ささやかな幸せを理不尽に奪われてしまった人々のそれでも失われることのない命の強さを描いた新作『まつろわぬものたちのまつり』──菊本千永モダンダンスステージVI

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

菊本千永モダンダンスステージVI

菊本千永:振付(『まつろわぬものたちのまつり』)

藤田佳代舞踊研究所モダンダンス公演として研究所のダンサーたちが出演しての「菊本千永モダンダンスステージVI」。前半には、藤田佳代作舞(部分的に若手たちが振付を手掛けた様子)の『雨の庭で』が再演されたが、筆者はスケジュールの都合で、後半の菊本千永の新作『まつろわぬものたちのまつり』のみの鑑賞となった。

『まつろわぬものたちのまつり』は三部作。"まつろわぬもの"というのは"服従しないもの"という意味だと言い、天災や人災──さまざまなことによって、ささやかな幸せや願い、それらを包んでいた生活が理不尽に奪われた人々の、それでも失われない命の強さを描こうと取り組んだとプログラムに記されている。

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『まつろわぬものたちのまつり』
イザナミの娘たち
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『まつろわぬものたちのまつり』
イザナミの娘たち
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

まず一部は「イザナミの娘たち」白い衣裳に身を包んだ実力派のベテランを中心とした7人が静かに踊る。木製だろうか、素朴な面を顔に当てるなどしながら。本来の自分でいられるかどうかを模索しているような。この面は、この後もずっと使われる。二部は、能に想を得た『土蜘蛛』。若手も加わり14人がグリーンのレオタードにブラウンのフレアーパンツ姿で。面を当てると苦しみ、面を外し対峙する姿が眼に残る。基本的に素朴な動きで構成されており、踊りの技術を披露するというよりも、"何を表現したいのか"を最も大切にしていることが感じられる。

そして三部、ラストが『不知火』。公害による水俣病を描いた。日本女性の清らかさを引き立たせる白い薄布の衣裳姿でのしなやかな女性群舞、そうでありながら、芯の意志は貫くと感じられる強さが伝わる──なかでも、作舞者であり、全体の中心を踊った菊本の、静かな佇まいのなかに様々な思いを秘めていることが滲み出る集中度の高い踊り。加えて、画家・髙濱浩子の現代美術。実際に水俣に行って話を聞き、感じたものを表現したという作品の前でダンサーたちが踊った。最初に出る面は勢いを持って花々が咲いているかにも感じられる色調、それが裏返されると、赤やオレンジなどを主とした大きな楕円に。"不知火"を描いていると同時に"命"を描いているのだろう。
(11月16日、神戸ファッション美術館オルビスホール)

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『まつろわぬものたちのまつり』土蜘蛛
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『まつろわぬものたちのまつり』不知火
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『まつろわぬものたちのまつり』
不知火
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『まつろわぬものたちのまつり』
不知火
美術:髙濱浩子 アトリエTETSU
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『まつろわぬものたちのまつり』土蜘蛛
菊本千永
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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『雨の庭で』
撮影:中野良彦、写真提供:藤田佳代舞踊研究所

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