹介させている。だが、昨年『リーズの結婚』を上演した際のゲネプロ撮影がモレーラ・ムンタギロフ組であったため、今回の撮影は初日キャストではなく、セカンド・キャストの崔由姫とヴァレンティーノ・ズケッティのゲネプロが撮影対象となった。これは初日当日の朝11時半から、ロイヤル・バレエやロイヤル・オペラのサポーターが年会費を払って会員になっているコベントガーデン友の会会員が観客として見守る中、ほぼ公演に近い形で行われたドレス・リハーサルであった。
Photo (C) Angela Kase ROH2016
9月27日11時30分からのゲネプロを撮影し、初日の夜の舞台を鑑賞した。
新シーズン開幕初日の配役は、リーズをモレーラ、コーラスをムンタギロフ、リーズの母シモーネ未亡人をトマス・ホワイトヘッド、ワイン農園を持つ豪農トーマスをギャリー・エイヴィス、その息子のアランをポール・ケイ、雄鶏をトリスタン・ダイアーが演じ踊った。
舞台の幕が開き男性群舞と共に華やかな衣装に身を包んだムンタギロフが元気に登場すると、ロイヤル・オペラ・ハウスの観客から大きな拍手がわき起こった。農夫にはやや線が細い王子タイプのムンタギロフだが、溌剌とした若さと明るい笑顔の持ち主である彼には、このアシュトンのコメディ・バレエがよく似合う。相手役のモレーラとはだいぶ年の差があるはずなのだが、ダリア・クリメントヴァと踊っていた時もそうであったように、なぜか観客の目には自然に映るのだから不思議である。
ムンタギロフは、1幕でリーズと出会った直後の大きな跳躍や、見どころの一つである酒瓶を両手に持って踊るボトル・ダンスでの跳躍の数々とアシュトン作品特有の小さなステップに、持ち前のダイナミズムと清潔な足さばきを見せ、パ・ド・ドゥのコーダのグラン・フェッテはすべてダブルでまとめるなど、初日を任されるにふさわしい技量を披露した。ソロのみならず片手リフトや相手役へのサポートでも現在、世界最高レベルの踊り手であることを見事に証明して見せた。
リーズ役はヴェテラン・プリンシパルのモレーラにとって当たり役の一つ。若き相手役ムンタギロフと共に1幕のピンクのリボンを使った場面で見せるソロやあやとりのデュエット、踊り手のスタミナが問われる数々のソロやパ・ド・ドゥを難なくまとめ、2幕の自宅の居間でコーラスが潜んでいるとは知らずに、彼との幸せな将来を夢見るマイムでも辛口の英バレエ批評家から玄人ファンまでを満足させた。
この配役は、シモーネ未亡人のホワイトヘッドや豪農トーマス役のエイヴィスと息子アラン役のポール・ケイから結婚証明書を持って現れる村の役人のベネット・ガートサイドまで、これでもかというほど芸達者が揃い、彼らの存在がまたこの作品の愉快さを特別な物にしていた。
Photo (C) Angela Kase ROH2016(すべて)
Photo (C) Angela Kase ROH2016
崔由姫とヴァレンティーノ・ズケッティ組は9月30日の2日目にこの作品を主演。残念ながら筆者のスケジュールの関係で当日の公演を観ることはかなわなかったが、初日、数時間前に撮影した舞台写真をお楽しみいただければ幸いである。『不思議の国のアリス』や『シンデレラ』のタイトル・ロールや『リーズの結婚』のリーズといった少女を踊る崔由姫は常に可憐で愛らしい。コベントガーデン友の会のメンバーであるイギリス人にも彼女のファンは多く、ゲネプロでも登場するやパ・ド・ドゥ、そしてカーテン・コールで熱心なファンから大きな拍手が送られた。
やはりスケジュールの関係で公演を観ることが叶わなかったフランチェスカ・ヘイワードとマルセリーノ・サンベ組も若さと技量で素晴らしいパフォーマンスを繰り広げたのではないだろうか。
今シーズンから平野亮一と高田茜の2人も加わり、ますます国際色豊かになったプリンシパルと期待の若手によるロイヤル・バレエのパフォーマンスを、今シーズンもたくさんのオリジナル写真と共にご紹介してゆきたい。
(2016年9月27日 ロイヤル・オペラ・ハウス 9月27日のドレス・リハーサルを撮影)
写真に登場するダンサー
リーズ 崔由姫
コーラス ヴァレンティーノ・ズケッティ
シモーネ未亡人 ジョナサン・ハウエルズ
トーマス アリステァ・マリオット
アラン トリスタン・ダイアー
英国ロイヤル・バレエ団『リーズの結婚』 Photo (C) Angela Kase ROH2016